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感想:『零崎軋識の人間ノック』

2009年08月13日 21時38分55秒 | 本と雑誌
零崎軋識の人間ノック (講談社ノベルス)零崎軋識の人間ノック (講談社ノベルス)
価格:¥ 1,260(税込)
発売日:2006-11-08


「戯言」シリーズ本編のサブキャラクターたちの活躍を描く外伝的作品の第2弾。本編では活躍の機会が少ないまま死んでしまったキャラクターが大勢おり、彼ら彼女らの勇姿を描く意味があるため、当然の如く舞台は過去となる。そして、死期は本編に明示されている。その結果、キャラクターたちの「ままごと遊び」といった呈をさらしてしまった。

死ぬわけにはいかないキャラクターたちの死闘が死闘なわけがなく、死闘でない死闘を読んで楽しめるとは言いがたく、ファンの要望に応えたものだとしてもエンターテイメントとしての出来は最低の部類となる。あっけないほど簡単に人が死ぬ「戯言」シリーズであるがゆえに、この体たらくは残念に思う。
「零崎」シリーズの前作はそんな制約も少なく、主人公がいーちゃんでないだけ面白かっただけに、期待外れの感は強い。しかも、本シリーズで数少ない「萌える」キャラクターだった子荻に本書で「萌え」なくなってしまった。それほどまでに失望感溢れる作品だ。

本編と異なり三人称形式である。主人公は軋識だが、他のキャラクターの視点でも描かれる。現在並行して読んでいる『空の境界』でも感じたことだが、雰囲気ありげなキャラクターが視点の持ち主になったとたんつまらない平凡なキャラクターに堕してしまう。他者の視点からは存在感があり、興味惹かれるキャラクターだったのに、そのキャラクターの視点になるとその思考はありがちで、魅力は消散する。作家の技術的問題ではあるが、三人称多視点は一般的だが結構難しい手法だと再確認する。

あくまでファン向けの作品と理解はしているが、子荻の描き方が気に食わないので情状酌量の余地なしという評価だ。


感想:『図書館内乱』

2009年08月13日 21時11分15秒 | 有川浩
図書館内乱図書館内乱
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2006-09-11


この世の小説には2種類ある。ただその世界に浸ることができる小説と、そうでない小説だ。
そうでない小説というのは、読みながらその小説を批評している。小説を愉しむ自分とは別にそれを客観的に観察する自分がいる。作品の質の問題よりも相性の問題かもしれないが、決定的な差であることに変わりはない。

新井素子や小野不由美のほぼ全ての著作、『マリア様がみてる』シリーズなどが前者に該当する。森博嗣の初期の作品やいくつかのSF作品なども挙げられる。昔読んだ時にそうだったとしても今読むと違うかもしれないが。
作品の評価や意義とはイコールではない。イコールではないが、評価や意義以前にそれらの作品を受け入れてしまっているわけだから、真っ当な批評として成り立つかどうかは分からない。批評的な見方よりもファン心理が優先されているかもしれない。

「図書館戦争」シリーズ2作目。前作もべた褒めだったが、今作も貶す要素は思い浮かばない。現時点で、「今世紀最高のエンターテイメント」という評を覆す必要を感じない。
アニメ版を半分程度見ていたため、前作は3/4程度はストーリーが既知であった。従って、高評価はそれが原因かとも思ったが、そうではないと確かめられた。
設定がSF的な意味において厳密性に欠けるといった批判はできるが、エンターテイメントにおいて設定はその一部でしかない。読者を楽しませるために設定に矛盾が生じたとしてもそれは大きな問題ではない。

例えば、手塚が兄のことを堂上と小牧に告白する。手塚の葛藤を利用して物語を展開させるのではなく、手塚のキャラクター性から告白が導かれ、それを物語のステップの一つとして機能させる。それぞれの場面でキャラクターの心情をきちんと押さえて、そのキャラクター性と照らし合わせて行動していく。当たり前のように見えて実際にそれができている小説は数少ない。
思想的にキャラクターたちと意見が一致しなくとも、不愉快にならない描き方が為されている。狂信や盲信でないのは当然だが、懐疑や皮相に偏りすぎていない点が素晴らしい。押し付けがましくない節度があるからこそ、心に響くものがある。

前作の感想を書いたとき、予約が多く次作をすぐに読めないかもしれないと書いたが、意外と早くこの第2作を手に取ることができた。そして、第3作も既に取り置きとなっている。これこそ至福と呼ばずして何と呼ぼう。