この週末に、先月聴いてきた上岡敏之によるブルックナーの第3交響曲のテレビ放送があったので、あらためて聴いてみた。Eテレの「クラシック音楽館」という番組だ。
インタビューのシーンで、上岡氏はワーグナーとブルックナーとは全く正反対の音楽であると語り、ブルックナーの音楽には深い祈りを感じると語っていた。歌えるようなモチーフはなく、単純な主題の積み重ねから表れる響きの中で、目に見えないものを感じ取るということなのだろう。実際、アントンKもブルックナーを聴く場合は、響きの奥深さの善し悪しで感じることが違ってくるように思っている。だから自分にとっては、技術至上主義な演奏よりはパウゼを意識した精神至上主義の演奏の方が好みなのだ。この点から言えば、この日の上岡敏之の演奏は、まさにプレーヤ達から、どこか神がかった雰囲気が伝わってきたと言えるだろう。
番組内のリハーサルシーンで、指揮者上岡が、第1楽章の出の部分、弦楽器に対して「弾かないくらいの感じでいきましょう~」と極端な事を要求していたが、まさにこの部分は、アントンKにとって当日のっけから驚嘆したポイントだった。主題を奏するTpに対し、このリハーサルでは、「周りを気にせずしっかり出して!」と言っていたが、本番では、このTpでさえ抑えられていた印象だった。もっともテレビのスピーカからの音では、当日を再現することは不可能であり、演奏の記録として割り切らなければならないが、それでも表面に現れた音楽表現については、確認できるから、今後しばらくはVTRを鑑賞してみたいと思っている。
それにしてもオーケストラの各パートの方々が証言していたが、上岡氏の経験や伝統に捕らわれない演奏解釈は本物だ。音に色が付いているとすれば、今までにない色まで要求するだろう。それが今回のブルックナーであり、そしてワーグナーということになる。きっと新日本フィルも上岡氏の求める音色を自然に奏でる様な関係になっていくのだろうが、その過程を一緒に歩むことも自身心の栄養になり、ワクワクさせられるひと時なのだ。