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「あくせく自適で行くんだ、オレは!」 加藤 芳郎

2015年05月15日 00時14分11秒 | 健康・老いについて
 「あくせく自適で行くんだ、オレは!」 加藤 芳郎  講談社 1995年

 「悠々自適は五年でボケる」

 「やあやあ久しぶり。どうだい最近は」
 「うん、おかげさまで会社も定年退職で、今は悠々自適にやってるよ」
 こんな会話を聞いて、うらやましいなと思ってはいけない。気の毒に、もうあと五年の命だなと思ってみなくてはならない。今はそういう時代だ。
 逆に、
 「やあやあ久しぶり。どうだい最近は」
 「うん、会社は辞めたんだけど、貧乏暇なしであくせくやってるよ、ハ、ハ、ハッ」
 という人がいたら、ああこの人は長生きするなと思っていい。
 悠々自適なんていうのは、人生五十年時代に横町のご隠居さんがたどりついた道筋で、マンションやようやく手に入れた庭つき一戸建てに住む現代の熟年世代がうらやましがることではない。
 うそだと思うなら、悠々自適をやってごらんなさい。間違いなく五年でボケるから。

 中略

 じゃあ何に憧れて生きていけばいいのか。それが「あくせく自適」なんです。
 憧れるというほど、ごたいそうなものじゃあない。あくせくと生きていかなくちゃならないんだから。でも、ちゃんと自適がついている。

 中略

 ぼくはひそかに思っているんだけれど、女性は男性に比べて長生きでしょ。あれは悠々自適してないからだ。女の人が、「さあ、今日から悠々自適しよっ」なんて言っているのを聞いたことがありますか。一日中こまごまと動き回っている。お布団干さなくちゃとか、洗濯ものたたまなくちゃ、なんてね。
 あれが男より長生きする秘訣なんだ。男だけが、仕事から解放されて、さあ悠々自適しようなんて言って、ほんとになんにもしなくなって、五年でボケちゃうんだね。酔っ払うのもボケるのも早いモン勝ちなんていうけれど、おもしろい人生なんだから、先につぶれちゃもったいない。