環境問題スペシャリスト 小澤徳太郎のブログ

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原発を考える ⑫ (最終回) 私の素樸な疑問     

2007-04-23 04:13:45 | 原発/エネルギー/資源


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4月10日から始めた「原発を考える」シリーズ も今日で12回となりました。私の環境論に基づく「原発に対する基本的な考え」を皆さんにお伝えできたと思いますので、今回でいったんこのシリーズを終わります。


シリーズを終わるにあたって、いかに日本のマスメディアがスウェーデンの原発政策をミスリードするのかを具体的に見ておきましょう。次の記事は1988年6月9日の朝日新聞の夕刊に掲載された記事です。同様の記事が他紙にも掲載されていました。




私が初めて原発問題を日本の社会に問いかけたきっかけは およそ20年前、1988年8月10日の朝日新聞の「論壇」でした。





この投稿記事に真っ先に反応したのは当時、反原発・脱原発運動を進めていた方々ではなく、科学技術庁でした。新聞掲載の翌日か2日後に、科学技術庁の課長(?)から職員に講演して欲しいとの依頼を受けました。

それ以来、私は日本とスウェーデンの原発の動向をウオッチしてきました。この「原発を考える」というシリーズを終わるに当たって、いまなお、十分な回答を得られていない私の率直な疑問を提示しますので、皆さんも一緒に考えてください。なお、これらの疑問は私の最初の本「いま、環境・エネルギー問題を考える」(ダイヤモンド社、1992年7月)に収録されています。


疑問:その1
1990年12月23日に発表されたわが国の総理府の「原子力に関する世論調査」によれば 調査対象の90%が原発に不安を感じるが、64.5%は原発の必要性を感じているそうです。一方、スウェーデンの世論調査では、自国の原発に不安を感じるのは常に調査対象の30~40%程度で、1980年の国民投票でも投票者の60%弱が12基までとの上限があるものの「原発容認」に票を投じていました。

2010年における原発を発電容量で「現在の2倍以上(110万Kw級原子炉で40基分相当)」にするという目標を1990年6月に設定した日本と、2010年には原発を「ゼロ」にするという目標を10年前に掲げて様々な試みを行ってきたスウェーデンとの間に「原発」に対する考え方の大きな相違があるのは何故なのでしょうか?
 

疑問:その2
日本の原子力関係者の一部には、スウェーデンはそのエネルギー政策で“苦悩あるいは迷走”しているという表現を好む向きがあります。

私に言わせれば、順調に稼働し、しかも自国の原発技術に対して政府や国民がかなりの信頼を寄せている原発を廃棄し、しかも自然破壊の原因となる水力発電のこれ以上の拡張を禁止し、さらに、環境の酸性化の原因とされる化石燃料の使用に厳しい規制を要求する国民各層の意見を反映して策定された「国のエネルギー政策」を、そのような判断基準を持たない国の視点で現象面だけを見れば、「苦悩しているように見える」のは当然でしょう。
   
(1)もし原発が環境に対してクリーンであるならば、20年以上も硫黄酸化物(SOx)         
   や窒素酸化物(NOx)に起因するとされる「環境の酸性化(日本では“酸性雨問
   題”と言います)」に悩み、しかも
(2)二酸化炭素(CO2 )の排出にも最も厳しい姿勢を示しているスウェーデンが順調      
   に稼働し、信頼されている原発を“苦悩あるいは迷走”しながらも廃棄しようとす
   るのは何故なのでしょうか?
 

疑問:その3 
200年を越えるという情報公開制度の歴史を持つスウェーデンで、国際的に見ても
   (1)最大限の安全対策、
   (2)最大限の廃棄物対策、
   (3)徹底した原発労働者の放射線被ばく防護対策、
   (4)原発の安定した順調な稼働実績、
   (5)徹底した原発施設の一般公開
   (6)原発情報の積極的な公開と提供
などに加えて、十分な「PA活動(国民の合意形成活動)」を続けてきたにもかかわらず、1989年4月に東京で開かれた日本原子力産業会議の第22回年次大会で、スウェーデン原子力産業会議の会長に「スウェーデンでは『PA活動』が成功しなかった」と言わせしめたのは何故なのでしょうか?
 

疑問:その4
日本の高校社会科の教科書における原発の扱いにも問題があります。この件を報じた1990年7月1日付けの朝日新聞の記事をみますと、私は「原稿本」の表記が正しく、文部省の指示にしたがって修正した「見本本」は誤りであり、修正は改悪であると思います。



疑問に思う方は日本の原子力委員会が編集している「原子力白書(平成元年版)」の13~14ページのスウェーデンの項を参照してください。原子力白書はかなり正確にスウェーデンの状況を記述しています。

仮に、この記事の「見本本」の表記が正しいとすれば、スウェーデンのエネルギー政策の行方に一喜一憂(?)することもなければ、何組もの調査団をわざわざスウェーデンまで送り、類似の関心事項を繰り返し調査するような無駄は必要ないと思いますがいかがでしょうか? 


疑問:その5
皮肉なことに、スウェーデンの原子力技術の水準の高さを最もよく知っているのは、日本ではほかでもない、原子力の専門家の方々です。

原子力エネルギーが環境に対してクリーンかどうか、あるいは環境にやさしいかどうかは1991年8月12日の朝日新聞の記事「原子力への課税提案へ」という記事や業界誌の週刊「エネルギーと環境」の1991年7月11日号の「原発もCO2 課税の対象に、波紋投げる」という記事をみれば、明らかでしょう。

原子力エネルギーが環境にクリーンと言うなら、あるいは環境にやさしいと言うなら、スウェーデン以外の工業先進国、たとえば、米国、英国、ドイツ、フランスなどが原子力エネルギーの利用にこれまで以上に積極的にならないのはなぜなのでしょうか? 

もう一度繰り返しますが、これらの疑問は私が15年以上前からいだいてきた疑問です。

化石燃料に乏しく、輸入石油への依存度が高いという点で、かつては日本と似た立場にあった北欧の先進工業国スウェーデンの動向やEUの動向に適切に答えることこそ、日本の原子力関係者に求められていることではないでしょうか?


 
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