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感想:『彩雲国物語 黎明に琥珀はきらめく』

2009年11月01日 22時03分17秒 | 彩雲国物語
彩雲国物語  黎明に琥珀はきらめく (角川ビーンズ文庫)彩雲国物語 黎明に琥珀はきらめく (角川ビーンズ文庫)
価格:¥ 500(税込)
発売日:2008-05-01


長編としては13作目。
楸瑛の問題がとりあえず一段落したら今度は絳攸。劉輝が信頼を寄せる二人が相次いで厳しい立場に置かれる。

『彩雲国物語―隣の百合は白』に収録された「地獄の沙汰も君次第」が本書と深く繋がっている。絳攸、黎深、百合姫の強い絆はそれがあってこそ。
シリアスな展開の中にも、秀麗が清涼剤として機能している。黎深に対して嫌われてるかも発言や、絳攸が目覚めた後のやり取りの妙は素晴らしい。

シリーズとしていよいよ佳境といった感じになってきた。数多い登場人物それぞれの想いが描かれながらも、依然として謎も秘められ、これからの展開が気になるばかり。執筆ペースは落ちているようだが、それも仕方ないと思わせる密度を維持している。既刊が残り2冊となり、追い付けそうなところまで来ただけに、リアルタイムに今後の展開をわくわくできそうで楽しみだ。




これまでに読んだ雪乃紗衣の本の感想。(☆は評価/最大☆10個)

彩雲国物語―はじまりの風は紅く』(☆☆☆)
彩雲国物語―黄金の約束』(☆☆☆☆)
彩雲国物語―花は紫宮に咲く』(☆☆☆☆☆)
彩雲国物語―想いは遙かなる茶都へ』(☆☆☆☆)
彩雲国物語 漆黒の月の宴』(☆☆☆☆)
彩雲国物語 朱にまじわれば紅』(☆☆☆☆☆)
彩雲国物語 欠けゆく白銀の砂時計』(☆☆☆☆☆)
彩雲国物語 心は藍よりも深く』(☆☆☆☆☆☆)
彩雲国物語 光降る碧の大地』(☆☆☆☆☆☆☆)
彩雲国物語 藍より出でて青』(☆☆☆☆☆☆)
彩雲国物語 紅梅は夜に香る』(☆☆☆☆☆☆)
彩雲国物語―緑風は刃のごとく』(☆☆☆☆☆☆)
彩雲国物語―青嵐にゆれる月草』(☆☆☆☆☆)
彩雲国物語―白虹は天をめざす』(☆☆☆☆☆☆)
彩雲国物語―隣の百合は白』(☆☆☆☆☆)


感想:『六の宮の姫君』

2009年11月01日 21時41分23秒 | 北村薫
六の宮の姫君 (創元推理文庫)六の宮の姫君 (創元推理文庫)
価格:¥ 609(税込)
発売日:1999-06


シリーズ4作目だが、異色作と言える作品。

これまで「日常の謎」を扱ってきたが、本書で語られるのは文学史上の謎と言うべきもの。それを単純に知的好奇心から解き明かす(卒論との絡みもあるけれど)。
円紫さんは《私》の卒論指導教官のような役回り。

このシリーズの魅力のひとつに、博覧強記な文学知識があり、それは日本文学のみならず海外の様々な作品にまで及んだ。本書では芥川龍之介を軸に、主に大正期の文壇を舞台とした謎解きが演じられる。卒論の書き方を一冊の小説にしたような感じだ。

シリーズものとして、がっちりと築いた世界観があるからこそ出来た面もあるだろう。シリーズとしての部分の楽しみ、つまり、キャラクターの成長という点ではさほど大きなドラマが起きたわけではないが、それでも主人公の《私》の就職内定という人生上の一大事は発生した。

文学についてはほんのわずかにかじった程度で、芥川さえろくに読んでいない。文学作品の普遍性に対して懐疑的なので、正直本書で語られた文学論について共感はできない。菊池寛については面白く感じたが。




これまでに読んだ北村薫の本の感想。(☆は評価/最大☆10個)

空飛ぶ馬』(☆☆☆☆☆)
夜の蝉』(☆☆☆☆☆)
秋の花』(☆☆☆☆☆☆)


感想:『秋期限定栗きんとん事件 下』

2009年11月01日 21時13分18秒 | 本と雑誌
秋期限定栗きんとん事件 下 (創元推理文庫 M よ 1-6)秋期限定栗きんとん事件 下 (創元推理文庫 M よ 1-6)
価格:¥ 609(税込)
発売日:2009-03-05


上巻を読んでから1ヶ月半。ようやく下巻を読んだ。

はっきり言って、主人公の小鳩は嫌いだ。ゼロ年代男性主人公の典型。実はこの下巻でそこから逸脱していくが、それでも彼への評価は変わらない。
上巻同様、新聞部の新しい部長となった瓜野と小鳩が交互に一人称視点の主人公を務めている。小鳩の言うところの「小市民」に過ぎない瓜野は愚かな存在だ。頭も回らない。自分勝手だ。それでもそんな瓜野の方が小鳩よりも遥かに好感が持てる。

これまで小鳩は「小市民」でありたいと望んでいた。「小市民」たちを蔑みながら。この巻で、自分が「小市民」のままでいられないとはっきりと自覚する。「小市民」は「小市民」でありたいなんて望まないのだから当然だ。

本書に漂う嫌な空気。それは、愚かな「小市民」を見下す視線。読み手もまたそれを共有している。
読者が「小市民」ではない側に立ち、「小市民」をあざ笑う構造。小鳩と共感することはその構造に従うこと。それが透けてしまうから、楽しめない。
小鳩に対して「何様のつもり?」と言いたくなるのは、私が「小市民」だからだろう。だが、私にはそれしか言葉が見つけられない。




これまでに読んだ米澤穂信の本の感想。(☆は評価/最大☆10個)

春期限定いちごタルト事件』(☆☆☆☆)
夏期限定トロピカルパフェ事件』(☆☆)
秋期限定栗きんとん事件〈上〉』(☆)


感想:『シリコンバレーから将棋を観る -羽生善治と現代』

2009年11月01日 20時40分15秒 | 本と雑誌
シリコンバレーから将棋を観る -羽生善治と現代シリコンバレーから将棋を観る -羽生善治と現代
価格:¥ 1,365(税込)
発売日:2009-04-24


『ウェブ進化論』で知られる梅田望夫による将棋タイトル戦観戦記、及び将棋界、インターネット、日本社会について述べた著。
7月1日に図書館に予約して届くまで3ヶ月掛かった。予約する前、本書第2章に収録されている棋聖戦の観戦記をネットで読んだ。それを読んだからこそ借りて読みたくなった本。

著者は自身を「指さない将棋ファン」だと言う。将棋ファンは一般に普段将棋を指して楽しむ人のことを指す。そのため優れた将棋ファンとは高い棋力を持ったファンだと見なす空気がある。一方、棋士のファンやタイトル戦だけに関心を示すミーハー的な「観て楽しむ将棋ファン」は軽んじられる空気があった。
しかし、著者が述べるように、スポーツや演劇、音楽など様々な分野で、実際にそれを行うファンよりも鑑賞して楽しむファンが多かったりする。そうしたファンが底辺を支えていると言ってもいい。将棋もまた、強くなるための時間を割けるファンばかりではないし、そもそももっと間口を広げていいはずだ。

実は私も著者と全く同じ「指さない将棋ファン」である。子供の頃は友達と将棋を指したりしていたが、やがて実戦から遠ざかった。私の場合、スポーツ観戦の延長線上として将棋を観戦した。NHK-BSで放送される名人戦や竜王戦の中継を楽しみにしていた。
著者の将棋ファンに対するこの意見には全面的に賛成である。著者以上に棋力が低いと思われる私にとって、それでも将棋ファンと名乗れるのならそれはそれで楽しいことだ。まあ著者ほど熱心にタイトル戦を注視しているわけではないのだけれど。

熱心ではないが、昔から付かず離れずで将棋界を見てきたので、棋士の凄さについては相応の認識をしているつもりだ。特に、羽生善治が現代日本において突出した人物であることに何の疑いも持っていない。
本書でも羽生の凄さを丁寧に描いている。単なる強さではなく、何を求め、何を目指しているのかまで。単なるファンのレベルに留まらぬ卓見がそこにはある。
将棋や将棋界に詳しくなくとも、本書を読むことで得られるものはあるだろう。著者の書いたものを読むのは恐らく初めてなのだが、優れた書き手であることは非常によく伝わってくる。

羽生以外にも、佐藤康光、深浦康市、渡辺明と現代将棋界を代表する棋士たちの話が魅力的に語られる。2008年の将棋界の動向などと合わせて、彼らの戦いと著者の分析はとても興味深い。
「観て楽しむ将棋ファン」になるためには、見せる側の工夫が必要だ。それとともに、見る側にも観戦術が必要となる。それは見る側のレベルに応じて異なる。好きに観ればいいというだけでは、なかなか面白さは伝わらない。押さえるべきポイントやコツが要る。それらを丁寧に導く存在として著者の観戦記はうってつけだと言えるだろう。
将棋を「観る」面白さを広めて欲しい。それは私にとっても幸いなことだから。