スウェーデンの今
スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員
 



スウェーデンが既存の原発の更新を認める方針を打ち出したことについてだが、国際的に注目されているものの、国外での報道に少し誇張があるような気がする。


私が2002年に見学したForsmark(フォッシュマルク)原発1・2・3号基

スウェーデン国内で見れば、反原発を掲げていた中央党が妥協をした、というのは、確かに大きなニュースだ。しかし、外国にとってのインパクトがどこまで大きいのかを考えてみると、国外の新聞が劇的な書き方をしているほど大きなニュースではない と私は思う。

日本の各紙を見てみると、

読売新聞 http://www.yomiuri.co.jp/eco/news/20090206-OYT1T00924.htm
毎日新聞 http://mainichi.jp/select/world/news/20090207ddm007030134000c.html
朝日新聞 http://www.asahi.com/international/update/0205/TKY200902050378.html
産経新聞 http://sankei.jp.msn.com/world/europe/090205/erp0902052340009-n1.htm
日本経済新聞 http://eco.nikkei.co.jp/news/nikkei/article.aspx?id=AS2M0502Y%2005022009

「脱原発政策を転換」(日経)
「脱原発方針を転換し、原発の新設を認める」(読売)
「原子力発電所の全廃政策を転換する方針を打ち出した」(産経)
「原発廃棄政策撤回」(毎日)
「脱原発方針を転換すると発表した」(朝日)

このように各紙とも伝えているけれど、スウェーデンの連立与党4党が合意に至ったのは、あくまで既存の原子炉の更新に過ぎない。日本のそれぞれの記事を読むとあたかも「スウェーデンが原発の増設に踏み切った」かのような印象を受けかねないが、そうではない。

また、原発への依存度を今よりさらに高めるわけでもない。もちろん、いくら更新とはいえ新しい原子炉は発電量も大きくなるわけだが、政府の方針としては、代替エネルギー・再生可能エネルギーへ転換する努力を今後も行っていきながら、それでも既存の原子炉の寿命が来るまでに間に合わなければ、新しい炉と取り替える必要があるということ。そして、そのための準備に過ぎない。これまでは更新であっても原子炉の新設はできないという法規制があったが、それを今回、撤廃することに決めただけなのだ。

この点について、あくまで立て替えであり、更新なのだ、と明記していたのは、毎日新聞と朝日新聞にとどまる。

脱原発方針を転換 原発更新へ新法案」(朝日)
現在10基ある原子炉が寿命を迎えるにしたがって、新しいものに換えていくことが可能になる」(朝日)
稼働中の原子炉10基を建て替える」(毎日)

原発への依存度を今よりさらに高めるわけではない、という点は、私は重要だと思う。今回、中央党が今回の妥協を受け入れるにあたって、代替エネルギー(再生可能なエネルギー)の開発・普及促進、そして省エネへの重点投資、さらに、環境税のさらなる活用によるエネルギー需要の抑制、を合意に含ませていたことからも分かるように、原発への依存を温暖化問題の解決策としているのではないからだ

この点については、記事の中で全く触れられていなかった。今回の合意に、原発建設だけが含まれていたわけではないことを触れていた読売新聞と朝日新聞がちょっとだけ、かする程度。

「20年までに温室効果ガスの排出量を90年比で40%削減する目標も打ち出した」(読売)
「法案には、20年までに温室効果ガスの排出量を40%程度削減するという目標なども盛り込まれる」(朝日)

また、今回の路線変更が果たしてそこまで劇的な転換か?という点についても、かなり誇張があると思う。

「2010年までに原発を廃止するはずだった」(日経)
「2010年までに段階的に全廃することを決めた」(読売)
「10年までに原発を全廃するという決議をしていた」(朝日)

と伝えているが、この目標はあくまで1980年の国民投票当時のもの。その後、なかなか代替エネルギーの確保ができず、撤廃に時間がかかり、これまでに原子炉2基しか閉鎖されなかったのは、各紙が伝える通りだが、一方で、どの新聞にも書かれていない事実がある。

それは、2002年に当時の社会民主党政権と左党(閣外協力)、それに中央党(当時は野党)の合意の下で「2010年全廃目標」を既に撤廃していたことだ。

そして、それから今に至るまで、暗黙のうちに各党間に形成されつつあった最大公約数的コンセンサスは「既存の10基は少なくとも寿命が来るまでは使う」という点だった。

だから、今回の与党合意によって、これまでの原発廃絶路線が180度も転換してしまった、という印象を与えるような記事の書き方は誤りだと思う。

ちなみに、産経新聞だけが、

「20年をメドに閉鎖する方針だった」(産経)

と書いている。現在稼動中の原子炉は少なくとも2030年頃まで使えるので、この20年という数字も的を射たものではないと思うが、他の新聞よりはまだましかもしれない。

ここまで読んで「えっ?」と思われた方もあるかもしれない。そう、現在稼動中の原子炉は少なくとも2030年頃まで使えるのだ! だから、10基の更新とは言っても、数年内に直ちに新しい原子炉の建設を始める、というわけでも決してないのだ。だから、実際の着工はまだまだ先の話

この点でも、今回の報道のされ方は、ニュースの表面的な部分だけが、日本に伝えられてしまった感じがする。

おそらく、日本をはじめ世界中の原発推進派は、今回のニュースに喜んだだろうが、原発賛成にしろ、反対にしろ、事実はなるべく正確な形で伝えなければいけないと思う。


原発を巡る各党の駆け引きを報じるスウェーデンの新聞


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コメント
 
 
 
初めまして。 (maronhappy)
2009-06-26 20:18:31
知人により、この記事を紹介され(http://blog.goo.ne.jp/yoshi_swe/c/6a18ae82dbf282c4dbe0d6ac7ab47c1b)、
こちらに伺った次第です(http://blog.goo.ne.jp/yoshi_swe/e/a93668d511988d83eef50f3207899d89)。
大変有用なるコメントをどうもありがとうございました!!!
 
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