「日本むかしばなし」4 まぬけなおばけ 民話の研究会編 ポプラ社 1978年
「さとるのばけもん」 落合 じゅんこ
むかし、ひとりの炭焼きがおったと。
たったひとりで山へでかけ、小屋がけをしては、もくもく もくもくと炭を焼いておったと。
ある日のこと。
どういうわけか、その日は朝からうす暗く、日がはやばやと落ちると、雪もぼさぼさ降ってきた。
炭焼きはあんまり寒いもんで、たき火をこさえると、まきをぼんぼん くべはじめた。
まっ暗な空の中にすいこまれていく煙を、ぼんやりとながめているうちに、
炭焼きはなんや心細くなってきた。
(今日は昼間っから夜みたいに暗(くろ)うて、なんとも気味の悪い日でねが。
おら、こんげなさびしい山奥に、たったひとりっきりだば・・・・・。
なんや、おっかないもんでも出てこねば ええが・・・・・。)
炭焼きが心の中で、そう思うたとたん、
「なんや、おっかないもんでも出てこねば ええが・・・・・と思うたな!」
煙の向こう側から、わらわらと、不気味な声が響いてきた。
びっくりして炭焼きが見ていると、暗闇の中から大きな目ん玉がひとつ、
こちらをぎろっとにらんでおる。
(出たっ。ひ、ひとつ目のばけもんだ。こりゃ、どっかへかくれねば。
一体、どこさかくれたらええもんかの。)
炭焼きがあたふたしておると、
「いったい、どかさかくれたらええもんあの、と思うたな!」
そのばけもんは、すぐに言い当てた。
(こりゃいかん。かくれても、すぐ見つけられるぞ。
よし、そんならこのばけもん、ひとつやっつけてやるぞ。)
「このばけもん、ひとつやっつけてやるぞ、と思うたな!」
ばけもんは、またもや炭焼きの思うたことを、すぐにさとって言い当てた。
(ありゃ、やっつけることもできんぞ。
それにしても、おらの考えていることをぴたっぴたっとさとるとは、こいつはいったい、なにもんだ?)
炭焼きがそう思うと、
「おらの考えていることをぴたっぴたっとさとるとは、こいつはいったい、なにもんだ、と思うたな!」
(そうか、こいつが話しに聞く、さとるのばけもんというやつだな。
こりゃ、ぐずぐずしてると、とって食われるぞ。)
炭焼きはおろおろしはじめた。ところがやっぱり、
「 ぐずぐずしてると、とって食われるぞ、と思うたな!」
ばけもんに、こう かたはしから さとられたんでは、もうどうにもならん。
炭焼きはとうとう覚悟をきめた。
(なんぼ思うても、さとるのばけもんにかかっては、しょうがない。やめた、やめた。
思うのはもうやめた。さあ、とって食う気でくるならこい!)
覚悟をきめると、どっかと腰すえてマキをくべはじめた。
「 とって食う気でくるならこい、と思うたな!よしっ。」
ばけもんは近づいてきはじめた。
炭焼きはもうなんも考えんで、マキをくべていく。
手にあたったまきを一本とっては、膝小僧にあて、力を入れて二つに折る。
ばけもんはたき火をまわって、じわりじわりと近づいてくる。
とうとう、ばけもんが炭焼きにとびかかろうとした、ちょうどその時。
パチッ
大きな音がして、炭焼きの折っていたマキのこっぱがはじけちった。
はじけたこっぱは、ばけもんの目ん玉の中にとびこんだ。
「あちい、あちい、あちちちち。」
ばけもんは、目ん玉かきむしってわめきちらし、どたんばたんと大騒ぎ。
そのうち、
「人間というやつは、まったく、思いもかけんことをするもんだ。おっかない、おっかない。」
こう叫ぶと、山の奥深く、ころげるように逃げて行ってしまったと。
こんで、これっきり。
「さとるのばけもん」 落合 じゅんこ
むかし、ひとりの炭焼きがおったと。
たったひとりで山へでかけ、小屋がけをしては、もくもく もくもくと炭を焼いておったと。
ある日のこと。
どういうわけか、その日は朝からうす暗く、日がはやばやと落ちると、雪もぼさぼさ降ってきた。
炭焼きはあんまり寒いもんで、たき火をこさえると、まきをぼんぼん くべはじめた。
まっ暗な空の中にすいこまれていく煙を、ぼんやりとながめているうちに、
炭焼きはなんや心細くなってきた。
(今日は昼間っから夜みたいに暗(くろ)うて、なんとも気味の悪い日でねが。
おら、こんげなさびしい山奥に、たったひとりっきりだば・・・・・。
なんや、おっかないもんでも出てこねば ええが・・・・・。)
炭焼きが心の中で、そう思うたとたん、
「なんや、おっかないもんでも出てこねば ええが・・・・・と思うたな!」
煙の向こう側から、わらわらと、不気味な声が響いてきた。
びっくりして炭焼きが見ていると、暗闇の中から大きな目ん玉がひとつ、
こちらをぎろっとにらんでおる。
(出たっ。ひ、ひとつ目のばけもんだ。こりゃ、どっかへかくれねば。
一体、どこさかくれたらええもんかの。)
炭焼きがあたふたしておると、
「いったい、どかさかくれたらええもんあの、と思うたな!」
そのばけもんは、すぐに言い当てた。
(こりゃいかん。かくれても、すぐ見つけられるぞ。
よし、そんならこのばけもん、ひとつやっつけてやるぞ。)
「このばけもん、ひとつやっつけてやるぞ、と思うたな!」
ばけもんは、またもや炭焼きの思うたことを、すぐにさとって言い当てた。
(ありゃ、やっつけることもできんぞ。
それにしても、おらの考えていることをぴたっぴたっとさとるとは、こいつはいったい、なにもんだ?)
炭焼きがそう思うと、
「おらの考えていることをぴたっぴたっとさとるとは、こいつはいったい、なにもんだ、と思うたな!」
(そうか、こいつが話しに聞く、さとるのばけもんというやつだな。
こりゃ、ぐずぐずしてると、とって食われるぞ。)
炭焼きはおろおろしはじめた。ところがやっぱり、
「 ぐずぐずしてると、とって食われるぞ、と思うたな!」
ばけもんに、こう かたはしから さとられたんでは、もうどうにもならん。
炭焼きはとうとう覚悟をきめた。
(なんぼ思うても、さとるのばけもんにかかっては、しょうがない。やめた、やめた。
思うのはもうやめた。さあ、とって食う気でくるならこい!)
覚悟をきめると、どっかと腰すえてマキをくべはじめた。
「 とって食う気でくるならこい、と思うたな!よしっ。」
ばけもんは近づいてきはじめた。
炭焼きはもうなんも考えんで、マキをくべていく。
手にあたったまきを一本とっては、膝小僧にあて、力を入れて二つに折る。
ばけもんはたき火をまわって、じわりじわりと近づいてくる。
とうとう、ばけもんが炭焼きにとびかかろうとした、ちょうどその時。
パチッ
大きな音がして、炭焼きの折っていたマキのこっぱがはじけちった。
はじけたこっぱは、ばけもんの目ん玉の中にとびこんだ。
「あちい、あちい、あちちちち。」
ばけもんは、目ん玉かきむしってわめきちらし、どたんばたんと大騒ぎ。
そのうち、
「人間というやつは、まったく、思いもかけんことをするもんだ。おっかない、おっかない。」
こう叫ぶと、山の奥深く、ころげるように逃げて行ってしまったと。
こんで、これっきり。