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日本では、エネルギー問題を考える時に、エネルギーのことだけしか考えませんが、このような狭い考え方は問題です。環境政策、エネルギー政策など、国の重要な政策の背景には、必ず核になるその国の社会が存在します。ですから、エネルギー問題を議論する時にも、政治、行政、法制度などの社会システムを考慮に入れて考える必要があります。このような当たり前のことをすっかり忘れて、日本ではエネルギーの供給や研究開発という狭い枠の中での硬直した議論が盛んに行われています。
現在、私たちが関心をいだいているスウェーデンは「福祉国家」を発展させてきた長い過程の中で様々な取捨選択を行いながら、社会制度の一つ一つに改良を加え、それらを成熟させてきた結果です。
こうした理解なしにはスウェーデンのエネルギー政策を理解することはできませんし、また、なぜスウェーデンがそのエネルギー政策の中で、安全対策、廃棄物処理対策、設備利用率、被ばく対策など多くの面で「世界の最高水準を行くといわれる原発」を廃棄し、自らに厳しい条件を課しつつ、現行のエネルギー体系を将来に向けて新しいエネルギー体系に変えて行こうと模索しているのかを理解できないでしょう。
10月19日のブログに掲載したリストに示しましたように、1988年6月から89年10月までのおよそ1年半の間に、私の目に触れたものだけでもおよそ70点を越える記事や番組がありました。これらはいずれも一般紙、市販の雑誌、単行本、テレビ、企業の広報資料などが取り上げたものですから、エネルギー問題に関心を持つ方ならば一般の方でも容易に入手可能なものばかりです。この中には業界の専門誌、報告書の類いは含まれていません。データ・ベースの力を借りて調べれば、さらに多くの記事が見つかると思います。
これらのマスコミに登場する記事の書き手の多くはジャーナリスト、フリーライター、技術評論家、エネルギー分野の専門家、経済評論家として積極的に発言している方々、原子力分野の専門家や技術者・研究者、関係省庁の担当者、企業や関連団体の原子力担当の技術者や原子力広報の担当者などで、一般の方々から見ればその道の専門家ということになるのでしょうが、残念なことに、彼等が書くスウェーデンのエネルギー政策(多くの場合、原子力の動向に関するものに限られていますが)に関する断片的な解説記事には、私の理解からすると様々な誤解、曲解、希望的観測、思惑、なかには意図的に一般の読者をある方向へ誘導させようとする試みではないかと思うようなものまであります。
その一例が10月19日のブログで紹介した89年2月14日付け毎日新聞の「提言」欄に掲載された国際原子力機関(IAEA)の前広報部長吉田康彦さんの投稿記事「原発推進は世界の大勢」です。この記事のスウェーデンの記述に明らかな誤りと読者の誤解を誘いそうな箇所がありましたので、私は同年3月13日付け毎日新聞の同欄に反論を書きました。
吉田さんはスウェーデンに関する部分で、「1991年に再度国民投票を実施する予定である」と述べています。私は「吉田さんの1991年国民投票再開催説」が誤りであることを指摘しておきました。問題の1991年はすでに過去となりましたが、スウェーデンでこの年に国民投票が開催された事実もなければ、はっきりした予定も組まれておりませんでした。吉田さんの記述は明らかに誤っていたのです。
吉田さんの問題の記事の中でスウェーデンに関する記述は17行ありますが、この記述は読者の誤解を誘うようなことばかりです。「スウェーデンの原子力問題」という共通のテーマに対して、私の理解と吉田さんの理解にはかなりの相違があることがおわかりいただけると思います。
また、吉田さんの投稿記事の中に「最近の世論調査では46%が2010年以降も原発継続を希望しており……」とありますが、この数字にはコメントしておく必要があります。1980年の「原発に関する国民投票」の結果では、58%の人が「原発容認」に票を投じているのです。国民投票では「2010年まで」という原発の使用制限は付けられておりませんでしたので、58%の原発容認に投票した人々は2010年を越えて原発の寿命が来るまで使用するという考えに立っているはずです。
ですから、この46%という数字は原発容認の58%と比較しても小さい数字であると言えます。ですから、「46%が2010年以降も原発継続を希望しており……」などと言う表現は初めてこの数字を見せられた読者には一見もっともらしく思われるかも知れませんが、ほとんど意味のない数字だと言わざるをえません。
意図的な誘導は別ですが、誤解、曲解などの生ずる理由は簡単です。日本の関心事である「スウェーデンの脱原発」に焦点を合わせて、エネルギー政策の「原発の部分」だけを抜き出して報じたり、あるいは、日本とスウェーデンでは社会システムや価値観に様々な相違があるという事実にもかかわらず、それらを考慮せずにスウェーデンから入手した情報を、全体像を見ずにその関心のある一部分のみを「ある種の先入観あるいは期待感」と「日本の視点」あるいは「書き手自身の狭い視点」で分析しているからです。
そして、多くの場合、それらの記事の執筆者がその道の専門家であるために、その解説記事がそのまま他の人の記事に引用されていくからだと思います。外国の代表的なジャーナリズムの解説記事も同様で、しばしば誤りが認められます。その理由は日本の場合と大同小異です。
ですから、スウェーデンのエネルギー政策を分析する際にはエネルギー全体を広くとらえると共に、エネルギー政策が国の他の重要な政策と連動していることを理解し、その上で、「日本とスウェーデンは異なった価値観の上に立つ工業国である」という認識を持つことが必要なのです。
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