「鬼」にまつわる読書が止まらない。このテーマは深すぎる。この国の歴史・文化に埋もれれたディープな側面をあらわにしてやまない。
なんだか、結論から書くみたいなことになりそうだから、いまの段階では秘しておくが(秘してこそ花/By 世阿弥)21世紀の現在を生きる私たちのこころの闇の部分には、いまだに鬼が棲み、そして中世と言える平安時代の心象がひそんでいるらしい。
最近2冊の小説を読んだ。「鬼の研究」の一環として選んだ小説だった。そして、びっくりした。その2冊ともがいわゆる「古典」の焼き直し、そういって悪ければ材を古典に求めた翻案のような内容だった。
これは、ともに朝日文庫だったが、その選択に他意はない。
最初の1冊目は、詩人である伊藤比呂美さんの小説『日本ノ霊異(フシギ)ナ話』である。これはタイトルからも分かるように、8世紀ころに奈良薬師寺の僧景戒によって編纂された『日本霊異記』(日本国現報善悪霊異記)からインスパイアされた話で構成された、それでいて詩人らしい力技で押し切った伊藤比呂美節の物語になっている奇怪な小説である(笑)。現代語超訳という言い方も可能かとも思うが、面白く読んだ。とはいえ、骨格は『日本霊異記』であって、それぞれの原物語は指摘できる小説である。現在カルフォルニア在住の詩人に、このような日本的もしくは仏教的心象がきざすこと自体が、ボクには不思議に思える。カルフォルニアの空の下で夢見られた1200年以上前の「日本」が、不思議な説得力で立ち上がってくる。(評価:★★★1/2)
2冊目は、朝日文庫から昨年9月に刊行されていた夢枕獏と稀代のイラストレーター天野喜孝がコラボしたという『鬼譚草紙』である(2000年頃「アサヒグラフ」に連載された作品らしい)。1日で読了してしまったが、この作品にはクレームがある。というのも、ここに収録された3話ともが『今昔物語』などの古典作品からの翻案である。であるにもかかわらず、そのことがどこにも付記されていない。これは、どうしてなのか?
夢枕獏氏は、SF作家としてデビューしている。大衆小説のひとつとしてのSFの有り様だったら、このようなパクリは理解できる。神話的な古典を未来の小説に仕立てると言う次元なら、SFのスペースオペラものなら得意とするからである。しかし、この小説では時代は平安時代なのである。『今昔物語』を現代風に翻案したのであれば、そのことはひと言ことわるべきではなかったのか?
もっと言えば、夢枕獏氏は『隠明師』シリーズで大ヒットした物語作者だ。この作品は、マンガ化されさらには映画化されてそれぞれがヒット作となった。安倍晴明の伝説それ自体が『今昔物語』に物語としてのルーツを持つものだ。
そしてさらに、言えばこれはボク自身が「鬼」をテーマとするなかで、知り得たことだが、『鬼譚草紙』の「ネタ本」らしき書物はいまのボクには指摘できる。これまたボク自身が、30年ぶりに再読することによってシンクロしてしまった書物だ。夢枕獏氏の作品『鬼譚草紙』は、馬場あき子氏の『鬼の研究』に多くのアィデアを得ている。(評価:★★1/2)
なんだか、結論から書くみたいなことになりそうだから、いまの段階では秘しておくが(秘してこそ花/By 世阿弥)21世紀の現在を生きる私たちのこころの闇の部分には、いまだに鬼が棲み、そして中世と言える平安時代の心象がひそんでいるらしい。
最近2冊の小説を読んだ。「鬼の研究」の一環として選んだ小説だった。そして、びっくりした。その2冊ともがいわゆる「古典」の焼き直し、そういって悪ければ材を古典に求めた翻案のような内容だった。
これは、ともに朝日文庫だったが、その選択に他意はない。
最初の1冊目は、詩人である伊藤比呂美さんの小説『日本ノ霊異(フシギ)ナ話』である。これはタイトルからも分かるように、8世紀ころに奈良薬師寺の僧景戒によって編纂された『日本霊異記』(日本国現報善悪霊異記)からインスパイアされた話で構成された、それでいて詩人らしい力技で押し切った伊藤比呂美節の物語になっている奇怪な小説である(笑)。現代語超訳という言い方も可能かとも思うが、面白く読んだ。とはいえ、骨格は『日本霊異記』であって、それぞれの原物語は指摘できる小説である。現在カルフォルニア在住の詩人に、このような日本的もしくは仏教的心象がきざすこと自体が、ボクには不思議に思える。カルフォルニアの空の下で夢見られた1200年以上前の「日本」が、不思議な説得力で立ち上がってくる。(評価:★★★1/2)
2冊目は、朝日文庫から昨年9月に刊行されていた夢枕獏と稀代のイラストレーター天野喜孝がコラボしたという『鬼譚草紙』である(2000年頃「アサヒグラフ」に連載された作品らしい)。1日で読了してしまったが、この作品にはクレームがある。というのも、ここに収録された3話ともが『今昔物語』などの古典作品からの翻案である。であるにもかかわらず、そのことがどこにも付記されていない。これは、どうしてなのか?
夢枕獏氏は、SF作家としてデビューしている。大衆小説のひとつとしてのSFの有り様だったら、このようなパクリは理解できる。神話的な古典を未来の小説に仕立てると言う次元なら、SFのスペースオペラものなら得意とするからである。しかし、この小説では時代は平安時代なのである。『今昔物語』を現代風に翻案したのであれば、そのことはひと言ことわるべきではなかったのか?
もっと言えば、夢枕獏氏は『隠明師』シリーズで大ヒットした物語作者だ。この作品は、マンガ化されさらには映画化されてそれぞれがヒット作となった。安倍晴明の伝説それ自体が『今昔物語』に物語としてのルーツを持つものだ。
そしてさらに、言えばこれはボク自身が「鬼」をテーマとするなかで、知り得たことだが、『鬼譚草紙』の「ネタ本」らしき書物はいまのボクには指摘できる。これまたボク自身が、30年ぶりに再読することによってシンクロしてしまった書物だ。夢枕獏氏の作品『鬼譚草紙』は、馬場あき子氏の『鬼の研究』に多くのアィデアを得ている。(評価:★★1/2)