持続可能な国づくりを考える会

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学習会「スウェーデン型社会という解答」について (1)

2009年03月19日 | 学習会
ご紹介しておりましたとおり、去る3月15日に横浜市にあるNISSANスタジアム内の研修室にて、元・駐スウェーデン大使の藤井威先生の講義による学習会を開催しました。

少し遅くなりましたが、以下そのご報告をさせていただきたいと思います。

日曜の午後を使っての学習会、講師の藤井先生はひじょうにエネルギッシュな方で、時間ぎりぎりいっぱいまで講演をしていただきました。

終了時間を迎えてもまだまだ語り尽くせないというご様子で、そのきわめて豊富な情報量と、新しい社会モデルを伝えようとされる情熱には圧倒されました。
大変な知識量と洞察力ですが、にもかかわらず端々に笑いとユーモアを添えられ気さくなお人柄がにじみ、なによりこの国の将来を憂える本気の方だと感じました。

また今回は会場配布のために複数の資料をご用意いただきました。
手書きのレジュメと内外の最新の統計データからなる分厚い資料は、ともかく大変説得力のあるものです。







藤井先生のスウェーデン論は、最近 新聞・テレビ等のメディアで注目を集めましたので、ご存じの方も多いかと思います。

今回はそのエッセンスをじかに語っていただき、私たちがこれからの最有力の国家的ビジョンであると考えるスウェーデン・モデルとは、具体的には何を意味し、なぜ目標でありうるのかをあらためて学ぶ場となりました。

短い時間ながら、語られた情報量は膨大ですべてを伝えられないのが歯がゆく残念です。

そこで当会では、次の通り当日の講義のDVDと録音CDを頒布いたします。
ぜひご利用いただければ幸いです。


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【頒布品のご案内】
・動画DVDは2,500円、音声CDは2,000円となります。
・お申し込みは以下のフォームからお願いします。
・詳しくは返信メールにてお知らせします。

 >>持続可能な国づくりの会・頒布品受付フォーム

*編集・発送作業等の事情により、
 お手元に届くのが若干遅くなるかもしれませんが
 その際はなにとぞご容赦ください。

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ともあれ、どれほど伝えきれているかは心もとないところですが、それでも要約的にいくつかのポイントに沿ってご紹介できればと思います。



まず総論として、日本では漠然としたイメージで捉えられがちな「福祉国家」の定義とはそもそも何なのかが語られました。

私たち日本人の常識と違って、世界的には自由競争・優勝劣敗(=低福祉)のアメリカ型モデルはもともと「グローバル・スタンダード」ではないようです。
そしてそのアメリカ型モデルをかついで追随しているのは、先進国では現在日本だけという事実があるとのことです。
みなさんはお気づきだったでしょうか。

比較対象がないと気付かない事かもしれませんが、講義において国際比較や統計のお話を伺うとそれはたしかに事実としか言いようがないと感じました。
そのことは、たとえば社会保障関係の支出割合の低さが、いわゆる先進国の中で日米だけが際立っていることからも明らかに思われます。

藤井先生は、アメリカ型モデルの凋落が著しい今、日本はモデル・方向を見失って大変な危機状態にあると指摘されています。
そしてこれから何を目指すべきかと考えたときに、まず重要なのは、そもそも米国もそして日本も、「福祉国家」ではないという事実を気づくことであると仰っていました。

これまで日本が米国をモデルとしていたときに、ヨーロッパの先進国では「福祉国家」を目指して国策が図られてきました。
これからも間違いなくそうであり続けるだろうと見られています。

そして米国モデルに対して、それらヨーロッパ型福祉国家のほうがあきらかにうまく社会が回っているということが、以下こうした議論に詳らかでない一般人にも分かりやすく明快に語られていきました。


さて、ヨーロッパ諸国が実現してきた福祉国家には、

①スウェーデンはじめ北欧型の「社会民主主義」(公共部門重視)
②ドイツやフランスといった大陸系の「保守主義」(コミュニティ重視・家族主義)
③イギリス系統の「自由主義」(個人主義)

という3つのタイプがあるものの、いずれも市場を重視しながら福祉国家を目指していることに違いはないそうです。

これに対して市場を重視していないものが計画経済の「共産主義」です。①の社会民主主義が「社会」「主義」となっていて一見誤解されがちですが、この点は決定的な違いであるとのことでした。

この3タイプ類型は現状の各種データからも、なるほどと思わず頷かされるもので、福祉制度があるからには福祉国家だ、だから日本もりっぱな福祉国家だ、という見方では見過ごされてきた枠組みではないかと思います。

さらにこの三類型は単に社会制度的な枠組みだけの話ではなく、歴史や国民性に根差す政治思想とぴったり一致しています。
藤井先生は、いわば内面的な裏付け・方向付け、システムの背景をも含んでいるという意味で「レジーム」と表現されていました。

たしかに上記の社会民主主義レジーム、保守主義レジーム、自由主義レジームのいずれも、各国の文化が表現・反映されているように見えますし、その三類型にははっきりとした根拠があるようです。

ここで重要なことは、タイプこそ違え、ヨーロッパ先進国がいずれも明らかに「福祉国家」という共通の目的を目指しているという点だと思いました。

福祉というと倫理的な「あるべき論」、さらには産業社会のいわば「お荷物」ととらえられがちです。

しかし日米以外の先進国で「福祉国家レジーム」がまちがいなく主流になっているという事実は、人間的な福祉を実現することが、市場経済が成り立つ基盤を保持するため、国や社会の持続性を実現するため、要するに社会をうまくやっていくために、結局そうならざるを得ないという21世紀社会のリアリティを示しているのだと思われます。

そして弱者に厳しい日本の現状は福祉国家のレジームにあてはまっていないということに、私たちが気づく必要があるとお話しくださいました。

藤井先生はご専門の国際福祉論から、日本の社会保障は米英やカナダのような自由主義レジーム(米国の実態はひじょうにあやしいとのことですが)ですらなく、思想のない場当たり的なパッチワーク(良いところどり)と化していると説明されました。

このような世界の福祉国家と日本の現状を認識したうえで、藤井先生は福祉国家レジームの三つの類型のなかで、とりわけスウェーデンをはじめ北欧諸国の「社会民主主義レジーム」が現状もっともすぐれていると評価されます。

そもそも藤井先生は若き官僚時代にスウェーデンの福祉国家確立期の大政治家であるエランデル首相に出会い、その弁舌に圧倒され、それ以来スウェーデン・モデルにほれ込んできたそうで、そのエピソードも大変興味深いものでした。

しかしそうした思い入れだけでなく、スウェーデン型社会が現状世界の中でいかに目指すべき「優等生」であるかが、内外の多くの統計データを根拠にきわめて説得力をもって伝えて下さいました。





日本ではヨーロッパ諸国のような思想的・歴史的な積み重ねがなされてこず、「福祉国家レジーム」をいまだ形成しえていないということでは、歴史的にいって仕方がないというところもあると思います。

しかし、だからこそ今から私たちは学びなおすことができるのではないでしょうか。

アメリカ型モデルしか見てこず、「これが当たり前」「それが世の現実」だと思って、つい最近までその実現に狂奔してきた新自由主義的競争の(残酷な)格差社会が、じつは国際常識的には当たり前ではなかったということ、目を向ければ現実にモデルも希望もあることに気づかせてくれる名講義でした。


以下、もう少し具体的に述べていきたいと思います。

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ポイントの正確な報告に感謝 (中島利行)
2009-03-20 15:36:56
松原さん 
講演ポイントの正確な報告内容に感謝します。
藤井先生のご講演から、安心・安全・倫理崩壊に立ちすくむ日本社会再生の長期展望が、開けてきた感じがします。
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コメント有り難うございます。 (松原)
2009-03-23 07:07:29
中島さん、コメント有り難うございます。
藤井先生の講演、まさに「長期展望」が持てる素晴らしいものでしたね。
次回5月17日の「トークセッション」も楽しみです。

今回の記事は、ほぼ三谷副長が書きました。的確な文章に私も感謝です。この後の報告も、楽しみにお待ちください。
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