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「さとる」(さとりの化け物) ミヨキさんのざっと昔

2013年06月14日 00時57分37秒 | 民話(昔話)
 「さとる」(さとりの化け物)「ミヨキさんのざっと昔」野上千恵子・堀之内裕子・小熊延幸 編著
 ざっと昔あったと
 山へ炭焼きしてるじさがあったって。
山へ小屋かけて、そこ泊まって炭焼きしてたども、秋になって雪がどんどん降ってきたんだんが、
「明日下げよ。早く炭背負(しょ)って家(うち)もどろ」
と思って、どんどんどんどんと火燃(も)して、かちき(かんじき)がねぇんば行がんねぇんだんが、
山竹取ってきて、かちき こしょう(作ろう)と思っていたら、そこへ一つ目の化け物(もん)が
入(へぇ)ってきて、そのどんどん燃(も)した火のとこへ当たってってんがの。

「まぁ、この一つ目の化け物は気味(きび)が悪(わ)りくて」
と思って、じさ見ていたら、ほしっと、その化け物が、
「じさじさ、お前(めぇ)の言(よ)うこと、思ったこと、おれが全部当てて、話してっからのんし」
 そう言う。
「まぁ、はて、この化け物は気味が悪りくていやだなぁ」
と思ったら、その化け物が、
「じさじさ、お前、今、この一つ目の化け物、気味が悪りくていやだなぁ、と思ったのんし」

 ほしっと、こった(今度)じさ、
「いやだなぁ、この一つ目の化け物な、どうしてくりょ」と思ったら、その化け物が、
「じさじさ、今、この一つ目の化け物な、どうしてくりょ、と思ったのんし」
じさの思ったこと、みんな、化け物が言うと、
「あぁ、山ん中入っと、人の思ったことみんな判じる、さとるっていう化け物がいたってあったが」
そ思ったら、またその化け物が、
「じさ、今、さとるという化け物があって、人の思ったことみんな判じるって話だ、そう思ったのんし」
ほしっと、じさが、「この化け物な、どうしてくれたがいいな」と思った。
ほしっと、「じさじさ、今、この化け物の、どうしてくりょ、と思ったのんし」
じさの思ったことみんな当てっと。

 ほしっと、かちきこしょう(作ろう)と思って、どんどん火燃(も)しった。
そこで竹切ってたんだん、竹を輪っかにしてたがん、どうした拍子だか、輪っから手が離れてあったと。
ほしっと、その輪っかが竹らんだんが、熱(あ)っちぇおきと熱灰(あつばい)がその一つ目の化け物に
飛びついたってんがの。
「あぁ、熱(あっ)ちぇちぇ」と思って、
「人間っていう者(もん)は、まぁ、おれが判じらんねぇこともしるから、
こんげんとこは長居はしらんねぇ。早く逃げよ」と思って、飛び出して逃げたって。
ほしっと、「昔は、さとるという化け物が山の奥へいてあったそうだ」
ってこと、じさ思って、ども、化け物の逃げたんだんよかったと。

 いきがさけもうした。なべんしたがらがら。