スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

原発論議の再燃(1)‐老朽化した原発を更新すべきか?

2009-02-05 10:23:10 | スウェーデン・その他の政治
1980年の国民投票によって、原子力発電所の段階的廃止を選択したスウェーデン。しかし、実行までには時間がかかり、これまで1999年と2005年に一基ずつ原子炉が閉鎖されたに過ぎない(バーシェベック原発1号・2号基)。

現在使用中の原子炉は10基であり、スウェーデンの電力需要の約45%を賄っている。水力発電が約45%、そして、残りを風力などの再生可能エネルギーが占める。

――――――
地球温暖化(気候変動)問題への対処が急を要する現在、スウェーデンの政界は与野党を問わず、EUの温暖化ガス削減目標よりも厳しい目標を自ら課すことに決め、2030年までに2005年比で30%~40%を削減する目標を打ち立て、そのための行動計画を策定しつつある。(強い政治的イニシアティブがあれば困難な問題も解決可能と考える姿勢と、問題意識の高さは立派だと思う!

さて、ではこの文脈の中で原子力発電をどう位置づけるか?は、スウェーデンで一つの政治的争点となってきた。(1) エネルギー需要を全体的に抑えていきながら、原発を削減し、再生可能なエネルギー源(風力・バイオマス・波力など)の開発と普及を急ぐ、という主張が一方であり、他方には (2) 温暖化ガスを出さない原発は“クリーンな”電力エネルギー源だから、むしろ増やしていくべきだ、という主張もある。

基本的に、野党である左派政党は(1)を主張してきた。一方、連立与党を構成する中道右派政党はこれまで沈黙を保ってきた。少なくとも次の総選挙までは、原発の議論は持ち出さないようにしていた。

ただし、唯一の例外は、自由党。地球温暖化の議論や、エネルギーの話になるたびに「原発をもっと作れ! 国内でのウラン採掘を認めろ!」と、一党だけで大騒ぎして、与党連立の足並みを乱してきたのだった。(実は連立与党の中の中央党は、もともと反原発を掲げていた)

各党のスタンスをまとめると・・・

<与党>
保守党(穏健党):原発賛成だけど、あんまり大きな争点にしたくない!
自由党:賛成! 賛成! ウラン採掘も認めろ!
中央党:1980年国民投票で原発反対キャンペーンの旗頭だった伝統を受け継ぐ……今でも?
キリスト教民主党:原発はどちらかというと賛成だけど、うちの党のマニフェストでは優先順位が低い……

<野党>
社会民主党:党の大多数が原発反対、でもエネルギー集約型産業の労働組合の一部は賛成
左党(左翼党):原発反対!
環境党:原発断固反対! 既存の原子炉も寿命を待たず廃止せよ!

――――――
しかし、ここ数日、原発を巡る新たな展開が見られる。

これまでの争点は原発の増設を認めるか否か、だったが、新たに争点となっているのは、既存の原子炉の寿命が来たときに、新しい原子炉と取り替えるのか否か、なのだ。

上に挙げた自由党は、もちろん賛成なのだが、今回新しい動きを見せているのは、キリスト教民主党だ。

この政党は、かなり小さな政党で次の選挙では議席が取れないのではないか、という憶測もあるくらいだ。そんな極小政党が、支持率の回復を狙ってかどうか、既存の原発が老朽化した時に新しい原発と取り替えるべきだ!と声を上げ始めたのだ。(この党は、同性結婚にスウェーデンの政界では唯一反対している党。与党の他の3党はこの党に見切りをつけ、野党と手を結んで、同性結婚を認める法を可決する方針を決めたので、ここぞとばかり名誉回復を狙っているのかもしれない。)

ことの発端は、この党の党首が1月30日の日刊紙のオピニオン欄に投稿した記事。


(日本の新聞にはほとんど見られないオピニオン記事は、スウェーデンでは政治家や行政機関の上級職員、研究者、NGO・NPO、各種利益団体、ジャーナリストなどが投稿し、主要日刊紙は毎日掲載する。「読者の声」とは違い、かなりまとまった分量を書ける。この記事がきっかけとなり社会的議論が始まることが多く、スウェーデンの社会や政治を動かす一つの原動力となっている、と言っても過言ではないかもしれない。)

この記事がきっかけとなって、再び原発論議に火がついたのだ。原発問題は次の総選挙まで持ち出さない、という与党合意ができていたはずなのだが、ずいぶん速い速度で議論が進行している。

そして、与党の中では、保守党・自由党・キリスト教民主党が手を組んで、原発反対を掲げる中央党に難題を突きつけている! さて、どうする中央党?(この記事を書いている現在、スウェーデン議会の建物では中央党議員の緊急会合が開かれている)


P.S. 私自身は、原発推進には懐疑的ですので、少し憂慮しながら議論を追っています。

最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (里の猫)
2009-02-05 12:13:40
中央党が緊急会合している最中の今日のTVニュース。
USAとドイツの調査によると、原発から5キロ以内に住んでいる子どもの白血病の発生率が高い(何パーセントだかは覚えてませんが、ドイツではほとんど全ての発電所付近で調査したとか)という結果が出ました。
さあ、中央党はどう反応するでしょう。
放射能監査所の所員は「スウェーデンではこんな調査はしません。なぜそうなのか、理由が分からないのだから」とか何とか言っていた。「調査しなければ、スウェーデンの確率は分からないでしょう」「実にその通りです」その人の口元がなんとなく、ニタッとしたように思ったのは、私が疑い深いからかしら。
(半分寝ながら見ていたので、もう一度確かめる必要はあります。)
返信する
久しぶりのコメントです。 (kyotonC)
2009-02-06 11:06:10
と言いますか、情報提供です。

私は、国分寺では新聞を定期購読していないので(経済的な理由)、朝日新聞の主要記事をケータイでチラ見しています。

それによると、スウェーデン政府は、80年に決めた脱原発方針を転換すると発表。化石燃料への依存度を下げ、温室効果ガス排出を減らすため、原発代替エネルギーが十分に確保できないことが理由だとのこと。

80年の国民投票の結果(国民の総意)は、いとも簡単に踏みにじられるものなのでしょうか。

そもそも、こうした国の大きな政策転換にあたっては、2009年中に、再度、国民投票にかけるのが、スウェーデンらしいスタイルだと思うのですが。

そのあたりの手続き論はどうなっているのでしょうか?
返信する

コメントを投稿