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「さとりの化け物」 稲田浩二・和子 

2013年06月12日 00時03分33秒 | 民話(昔話)
 「さとりの化け物」 日本昔話百選  稲田浩二・和子  三省堂  2010年版

 ざっとむかしあったと。

 じいさまが夜なかに山小屋で、たったひとり火に当たっていらしたと。

 すると何かが音をさせないではいってきて、火のはたへ寄って来たから、
「これは性(しょう)の知れない化け物だな」と思っていらしたと。

 そうしたれば化け物が、
「われは、性の知れねえ化け物だな、と思っているな」
と言うて、じいさまの思ったことを、そのまんまぴたりと当てたんだと。

 じいさまは、たまげて、
「人の心の中を見透(みとお)すから、これは悟りの化け物であんべえ」
と思っていると、
「われは、人の心の中を見透(みとお)すから、これは悟りの化け物であんべえと思っているな」
と言ったと。

 -----悟りの化け物をごぞんじか。
人間の思うことをみんな悟ってしまう化け物で、もとは奥山にいたもんだと。

 ----- ま、しょうがねえ。
火でもたいて当たらせべえと思って柴(しば)を折ると、
それがはね飛んで、化け物の鼻柱のあたりをピンとはじいてしまったと。

「いや、人間ちゅうがん(やつ)は、考えもつかねえことをする。おっかねえもんだな」
と言って、悟りの化け物は、山へこそこそと逃げ込んでしまったと。

 いちが栄えもうした。

                        ----- -----福島県南会津郡 -----