民話 語り手と聞き手が紡ぎあげる世界

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『たけくらべ』の人々 その2  田中 優子

2015年09月13日 00時11分42秒 | 古典
 『たけくらべ』の人々 その2  田中 優子

 そういうわけでストーリーをまとめるのは難しいが、いくらか成り行きを説明しておこう。この小説の舞台は、現在の東京都台東区千束および竜泉である。当時、ここには江戸時代から続く吉原遊郭があり、主人公の美登利(14歳)は、この吉原遊郭で遊女の最高位に立つ大巻の妹として、両親とともに和歌山から出てきた。美登利と家族は、姉が勤める大黒屋という楼(遊女と客が会う店)の寮で暮らしている。寮は亭主とその家族が暮らしたり、遊女が療養したりするところで、遊郭の外にある。父は他の小さな楼の事務員をやり、母は寮の雑事をしながら遊女たちの着物の仕立てをしている。
 物語は8月20日の千束神社の祭の準備から始まり、11月下旬の、大鳥神社の酉の市で終わる。美登利のまわりには、龍華寺の藤本信如(15歳)、鳶の頭の息子・長吉(16歳)、質屋の息子・田中屋正太郎(13歳)、人力車の車夫の息子・三五朗(15歳)がいる。千束神社の祭の日、美登利と三五朗は長吉たちにけんかをふっかけられる。その背後に信如がいると聞いて、美登利はそれ以来沈み込み、学校にも行かなくなる。やがて美登利は姉のもとで髪を島田に結い、町で遊ぶこともしなくなる。信如は僧侶の勉強をするために、その地を去ってゆく。