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感想:『赤い指』

2009年11月02日 21時33分16秒 | 本と雑誌
赤い指赤い指
価格:¥ 1,575(税込)
発売日:2006-07-25


一方に、一見普通の家族によるおぞましい事件。一方に、加賀の父の死。

家族の主たる前原昭夫と、加賀恭一郎の従弟で若い刑事の松宮脩平の二人の視点で描かれている。
前原はサラリーマンで、妻と息子、そして母との4人暮らし。家庭の事には関心を持たず、子供の教育は妻任せ、離れて暮らしていた父の介護も母任せで関わろうとせずに暮らしていた。やがて、父が死に母が怪我をして一緒に住むことになったが、妻と母の折り合いの悪さにもなるべく無関心に過ごしていた。
そのツケが一気に彼の身に及び、彼は更にそのツケを払うのを恐れて逃げ、それが叶わなくなった時には、それを他に押し付けてかわそうとした。彼が最初に罪を犯したわけではないが、罪と向き合わおうとはしなかった。
作品からは彼の非道が浮かび上がる。家族の問題にも、息子のいじめの問題にも、そしてこの事件にも向き合わず逃げようとした。作品ではそのツケを明確に示された。読者が彼を裁くのは簡単だ。私としては、簡単に裁けないだけの仕掛けをもう少し用意して欲しかった。

親子の問題、特に年老いた親を看取る子という構図に限って言えば、よく出来た作品だと思う。だが、もう少し普遍的に眺めた場合、物足りなさを感じる作品だ。

対比する加賀と父とのやり取りは、シリーズという重みがより効果的にしている。父子の痺れるような関係を前に、前原の矮小さだけが浮き彫りにされたのでは深みがない。加賀のような特別な存在でもって、平凡な前原を裁いていいのか。
住宅街に住む一軒一軒を訪れた松宮が感じたように、どれもがごく普通の家庭であり、前原家も表面上は変わりはない。前原もまた「普通」の範疇に存在している。そして、状況は時に「普通」を逸脱させる。逸脱しない強さを誰もが持っているわけではないだろう。だって、「普通」なのだから。




これまでに読んだ東野圭吾の本の感想。(☆は評価/最大☆10個)

放課後』(☆☆)
探偵ガリレオ』(☆☆☆☆☆)
予知夢』(☆☆☆☆)
容疑者Xの献身』(☆☆☆☆☆☆)
卒業 雪月花殺人ゲーム』(☆☆☆)
眠りの森』(☆☆)
どちらかが彼女を殺した』(☆☆☆☆☆☆)
悪意』(☆☆☆)
私が彼を殺した』(☆☆)
嘘をもうひとつだけ』(☆☆)


感想:『戦う司書と神の石剣』

2009年11月02日 20時57分29秒 | 山形石雄
戦う司書と神の石剣 (集英社スーパーダッシュ文庫)戦う司書と神の石剣 (集英社スーパーダッシュ文庫)
価格:¥ 600(税込)
発売日:2006-07


シリーズ4作目。ミレポックが主人公。

武装司書ミレポックと神溺教団を裏切ったアルメ。それぞれの想いから謎の人物ラスコール=オセロを追い求める。
ストーリーは悪くない。ハミュッツの出番は少なかったが、ミレポックとアルメの造型がしっかりしていたので楽しめる。ただ本書に限ったわけではないが、奥行きのなさが気に掛かる。

これまで登場した武装司書は、ハミュッツ=メセタ、マットアラスト=バロリー、ミレポック=ファインデル、イレイア=キティ、ノロティ=マルチェ、モッカニア=フルール、ミンス=チェザイン、フィーキー=クインといったあたり。問題は組織性が全く感じられないこと。指揮系統などないこともないようだが、任務の大きさに見合う印象は無い。まだ登場していない名前だけの存在にボンボ、ユキゾナの名が挙げられているが、その程度では広がりが感じられない。
神溺教団側も似たような状況で、関わってくるキャラクターはこれまでに登場したものの使い回しが多い。

個々の作品は面白いと思えるのだが、シリーズとしての魅力に繋がらない。一つの世界観でバラバラの話を見せられているような。もう4作目だというのに、いまだシリーズとしての目標めいたものは存在していない。
主人公が毎回変わる、というよりも、作品ごとの主人公さえ定かでない群像劇ではあるが、作品と作品を繋ぐ糸が細すぎる。シリーズの利点を活かして欲しい。切に願う。




これまでに読んだ山形石雄の本の感想。(☆は評価/最大☆10個)

戦う司書と恋する爆弾』(☆☆☆☆☆)
戦う司書と雷の愚者』(☆☆)
戦う司書と黒蟻の迷宮』(☆☆☆☆)