民話 語り手と聞き手が紡ぎあげる世界

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樋口一葉「いやだ!」と云ふ  田中 優子 その4

2015年09月07日 00時10分54秒 | 古典
 樋口一葉「いやだ!」と云ふ  田中 優子(1952年生まれ) 集英社新書 2004年

 はじめに その4

 2004年1月の芥川賞は19歳と20歳の女性が受賞したが、一葉は、113年前、やはり19歳で小説を書きはじめ、24歳で亡くなった女性である。今でいえば小学校しか卒業していない。15歳のとき兄を亡くし、代わりに家督相続人(あとつぎ)になった。17歳で父が負債をかかえたまま死去し、戸主となる。その後は生涯、母と妹を養う。そして貧しい暮らしから抜け出せないまま亡くなった。もちろん独身。婚約を破棄されたことがある。たった一回恋をしたがかなわず、片思いに終わった。小さな人だったという。借金ばかりして歩いていた人だった、という。
 小説は趣味で書いたのではない。救いのために書いたのでもない。母と妹を養うために書いたのである。そしてその、お金のために書いた小説は、近代小説の切り開く傑作と評価され、今まで膨大な一葉論が書かれてきた。
 私は近代文学から長らく遠ざかっていた。近世(江戸)文学を読み、古典を読み、江戸学全体が面白くて、近代に戻る気にはなれなかった。しかし一葉を読むたび思った。「これは近代小説なのだろうか?それとも古典なのだろうか?」
 学生たちは違う意味で同じ事を言った。「せんせい、こんな古文みたいなもの読む気になれない」「難しくて、わからない」「しようがないからこのあいだ、現代語訳を読んだ」「え?樋口一葉って女だったの!」