民話 語り手と聞き手が紡ぎあげる世界

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「弁天娘女男白浪」 雪下浜松屋の場

2013年06月26日 00時26分28秒 | 名文(規範)
 弁天娘女男白浪(べんてんむすめめおのしらなみ) (雪下浜松屋の場)
  

与九郎 「さては女と思ったに、騙(かた)りであったか。(みんなで)イァ/\/\。 」

弁天小僧 「そうよ。金が欲しさに 騙(かた)りに来たんだ。
秋田の部屋ですっぱり取られ、塩噌(えんそ)に困るところから、
百両(いっぽん)ばかり稼ごうと、損料物の振袖で 役者気どりの女形、
うまくはまった狂言も こう見出されちゃぁ訳はねえ、
何のことはねえ、ほんのたでえまのお笑(われ)え草だ。」

与九郎 「どう見てもお嬢さんと思いのほかの大騙り、さて/\太い、(みんなで)奴だなぁ。 」

弁天小僧 「どうで騙りにくるからは、首は細えが、おゥ番頭さん、肝は太えよ。」

南郷力丸 「何だなぁ、太いの細えのと橋台(はしでえ)で、売る芋じゃぁあるめえし。」

弁天小僧 「違えねえ、どれでもより取りが聞いてあきれらぁな。」

駄右衛門 「企(たく)みし騙りが現われても、びくとも致さぬ大丈夫(だいじょうぶ)、
ゆすり騙りのその中でも、さだめて名ある 者であろうな。 」

弁天小僧 「へえ、それじゃぁ まだお前(めえ)方、わっちらの名を知らねえのか。」

与九郎 「どこの馬の骨か、(みんなで)知るものか。」

弁天小僧 「知らざあ言って 聞かせやしょう。
(待ってましたの声、キセルを二度叩いて)
浜の真砂(まさご)と 五右衛門が 歌に残した 盗人(ぬすっと)の 種は尽きねえ 七里ケ浜 
その白浪の 夜働き 以前をいやあ 江の島で 年季勤(づと)めの 稚児ケ淵(ちごがふち)
百味講(ひゃくみ)でちらす 蒔銭(まきせん)を 当(あて)に小皿の 一文子(いちもんこ)
百が二百と 賽銭の くすね銭(ぜに)せえ だんだんに 悪事はのぼる 上(かみ)の宮 
岩本院で 講中(こうじゅう)の 枕探しも 度重なり お手長講と 札つきに 
とうとう島を(あ) 追い出され それから若衆(わかしゅ)の 美人局(つつもたせ)
ここや彼処(かしこ)の 寺島(てらじま)で 小耳に聞いた 音羽屋の(じいさんの)
似ぬ声色(こえいろ)で 小ゆすりかたり 
名せえ由縁(ゆかり)の 弁天小僧 菊之助たァ (腕をまくり)おれのことだ。」

南郷力丸 「その相ずりの 尻押しは、富士見の間から 向うに見る、大磯小磯 小田原かけ、
生まれは漁師で 波の上、沖にかかった 元船へ、その船玉(ふなだま)の 毒賽(どくぜえ)を 
ぽんと打ち込む 捨て錨(いかり)、船丁半(ふなじょうはん)の 側中(がわじゅう)を、
ひっさらってくる 利得(かすり)とり、
板子一枚(いたごいちめえ) その下は、地獄と名に呼ぶ 暗闇の、明るくなって 度胸がすわり、
櫓(ろ)を押しがりや ぶったくり、船足(ふなあし)重き 凶状に、昨日は東 今日は西、
居どこ定めぬ 南郷力丸、面(つら)ァ見知って 貰(もれ)えてえ」