マリア様がみてる―チェリーブロッサム (コバルト文庫) 価格:¥ 500(税込) 発売日:2001-07 |
「銀杏の中の桜」
発表順で言えばこれがこのシリーズの第1作にあたる。お嬢さま学校で独特の風習を持つこの学園に高等部から入学した主人公の視点で描く。非常に正統的な作りであり、そこで出会った一人の少女と絆が生まれゆく物語である。
文庫で書き綴られたこのシリーズはここを目指していた。一方で、この作品は雑誌に掲載されたあとこれまで文庫に収録されずにいた。文庫化にあたり、加筆修正は行われているというが、これまでシリーズで積み上げたがゆえの違和感は強く残る。それは作者の思惑を越えたキャラクターの成長であり、シリーズが持つ厚みと言えるかもしれない。
初登場となる乃梨子に対しても、その後の描き方と比べると違った印象を持つ。リリアンに慣れ、志摩子との関係を通じて成長し変わっていったとも捉えられるが、やはりこの一作は特殊なものと言えるだろう。
文庫で楽しんでいた読者にとって、志摩子の謎が明かされる話だ。彼女の悩みの深さに比べると本当になんだこんなことかと思われる内容だが、あとがきにもある通り彼女にとっては深刻な悩みだったのだろう。周囲と本人の事の比重の差異は祥子でもあって、大事なのは本人だけという意外と起きる真実をうまく表している。
雑誌でこの作品を読み志摩子の謎を知っていた読者にとっては、謎の共有という一種の優越感を持ったのではないか。初めから狙った訳ではないだろうが結果的に作者はそれを効果的に利用したとも言える。ちょっとした謎をうまく散りばめて読者を惹きつける手法はこのシリーズのあちこちで使われている。特にシリーズ後半では積極的に提示している。
「BGN」
「銀杏の中の桜」を祐巳の視点で描いた作品。裏話的なものではあるが、シリーズの正統派はむしろこちら。「銀杏の中の桜」で覚えた違和感を払拭するための作品とも言える。
“荒療治”については、始めにそれありきであるがため、この作品の前から伏線を張っていた。それでも、“荒療治”すぎる印象は否めない。それをフォローするための役回りを担うために瞳子が登場する。彼女の場合、役割ごとに個性が与えられている感じで、かなり後になるまで明確な意図が読みにくい。どこまでが演技でどこまでが地か分かりにくいという面もあるが、それ以上にコアの部分が確立するまで時間が掛かったと考えられる。