赤い指 価格:¥ 1,575(税込) 発売日:2006-07-25 |
一方に、一見普通の家族によるおぞましい事件。一方に、加賀の父の死。
家族の主たる前原昭夫と、加賀恭一郎の従弟で若い刑事の松宮脩平の二人の視点で描かれている。
前原はサラリーマンで、妻と息子、そして母との4人暮らし。家庭の事には関心を持たず、子供の教育は妻任せ、離れて暮らしていた父の介護も母任せで関わろうとせずに暮らしていた。やがて、父が死に母が怪我をして一緒に住むことになったが、妻と母の折り合いの悪さにもなるべく無関心に過ごしていた。
そのツケが一気に彼の身に及び、彼は更にそのツケを払うのを恐れて逃げ、それが叶わなくなった時には、それを他に押し付けてかわそうとした。彼が最初に罪を犯したわけではないが、罪と向き合わおうとはしなかった。
作品からは彼の非道が浮かび上がる。家族の問題にも、息子のいじめの問題にも、そしてこの事件にも向き合わず逃げようとした。作品ではそのツケを明確に示された。読者が彼を裁くのは簡単だ。私としては、簡単に裁けないだけの仕掛けをもう少し用意して欲しかった。
親子の問題、特に年老いた親を看取る子という構図に限って言えば、よく出来た作品だと思う。だが、もう少し普遍的に眺めた場合、物足りなさを感じる作品だ。
対比する加賀と父とのやり取りは、シリーズという重みがより効果的にしている。父子の痺れるような関係を前に、前原の矮小さだけが浮き彫りにされたのでは深みがない。加賀のような特別な存在でもって、平凡な前原を裁いていいのか。
住宅街に住む一軒一軒を訪れた松宮が感じたように、どれもがごく普通の家庭であり、前原家も表面上は変わりはない。前原もまた「普通」の範疇に存在している。そして、状況は時に「普通」を逸脱させる。逸脱しない強さを誰もが持っているわけではないだろう。だって、「普通」なのだから。
これまでに読んだ東野圭吾の本の感想。(☆は評価/最大☆10個)
『放課後』(☆☆)
『探偵ガリレオ』(☆☆☆☆☆)
『予知夢』(☆☆☆☆)
『容疑者Xの献身』(☆☆☆☆☆☆)
『卒業 雪月花殺人ゲーム』(☆☆☆)
『眠りの森』(☆☆)
『どちらかが彼女を殺した』(☆☆☆☆☆☆)
『悪意』(☆☆☆)
『私が彼を殺した』(☆☆)
『嘘をもうひとつだけ』(☆☆)