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『たけくらべ』の人々 その3  田中 優子

2015年09月15日 00時40分12秒 | 古典
 『たけくらべ』の人々 その3  田中 優子

 ストーリーをまとめると、これしか書くことはない。しかし明治以来、この短い小説 『たけくらべ』をめぐって多くの評論が書かれ、多くのことが論じられてきた。それだけ近代小説成立にあたって重要な作品であり、また魅力的な読み物なのである。その後の近代小説の系譜から見て重要なだけではなく、じつに江戸時代から見ても、これは大事な、そして興味深い作品である。なぜならここには、日本の古典文学に通低している象徴性が満ち満ちていて、しかも同時に、日本の現実が見えるからである。古典と近代が融合し共存している作品だといってよい。ここからは近代文学の特徴も取り出せるし、古典文学の特徴も取り出せるのである。
 さて、ストーリーだけでは見も蓋もない。少し、登場人物の背景も案内しておこう。美登利についてはすでに述べた。加えるとするなら、その性格である。美登利の中には、平安時代以来の日本女性の性格特徴の一面が見える。それは「闊達」である。頭の回転が速く、活気があって快楽的であり、明かる。あどけなく、物事の暗い面を知らない。それは神話でいえばアメノウズメ的な存在であり、象徴でいえばお多福であり、江戸時代の現実でいえば、遊女に求められた性格である。吉原の視点から見ると、美登利は理想的な遊女である。吉原がどういうところであったかについては、次章で詳しく述べるつもりだ。