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ライトノベルめった斬り!

2007年01月25日 20時15分40秒 | 本と雑誌
『ライトノベルめった斬り!』という本がある。
書店で見かけたことがあるような気もするが、読んだことはない。大森望、三村美衣両氏による過去30年にわたるライトノベルの書評がメインとなっている。

公式サイト

公式サイトにはこの本で書評されている100作品の名前が記されている。聞いたこともない作品もあるが、読んだことのあるもの、大好きな作品も挙げられている。そこで、100の質問風にこれらの作品を読んだかどうかを書いてみる。

◎1977年~1989年編
○《クラッシャー・ジョウ》 高千穂遙(1977~)
第1作は読んだ気がする。アニメ化などで話題になったことを覚えている。

○《クララ白書》 《アグネス白書》 氷室冴子(1980~1983)
未読。氷室冴子は読む機会がなかった。

○《ダーティペア》 高千穂遙(1980~)
何作か読み好きだった作品。TVアニメも見たし、その後OVA化も何度かなされ、そのいくつかは見たと思う。原作の最初の頃の雰囲気が好きだった。

○《星へ行く船》 新井素子(1981~1992)
敬愛する新井素子の作品なので当然読んでいる。特にシリーズ中の『通りすがりのレイディ』は愛読書の一冊だ。

○《キマイラ・吼》 夢枕獏(1982~)
何冊かは読んだがほとんど記憶に残っていない。

○《銀河英雄伝説》 田中芳樹(1982~1988)
初めて読んだときは8巻くらいまで刊行されていてすぐに夢中になった。ガンダムと並び「常識」の範疇(笑)。アニメは長すぎてあまり見ていない。

○《トレジャーハンター》 菊地秀行(1983~)
「キマイラ・吼」同様何冊かは読んだはずだが、ほとんど覚えていない。ソノラマ文庫はそれほど熱心に手を出してなかった。

○『少女小説家は死なない』 氷室冴子(1983)
上に書いた通り、未読。

○《なんて素敵にジャパネスク》 氷室冴子(1984~1991)
同上。コミックスも未読。

○《丘の家のミッキー》 久美沙織(1984~1988)
久美沙織の作品は何冊かは読んでいるが、これはたぶん未読。コバルト文庫では新井素子らSF作家の作品を中心に読んだが、久美沙織は早川文庫の分くらいしか読まなかったように思う。コバルト文庫で印象に残っているのは他に大和真也あたりか。

○《妖精作戦》 笹本祐一(1984~1985)
未読。笹本祐一は読んだことがないと思う。

○《アルスラーン戦記》 田中芳樹(1986~)
銀英伝の流れからリアルタイムに読んでいたが、ストーリーへの評価はかなり落ちる。長い中断があったため、その後はほとんどフォローしていない。

○《ガルディーン》 火浦功(1986~)
書かない作家の代表的シリーズ。もう新刊を待つのも絶望視したくなる。暴走系ギャグファンタジーというか、ただ暴走しまくってるだけとも言う。

○《ARIEL》 笹本祐一(1987~2004)
上に書いたとおり未読。

○《創竜伝》 田中芳樹(1987~)
何冊か読んだと思うが、超能力ネタは当時食傷していたので手を出さなかった。

○《エフェラ&ジリオラ》 ひかわ玲子(1988~)
未読。ひかわ玲子も読んだことがないと思う。

○《ロードス島戦記》 水野良(1986~1993)
この作品は最後まで楽しんで読んだ。ただその後は途中でついていけなくなった。

○《逆宇宙レイザース》 朝松健(1988~1990)
未読。おそらく朝松健も読んだことはない。

○《私闘学園》 朝松健(1988~1993)
上に記したとおり未読。

○《天使》 折原みと(1988~1995)
未読。折原みとは小説は読んだことはない。コミックもたぶん無かったと思うが定かではない。

○《風の大陸》 竹河聖(1988~)
未読。竹河聖も読んだことのない作家だ。

○《魔獣戦士ルナ・ヴァルガー》 秋津透(1988~1993)
前の記事に書いたように、全巻リアルタイムで読んだ。続編も同様。

○《ハイスクール・オーラバスター》 若木未生(1989~)
未読。コミック版は持っているが未読。

○《フォーチュンクエスト》 深沢美潮(1989~2003)
未読。アニメ化などもされ、興味はなくもなかったが、見る機会がなかった。

○『ゆらぎの森のシエラ』 菅浩江(1989)
未読。このタイトルは知らない。菅浩江は読みたい作家の一人だが、なかなか読む機会がない。

○《破妖の剣》 前田珠子(1989~)
未読。作家・作品ともによく知らない。

○《無責任》 吉岡平(1989~1991)
未読。アニメは面白かったが、そのとき既に何巻も出ていて追いつくのが大変で小説には手を出さずじまい。

○《スレイヤーズ!》 神坂一(1990~2000)
本編はすべて読んだ。アニメから入った口で3シリーズとも見た。すぺしゃるの方は本編終了後は読んでない。

ここからは知らない作品が多い。

◎1990年~2000年編
○《炎の蜃気楼》 桑原水菜(1990~2004)
未読。タイトルは知っているが。

○『時の果てのフェブラリー』 山本弘(1990)
未読。山本弘はたぶん読んだことがない。

○《星虫》 岩本隆雄(1990~)
未読。2000頃にライトノベルをいろいろ紹介してもらい、その中にあった作品。当時入手が困難で、たぶん手に入れていない。他の作品を持っているはずだがそれも未読。

○《鉄甲巨兵SOME‐LINE》 吉岡平(1990~1991)
未読。吉岡平は読んだことがない。

○《ゴクドーくん》 中村うさぎ(1991~2001)
未読。このあたりよく知らない。

○『ヘルメハイネの水晶の塔』 井辻朱美(1991)
未読。井辻朱美と言えば、エルリックサーガの翻訳は読んだが。

○《蓬莱学園》 新城カズマ(1991~)
未読。よく知らない。

○《ヴィシュパ・ノール変異譚》 水杜明珠(1992~)
未読。よく知らない。

○《十二国記》 小野不由美(1992~)
全巻既読。小野不由美にハマるきっかけとなった。シリーズ中では番外編である『図南の翼』に特別の思い入れがある。

○『六番目の小夜子』 恩田陸(1992)
未読。読みたい作家の一人だが、たぶん読んだことがない。

○《デルフィニア戦記》 茅田砂胡(1993~1998)
未読。評判を聞いて揃えようとしたが古本なので何冊か欠けている。

○《ヤマモトヨーコ》 庄司卓(1993~)
未読。コミックやアニメも見る機会がなかった。

○《大久保町》 田中哲弥(1993~1996)
未読。持っているが放置していた。

○《爆れつハンター》 あかほりさとる(1993~1996)
未読。アニメは見た。あかほりさとるは積極的に読もうと思わなかったため、読んだことがないと思う。

○《封殺鬼》 霜島ケイ(1993~)
未読。よく知らない。

○『あいつ』 須和雪里(1994)
未読。よく知らない。

○《魔術士オーフェン》 秋田禎信(1994~2003)
未読。たしかアニメを見てすぐに見る気を失くした作品。

○『タイム・リープ あしたはきのう』 高畑京一郎(1995)
未読。ラジオドラマか何かを聞いた気がする。

○《ロケットガール》 野尻抱介(1995~)
未読。野尻抱介は評判を聞いて読みたくなったがなかなか手に入らなかったような気がする。

○《風の白猿神》 滝川羊(1995~)
未読。よく知らない。

○《ブラックロッド》 古橋秀之(1996~2000)
未読。古橋秀之は何か持っていたはず。読んだかどうかは記憶にない。

○《楽園の魔女たち》 樹川さとみ(1996~2004)
未読。よく知らない。

○《星界》 森岡浩之(1996~)
星界の紋章全3巻は既読。戦旗は2巻か3巻まで読んだと思う。普通のスペオペという印象。

○《電脳天使》 彩院忍(1996~1998)
未読。よく知らない。

○《悪魔の国からこっちに丁稚》 ディ・キャンプ(1997)
未読。よく知らない。

○《カナリア・ファイル》 毛利志生子(1997~2001)
未読。よく知らない。

○《ちょー》 野梨原花南(1997~2003)
未読。よく知らない。

○《月の系譜・桜の系譜》 金蓮花(1997~)
未読。よく知らない。

○《星のパイロット》 笹本祐一(1997~)
未読。笹本祐一に関しては前述したとおり。

○《西の善き魔女》 荻原規子(1997~1999)
未読。ただ現在アニメを見ているところ。小説まで手を出す気はないが、アニメはなかなか面白い。

○『天夢航海』 谷山由紀(1997)
未読。よく知らない。

○《都市》 川上稔(1997~)
未読。名前は聞いた気もするが、よく知らない。

○《ブギーポップ》 上遠野浩平(1998~)
1巻は読んだ。シリーズの何冊かは持っている。クセが強いので、なかなか読む気になりにくいのが困る。

○《フルメタル・パニック》 賀東招二(1998~)
未読。何冊か持っている気がする。アニメは昔ちょっとだけ見たことがある。

○《ペリペティアの福音》 秋山完(1998~1999)
未読。先に述べたように2000年頃に興味を覚えたライトノベルの作家の一人。この作品かどうか分からないが持っていたかもしれない。でも、結局読まずじまい。

○《マリア様がみてる》 今野緒雪(1998~)
未読。周囲で盛り上がったときについていけなかったのが残念といえば残念。

○《ラグナロク》 安井健太郎(1998~)
未読。タイトルを知っている程度。

○『機械の耳』 小松由加子(1998)
未読。よく知らない。

○《EDGE》 とみなが貴和(1999~)
未読。よく知らない。

○『やみなべの陰謀』 田中哲弥(1999)
未読。大久保町も読んでないのに他に手を出すことはできない。

○《天魔の羅刹兵》  高瀬彼方(1999)
未読。作家の名前を知っている程度。

○《スカーレット・ウィザード》 茅田砂胡(1999~2001)
未読。デルフィニア戦記がまず先という思いがある。

○《流血女神伝》 須賀しのぶ(1999~)
未読。よく知らない。

◎2001年~2004年編
○『獣たちの夜』 押井守(2000)
未読。押井守はもちろん知っているし、彼の作品の多くを見ているが、小説は読んだことがない。

○《Dクラッカーズ》 あざの耕平(2000~2004)
未読。よく知らない。

○《R.O.D》 倉田英之(2000~)
未読。タイトルは知っているが、読んだことはない。アニメも未見。

○《キノの旅》 時雨沢恵一(2000~)
未読。タイトルは知っているが、読んだことはない。興味はあるのだが。

○《まるマ》 喬林知(2000~)
未読。よく知らない。

○《虚空》 上遠野浩平(2000~2002)
未読。上遠野はブギーポップを読むのが先だろう。

○『骨牌使いの鏡』 五代ゆう(2000)
未読。よく知らない。

○《猫の地球儀》 秋山瑞人(2000)
たぶん2冊とも持っているはずだが未読。読みたいとは思っている。

○《木島日記》 大塚英志(2000)
未読。タイトル、作者共知ってはいるが、あまり読みたい気はしない。

○《A君(17)の戦争》 豪屋大介(2001~)
未読。タイトルを聞いたことがあったようななかったような。

○《Missing》 甲田学人(2001~)
未読。よく知らない。

○《イリヤの空、UFOの夏》  秋山瑞人(2001~2003)
未読。最近ライトノベルの情報を集めていてその評判の高さを知った作品のひとつ。猫の地球儀が先だが。

○《鏡家サーガ》 佐藤友哉(2001~)
未読。よく知らない。

○『かめくん』 北野勇作(2001)
未読。発売当初の記憶はあるが、読む機会はなし。もしかしたら持っているかもしれない。

○《トリニティ・ブラッド》 吉田直(2001~)
未読。タイトルを聞いたことがある程度。吉田直氏の訃報については『涼宮ハルヒの憂鬱』のあとがきで知った。

○《ランブルフィッシュ》 三雲岳斗(20001~)
未読。三雲岳斗の評判は聞いているが、読んだことはない。

○『紫骸城事件』 上遠野浩平(2001)
未読。前述したとおり、読む時ではない。

○『失踪HOLIDAY』 乙一(2001)
未読。乙一は読みたい作家の一人だが、読んだことはない。

○『NHKにようこそ』 滝本竜彦(2002)
最近読んだ。NHKのアイデアがユニークで、どのような展開もできるアイデアだが、結果的にはライトノベルというよりもただの青春小説と呼ぶべきところに落ち着いた。

○《悪魔のミカタ》 うえお久光(2002~)
未読。よく知らない。

○《マルドゥック・スクランブル》 冲方丁(2003)
未読。よく知らない。

○《銀盤カレイドスコープ》 海原零(2003~)
未読。よく知らない。

○《七姫物語》 高野和(2002~)
未読。よく知らない。

○《撲殺天使ドクロちゃん》 おかゆまさき(2003~)
未読。タイトルを聞いたことがある程度。

○《涼宮ハルヒ》 谷川流(2003~)
現行刊分までは既読。既にブログ上に書いたように面白いと思う。作品に対する評価は決して高くはないが。

○『デュラララ!!』 成田良悟(2004)
未読。よく知らない。

○《吉永さん家のガーゴイル》 田口仙年堂(2004~)
未読。アニメも見ていない。興味はあるが。

○『新本格魔法少女りすか』 西尾維新(2004)
未読。西尾維新と言えば、戯言シリーズを読みたいと思っているのだが。

○『空の中』 有川浩(2004)
未読。よく知らない。


1冊でも読んだことのあるものは100作品中17という結果だった。その半数以上が1989年以前のもの。ほとんど手を出していないジャンルということもあって、順当な結果とも言えるわけだが、読みたいと思い続けている作品もあるので、もう少しなんとかしたいものだ。
ただライトノベルの常として、一部の作品を除くと入手が難しいものもちらほらと見受けられる。2000年頃は一部のヒット作を除くと新刊以外は新刊書店でも手に入らず、古本でも見かけないという厳しい状況だったが、その後このジャンルに対する評価が上がって、このような書評本などもいろいろと出版もされ、入手難易度に変化が訪れているかもしれない。それでも今では読むのが難しい作品は間違いなくあるだろうが。


『魔獣戦士ルナ・ヴァルガー』『魔獣戦記ネオ・ヴァルガー』

2007年01月25日 18時09分22秒 | 本と雑誌
最近ライトノベルをいろいろとチェックしているうちに、急に読み返したくなり、本の山の中から発掘に成功した作品。ルナ・ヴァルガーは1988年から1993年にかけて全12巻、続編のネオ・ヴァルガーは1998年までに全8巻角川文庫から刊行された。
1988年同時期に同じ角川から『ロードス島戦記』も刊行され、まさにライトノベルの新たな潮流が生み出された頃の作品だ。ただ、この作品は正統派ファンタジーでありながら、軽いノリと、更にかなり意図的なエロシーンが挿入されていたことで、真っ当な評価がほとんどなされていないと思われる。

リアルタイムで読んでいたが、続編が出たり、OVAなどの展開はあったものの、あくまでもライトで読み捨てるのが当たり前といった感じの取り扱われ方だった。
作者の秋津透はこれがデビュー作。非常に独特なルビが特徴的で、例えば、「伝説の大魔道士」にそれに当たるキャラ名「グレートザシャム」や、「黒竜帝」に「エボニードラゴン」と振っているのは初歩の部類で、「先端恐怖症」に「びょーき」、「最大の脅威」に「いちばんとんでもねーやつ」、「誠心誠意」に「りっぱに」など様々な場面でこうしたルビが振ってある。全体に軽くテンポの良い文章なので、さらっと読み流す中のいいアクセントに感じられる。
設定は意外としっかりしており、その全貌が明らかになるのは続編の方でだが、特にルナ・ヴァルガーにおいて非常に有効に活かされている印象だ。

そして、この作品で一番優れている点はキャラクターと言える。ライトノベルの定義は微妙だが、その一つにキャラクター重視というものが挙げられる。その点ではまさにこの作品はライトノベルと呼べるだろう。そして、ルナ・ヴァルガーが他の作品と大きく違うのは、バカキャラの豊富さ多様さ、そしてそれを使う巧みさだ。
バカキャラとは、ストーリーの進行に関わらない、或いは時にそれを妨害するようなキャラクターで、常識外れの行動で周囲、特に主人公に迷惑を掛けまくる存在だ。笑いを生み出すためには有効なキャラだが、暴走しやすく、ストーリーの足止めになりやすい。読み手が楽しめるうちはいいが、邪魔に感じるようになってしまうこともある。江口寿志や火浦功の作品が最も代表的かもしれない。
そのバカキャラにもいろんな種類があるが、このルナ・ヴァルガーでは様々なタイプのバカキャラが登場しまくっている。やたら延々長話を繰り返すプリンセス・ゼナや、お気楽能天気、というか迷惑千万な魔道士たち。鳥頭の皇帝にとにかく五月蝿い蝙蝠猫と多士済々、よくもまあこれだけ集めたものだ。しかし、それ以上に感心するのが、これだけバカキャラを集めながら物語をしっかりと進める力があるということだ。
戦闘は多いが、対立の軸が常に変化し、敵が味方に味方が敵になることもある。中心となるしっかりした数名のキャラ(バカキャラに迷惑を掛けられる面々)もきちんとキャラが立っているし、特にバカキャラからメインキャラに出世した無謀戦士バト・ロビスの造型はなかなか面白い。
帝国軍の一員でありながら、ヴァルガー(巨竜)と出会い、それを倒すために一人追い続ける。どう見ても人の力では敵わないヴァルガーに対し、無茶無謀に挑む戦士。最初は主人公を追い回す迷惑な存在だったが、やがて主人公と共闘して他のヴァルガーと戦うことになる。どんどん人間離れした存在に描かれていくが(最初からかなり人間離れしていくが)、無謀戦士として名をはせる彼に、作者はシビアな評価も与えている。人類の危機に挑む主人公たちと共に行く彼に、この危機に際していまだ帝国や彼の一族の立場にこだわることへの痛烈な言葉を主人公の恋人が浴びせている。また、大団円を迎えたとき、彼の元上司の将軍が、無謀戦士の僚友との比較で、一戦士としてはともかく軍隊内の規律や指揮に従わなかった彼への苦言が描かれている(無謀戦士に直接語られた言葉ではないが)。
暴走キャラとして大活躍し、ある意味無敵の存在として描いてきたキャラを作者は一方で厳しく批判する。そうしたバランス感覚が、この作品のキャラクターたちをいきいきとしたものにしている。

そして、主人公ルナとその恋人ミル・ユードには厳しい試練を課す。この軽い作品には不釣合いなほどのテーマが厳然と存在し、見事に描き切っている。
ヴァルガーの力は人の手には律し得ないほどの巨大な力。そして、その力を使うことは、他のヴァルガーの封印を解き、人類に滅亡をもたらしかねない。それでも、望むと望まないに関わらず、その力を使わねばならない試練が襲い掛かる。苦悩するミル・ユードに伝説の大魔道士が語る言葉、ようは自分の信じる道を進めということだが、そこに集約された内容を全巻を通じて描いたことで説得力を得る。
テーマの内容は別として、そのテーマに全編貫かれ、細部まで血肉が通った非常によくできた作品となった。設定などでのオリジナリティの弱さや戦闘場面の表現力の低さなど気になる点は多々あるものの、非常に面白い作品だ。

一方、その続編ネオ・ヴァルガーは、ルナ・ヴァルガーの主要キャラたちの子供たちが活躍する話ではあるのだが、正直失敗作と言える。
前作のルナにあたるような明確な主人公がいないため、出来事が羅列しただけの内容になっている。キャラも数はいるがほとんど出番はなく、大半が意味のないキャラに成り下がっている。バカキャラも少なく後半は出番がなくなってしまう。前作があくまで人の話であったのに、続編ではヴァルガーレベルの話となってしまい、そのスケールアップがかえってマイナスとなった。
前作から登場し、なかなかユニークなマッド・サイエンティストであったグレゴール・クライシスは最後は丸くなってしまって非常に残念だ。死霊術師(ネクロマンサー)の彼は、自らの研究のために人の魂を奪い、禁忌である魔術士の命さえも奪う。それにより力を封じられ死刑にされるが、研究の成果によって見事に蘇った。まあ見境なしの狂った研究者はいろんな作品に登場する存在だが、彼ほど自らの研究という目的に殉じた存在は少ないだろう。俗物的な欲望はほとんどなく、他人に気を使うことは決してない。それが強大な力を持っているのだから、まさに歩く災い。ルナ・ヴァルガーではそれでもパワーバランス的にはヴァルガーに劣る存在だったが、ネオ・ヴァルガーでは完全に人の力を超えるものと成り果てた。まあ主人公サイドの味方になってしまったので脅威でもなくなり、最後は便利な味方だった。

ルナ・ヴァルガーがいい出来だっただけに、続編の不出来は残念だが、それで前作の評価を下げるものではないだろう。万人受けするものでもないが、こういった軽さは小説ではむしろ描くのが難しく、これだけきちんと書き切ったものは滅多にない。今回およそ20年振りくらいに読み返したわけだが、当時以上に興味深く読むことが出来た。