民話 語り手と聞き手が紡ぎあげる世界

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一緒の時間、空間を過ごす。まさに一期一会。

「山賊と刀」 リメイク by akira

2011年12月13日 16時35分47秒 | 民話(リメイク by akira)
 むかーし むかし のことだった。

 ある 小さな村に、わずかばかりの、田んぼ、畑を耕して、
おっかさんと せがれ二人が、やっとこさ、暮らしていた。
 弟は 働きモンで、朝から晩まで 、一生懸命 働いていた。
それに 優しい子で、自分は食わなくても、おっかさんには食わせていた。

 ところが 兄貴ってヤツは、怠けモンで、ちっとも仕事もしねぇで、昼間っから、酒ばっかり飲んでいた。
しまいにゃ、博打にまで手を出して、村のモンから 「鼻つまみモン」 にされてしまった。

 そんな兄貴のせいで、一家の「メシの種」の、田んぼも畑も、借金の方に、すっかり取られてしまった。
 さすがのおっかさんも、今度ばかりは参って、兄貴を呼んで言った。
 「田畑を取られちゃ、わしらもおしまいじゃ、これから先、どうしたらいかんべか。
 しっかりしておくれよ、わしゃおめぇのことが心配で、死んでも死にきれねぇ。」
 さすがの兄貴も、今度ばかりは「オレがいちゃ迷惑」と思ったのか、
それからしばらくして、ふらっと家を出たっきり、音沙汰なしになってしまった。

 弟は 少しでも おっかさんに 楽をさせたくて、出稼ぎに行くことにした。
越後の、庄屋さまのところに、奉公先が決まって、弟は人の何倍も働いた。
 そんなある日のこと、納屋に入ってみると、モミガラの山ん中に、なんか光るモノを見つけた、
 (あれっ、なんだんべ?)手にとって見ると、一枚の小判であった。
 さっそく、ダンナさんに届けると、
 「おめぇは ほんとに 正直モンだな、わしの見込んだ通りじゃ。」
そう言って、半分をわけてくれた。

 そんな正直モンだから、ダンナさんに可愛がられて、
十年もたつと、三百両もの金がたまった。こんだけあれば、親孝行ができるべ。
弟は郷里(くに)に帰ることにした。

 おっかさんに 会いたい一心で、休むのも惜しんで、帰り道を急いでいた。
これから 碓氷峠というところで、日が暮れかかって、
 「山賊が出るぜ、明日にしたらどうだい?」茶店のモンが 言うのも聞かず、
 「もうすぐおっかぁに会えるんだ。」振り切るように、山越えをすることにした。

 真っ暗闇のなかを、歩いていると、バタッバタッと音がして、あっという間に、まわりを囲まれた。
 「こんな時間に、ここを通るとは、いい度胸だ。有り金全部、おいていけ。」
 「おっかさんが待ってるんだ、命だけは勘弁してくれ。」
聞く耳もたず、財布を奪い取られた。
 「もうこいつには用はねぇ!」がけ下に突き落とされそうになった時だった。山賊の一人が、
「こいつ、三百両も持っていやがった、いい金ずるかもしれん、じっくり吐かせようぜ。」
 後ろ手に、縄で縛られて、ねぐらに連れて行かれた。

 ねぐらに着くと、「おい、あの金はどうしたんだ、言わねぇと痛い目を見るぜ!」
みんなに小突かれて、責められていると、また、山賊の一人が、
「今日の稼ぎは上々じゃねぇか、どうせ逃げられやしねぇ。
そいつのことは後回しにして、祝い酒といこうぜ!」
 「そーだ、そーだ!」飲めや 踊れやの、酒盛りが始まった。

 いつまで続くかと思ったが、そのうち みんな酔いつぶれて、大いびきをかいて、寝込んでしまった。
 すると、山賊の一人が ソロッソロッと、弟のところに やって来て、縄を解きながら、耳元で言った。
「助けてやる、声を出すな。」
自由になった手足を 動かしていると、
 「この刀を持って行け、いい刀だ、大事にしろ。・・・なにをしてる、早く逃げろ!」

 弟はわけもわからず、刀を抱えて、無我夢中で逃げた。
 ようやっと、家にたどりつくと、おっかさんが、涙を浮かべて、迎えてくれた。
 「よう無事で帰ってきてくれたなぁ。」
 「おっかぁ・・・。」
抱き合って、10年ぶりの再会を喜んだ。

 次の日、起きてみると、山賊にもらった刀が、目に入った。
(いい刀だと言っていたな、ちょっと見てもらってくるか。)
 古道具屋に持って行った。 主人(あるじ)はその刀を、じっと見て、
 「こいつはめったに見れない上物だ。」
 そう言って、百両の包みを五つも積んでくれた。

 山賊に盗られた、三百両に、二百両の利子がついたようなもんで、
五百両もの金を手にして、弟は思う存分、親孝行ができた。

 だけど、(あの山賊の声、どっかで聞いたような声だったな?)
弟はいつまでも気にかかっていた。

 おしまい