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日本は世界トップレベルの低炭素社会?  経済界の判断基準が明らかにされた「意見広告」

2009-03-17 14:01:17 | 温暖化/オゾン層
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今朝の朝日新聞を開きましたら、日本の経済界の「意見広告」(全面広告)が飛び込んできました。大変おどろきました。おそらく、他の全国紙にも同じ全面広告が打ってあるのでしょう。



まず、「日本は世界トップレベルの低炭素社会です」とあります。これまで、経済界がそして、かなりの評論家や識者、それにかなりの政治家や政策担当者が執拗にマスメディアを通じて主張してきた内容です。幸いなことに、今回の意見広告は経済界がそのように考える判断基準を明確に図示しています。広告の左側にレイアウトされた5つの棒グラフ

GDPあたりのCO2排出量
■電力を火力発電で1KWh作るのに必要なエネルギー指数比較
■セメントの中間製品(クリンカ)を1トン作るのに必要なエネルギーの指数比較
■石油製品を1kℓ作るのに必要なエネルギー指数比較
■鉄1トンを作るのに必要なエネルギー指数比較

がそれです。いずれも、原単位(GDP、1KWh、1トン、1kℓ)という相対的な数字で表現されています。広告の左下に名を連ねている58団体は日本の経済システムに組み込まれており、日本の21世紀社会の方向性を決める政治力を持っています。そして、大変興味深いことはこれらの団体の多くが環境自主行動計画の未達成業界と重なり合っていることです。

さて、この意見広告のメッセージは明らかに国民をミスリードし、事態をますます混迷させるものですが、この意見広告の唯一の功績は経済界の「気候変動問題に対する判断基準」が「私の環境論」が主張する温室効果ガスの「総量規制」ではなく、 「原単位の向上」に基づいていることを経済界自ら明らかにしたことです。この発想は20世紀の発想そのもので、21世紀には不適切なものです。

次の図は日本の技術者が理解していた「1996年当時の省エネの概念」です。今回の意見広告で明らかにされた「経済界の省エネに関する判断基準」を見ますと、経済界の考え方や認識が13年経った現在でも今なおほとんど変わっていないことを示しています。


京都議定書は日本に90年比で-6%の温室効果ガスの「総量の削減」を求めています。しかし、日本の経済界が行ってきた努力は、この目標の達成には全く効果はありませんでした。目標を達成するという努力をしなかったからです。本来なら、「総排出量の削減」という目標が設定され、その目標を達成する手段として「効率化」別の言葉でいえば「原単位の向上」があるのです。
 
「原単位の向上」という経済界の懸命の努力にもかかわらず、日本のエネルギー消費量も温室効果ガス排出量も減少するどころか逆に増え続けているのです。特に最新の温室効果ガスの排出量(2007年)は過去最高、つまり、日本の歴史上最悪を記録したのです。このことは次の2つの図を見れば明らかです。






それにしても、この意見広告の最大のメッセージと考えられる「考えてみませんか? 私たちみんなの負担額。」は国民への偽装メッセージではないでしょうか。

日本の温室効果ガスの排出は産業部門(もう少し正確に言えば 15%程度の家庭部門以外の企業活動に関する部分)が最大であるにもかかわらず、経済界が努力したのは「原単位の向上」であり、温室効果ガスの総排出量の削減ではありませんでした。ですから、当然のことではありますが、一生懸命原単位を向上させたにもかかわらず、日本の現実は結果としてエネルギー消費の増加にに寄与するという、望まない現象が生ずることになったのです。

これ以上の説明は必要ないでしょう。次の関連記事をご覧ください。


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経済界の総意とも言える「日本は世界のトップレベルの低炭素社会です」、(そして、いま、さらに向上の努力をしています)という「意見広告」が事実であれば、日本はどうして、「今日の化石賞」などという不名誉な賞を繰り返し受賞するなど国際社会の評価が芳しくないのでしょうか。

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