時砂の王 (ハヤカワ文庫JA) 価格:¥ 630(税込) 発売日:2007-10 |
人類の命運を賭けた時間戦争を描いた作品。時間をテーマにした作品は往々にしてそうだが、作品世界へ気持ちが入り込むのに非常に時間が掛かった。
小川一水の作品は読みやすい。本書は決してその例外ではないのだが、特に冒頭の異なる時間軸上の邪馬台国は苦労した。
基本的に、邪馬台国を舞台にした章と、オーヴィルの時間遡行の章が交互に描かれている。オーヴィルの章はすらすら読めはしたが、悲痛な戦いが描かれていた。
どんどんと局面は厳しくなり、追い詰められていく。面白さよりもただただ重苦しさばかり感じられた。
そして、ついに。
絶望の淵にたどり着いたとき奇蹟が起こる。
どん底からの逆転はかつてないほどのカタルシスをもたらす。それまでの重たい空気は一瞬のうちに払われ、この劇的な瞬間にこの作品の全てが込められていたと気付く。小説を読んで久しぶりに背筋がゾクゾクっとした。
傑作と呼ぶには導入がもう少し巧ければと思わなくもない。中盤の展開を思えば尚更。それでもこのカタルシスは素晴らしい。それを描き切ったことには脱帽だ。ただし、その余韻を生かすエピローグとは言えず、導入部と共に物足りなさを覚えた。名著足りうるにはもう少し磨いて欲しいところが目立つ。それでもなお、印象的な物語として記憶に留めずにいられない作品であることには違いない。
これまでに読んだ小川一水の本の感想。(☆は評価)
『復活の地』(☆☆☆☆☆☆)
『天冥の標I メニー・メニー・シープ 上・下』(☆☆☆☆☆☆☆)