12時間後と 「 菜穗子 」

2013-09-24 | 日記

                  朝、6 時 15 分の西南西の空

                    夕方、6 時 15 分の西の空

 風呂上りに外に出て、数分間のストレッチ体操をする。夜の匂いは稲刈りの後の稲の匂いがして、涼しい夜が気持ちいいし、星が綺麗だ。今夜は読みかけになっている昭和16年発表の 「 菜穗子 」 を読み終えようと思う。この小説は 『 堀辰雄全集 第二巻 小説 下 』 に収録されている。人妻・菜穗子と、病気の体と冬の旅ですっかり疲れ切った都築明とは一体どうなるんだろう、今は後半部分である。しかし小説とはいいながらストーリーを追うことではなく、菜穗子や明と共にこの小説に流れる時間と空気に身をゆだねるのである。菜穗子や明が生きている文学空間はイコール僕の現実生きている空間ではないのは勿論であるけど、だけど小説家の文体というものが、僕をして、主人公たちの肉声として聴こえてくることはあるにはあるのである。上質な音楽に、時として陶酔することがあるように … 。澄み切った初秋の空に星々が輝きを引き残して行くように、彼らもまた読む者の心に消え残るのである。全てではなく一部でもなくて、僕の心に消え残ったものだけでいいのだ。菜穂子が夜の窓に電灯を灯せば、それは僕の窓にも電灯が灯るのだった。

こんな陰気な冬空の下を、いま頃明はあの旅びとらしくもない憔悴した姿で、見知らない村から村へと、恐らく彼の求めて来たものは未だ得られもせずに ( それが何か彼女にはわからなかつたが ) 、どんな絶望の思ひをして歩いてゐるだらうと、菜穗子はそんな憑かれたやうな姿を考へれば考へるほど自分も何か人生に對する或決意をうながされながら、その幼馴染の上を心から思ひやつてゐるやうな事もあつた。 「 わたしには明さんのやうに自分でどうしてもしたいと思ふ事なんぞないんだわ。 」 そんなとき菜穗子はしみじみと考へるのだつた。 「 それはわたしがもう結婚した女だからなのだらうか?そしてもうわたしにも、他の結婚した女のやうに自分でないものの中に生きるより外はないのだらうか? … 」   ( 「 菜穗子 」 より )

 


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