スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

原発論議の再燃(2)-中央党の妥協

2009-02-06 10:53:35 | スウェーデン・その他の環境政策
スウェーデン議会の建物で開かれた中央党議員の緊急会合は、水曜日の夜だけでは終わらず、木曜日の早朝にも再び開催されることになった。そして、10時半。中央党を含む与党4党の党首が記者会見を行った。

「与党4党は環境・温暖化・エネルギー問題に関して、歴史的な合意に至った」と、ラインフェルト首相は始める。中央党が既存の原発の更新に同意したというのだ。具体的に言えば、スウェーデンではこれまで原発の新たな建設(更新も含む)を禁止する法令が存在したが、この法令を撤廃することに同意したのだ。


左から2番目の女性が中央党党首

中央党党首モウド・オーロフソンは、こう述べる。
「わが党は原発に対するこれまでの見方を変えたわけではない。原発の増設に合意したわけでもない。しかし、原発が今後も長期にわたって、スウェーデンの電力供給に重要な役割を果していくという考え方は受け入れる。」

前回も書いたように、中央党1980年の国民投票では、反原発キャンペーンを展開(当時はまだ環境党は存在しなかった)。自分の党だけでなく、他の党の支持者からも反原発の支持を受け原発の廃絶という選択肢を国民投票で勝ち取ることになった。しかし、当初立てられた2010年までに全廃という目標は、2002年に当時の社会民主党政権と左党、それにこの中央党の合意の下で撤廃。それ以降は「現在、稼動中の原子炉は、安全水準を満たし、採算が取れる間は使い続け、その後、廃棄していく」という立場を、党の方針としていたのだった。

だから、この党は今回、さらに譲歩したことになる。

1980年の国民投票の際のキャンペーン・バッジ(選択肢は3つ)

今回の合意の結果、現在使われている10基の原子炉の寿命が来れば、現在と同じ場所に、最大10基までの原子炉を建設することが認められる。

しかし、中央党もある意味、頑張った。与党の他の3党の要求を呑む代わりに、逆に新たな要求を彼らに呑ませ、妥協点を見出したのだった。

再生可能なエネルギー源を利用した発電(風力・太陽光・波力・バイオマス)の拡張・普及を促進する。特に、スウェーデン政府としての風力発電の拡張目標を大きく引き上げる。
エネルギー使用の効率化を推し進め、エネルギー需要を全体として削減していくために、政府が大きな投資を行う。(エネルギー総使用量を2020年までに20%減)
・2020年までに全使用エネルギーに占める、再生可能なエネルギーの割合を50%に引き上げる。(現在は確か43%くらい。EUがスウェーデンに課した達成目標は2020年までに49%だったから1%引き上げられたことになる。)
運輸部門の使用エネルギーに占める再生可能エネルギーも、2020年までに10%にする。
・道路運輸・交通では2030年をめどに、´化石燃料の全廃を目指す。そのために、二酸化炭素税(環境税の一つ)をさらに引き上げる

しかも、
原発の新設には、たとえ更新であっても、政府は一切お金を出さない費用は電力業界がすべて自分たちで賄うべき、とする。
・一方、再生可能エネルギーには、現在の課徴金制度を通じて、今後とも支援を行っていく。(ここでいう課徴金制度とは、一般の消費者が使用する電力にエネルギー税・環境税とは別に課徴金を課し、その課徴金を再生エネルギー源の拡張に充てる、という一種の使途目的税。ちなみに、これに対し、エネルギー税・環境税は使途を特定しない一般財源。)

という点でも合意したようだ。

だから場合によっては、電力会社にとって原発新設のほうが高くつくこともありうるわけで、そうなってくると、原発更新とは別の道を電力会社が自ら選ぶ、という可能性もあるということだ。

野党である社会民主党・環境党・左党は、共同で記者会見を行い「中央党の裏切り」と非難した。その上で、次の総選挙(2010年9月)で政権を獲得すれば、原子炉をさらに1基閉鎖できるかどうか検討したい、という。

「これまで通り、エネルギー源とエネルギー使用の転換を全力で行っていけば、雇用と豊かさを犠牲にすることなく、原子力依存を減らしていくことは十分可能だと思う。」と、社会民主党党首モナ・サリーンは述べる。


真ん中の女性が社会民主党党首

スウェーデンで最大の環境保護団体であるスウェーデン環境保護協会(Svenska naturskyddsföreningen:会員数約18万人)は、「スウェーデン社会が現在掲げている環境目標・温暖化対策目標をクリアするために必要なのは、原発依存の維持などではなく、これまで以上に省エネ努力と再生可能エネルギーの発展と普及に支援を行っていくことだ。」

今回の合意に「省エネと、再生可能エネルギーへのさらなる公的支援」が含まれていることに対しては、「もし、今の政府に本当にその気があるのなら、原発依存の維持は必要ないはずだ。2009年後半にスウェーデンはEU議長国を担当するが、それに先駆けてスウェーデン政府がこのような合意をしたということは、世界に向けておかしな信号を発したことになる。」とコメントを発表している。

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1 コメント

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報道 (Moder)
2009-02-07 13:28:14
日本の各新聞でも「スウェーデン原発廃棄政策撤回」と大きく報道されています。Googleのニュース検索で、「スウェーデン」と検索してみて下さい。
毎日新聞では、「欧州各国に原発回帰の動きを広げているのは、地球温暖化対策だけでなく、天然ガスの最大の供給国ロシアが資源を政治的意図の道具にする傾向への警戒もあるからだ」と書かれていました。
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