リズムとクレー

2012-11-09 | 日記

                 

パウル・クレーの水彩画 「 ハートのクイーン 」 ( 1922年作 ) 。これは外国のカレンダーになっているもので、10月のページにある。四角形のピースが、それらがグラデーションになっていて、とてもリズミカルでユーモラスな絵である。女王陛下のハートが真っ赤に鮮やかに、そしてむき出しになっている。だから、余計に鼓動のリズムがハートフルな色彩なのであった。だから、リズムは見えざる一個の美しい絵画である。人には人それぞれに固有のリズムを持っているが、 「 女王 」 もまた固有のリズムを持っているのだ。

個々のリズムが自然のリズムと一致する瞬間がある、そのとき自然発生的に微な爆発音が聞こえないだろうか。その爆発音こそが個々の歌なのである。一つのものが、また別の一つのものと和する時、自らの内に歌が自然に発生するのである。ここでいう自然のリズムとは、宇宙の秩序が奏でる原初の、聞こえない神秘の歌であった。全てのものに触れては過ぎる風、全てを濡らして通過する雨。月光と星々の輝きは遍く人々の屋根を照らすのであり、そして太陽の光は、恍惚として大地に突き刺さるのである。リズムとは交感のことである。波長と波長が重なる時、言葉と言葉が交わされる時、肌と肌が触れ合う時、甘美なリズムが生まれるのである。考えて見れば、生きる切なさこそがリズムの発生源なのであった。

クレーの芸術は、真にハートの芸術であり、実にリズムの芸術であった。僕は東京に出稼ぎに出て、クレーの絵にめぐり合えて本当によかったと思う。絵が背中を押すのであった、「 ダイジョウブ 」 と。