民話 語り手と聞き手が紡ぎあげる世界

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「食わず女房」 リメイク by akira

2011年12月09日 01時30分09秒 | 民話(リメイク by akira)
 じゃ、(今日は)「食わず女房」 語っかんな。 

 むかーし、むかしのことだ。

 あるところに、ひどくけちんぼな男がいた。男は オケをつくって 暮らしていた、
そろそろ 年頃になったんで、嫁が欲しくなってきた。
(メシを食わねぇで よく働く、そんな娘っこ、どっかにいねぇーかな。)
なにしろ、けちんぼだから みんなに そんなことを言ってた。

 すると、ある日、どっかからか、めんこい娘っこがやってきて、
「おらは メシ食わねぇで、よく働くど。」
「ほんとか、ほんなら 嫁にすっぺ。」

 男は その娘っこを 嫁にした。
なるほど、娘っこは 水も飲まねぇー、メシも食べねぇー。
そのくせ、日中 くるくると、よく働いた。
「あー、おら、いい嫁をもらった。」って、喜んでいた。

 だけど、そんな日が続いて、さすがに、男は不思議に思うようになった。
そこで、ある日、男は山仕事に行くふりをして、家を出ると、こっそりと戻って、
戸のすき間から、そうっと 中をのぞいてみた。

 すると、娘っこは おっきな釜を出してきて、
米を一杯入れて、シャッ、シャッ、と研ぐと、米を炊きはじめた。
米が炊きあがると、娘っこはアチチ、アチチ、言いながら、おにぎりを作っては、釜のふたの上に並べた。

 山のように おにぎりができあがると、娘っこは 結い上げた髪を バサッとほどいた。
すると、びっくりしたのなんのって、頭のまん中に、でっけぇ口が出てきた。
「アワワ・・・。」ふるえあがる男の目の前で、娘っこはおにぎりを、
頭にある口の中にほうりこんでは、「うめぇー。」ほうりこんでは「うめぇー。」
釜のふたの上のおにぎりは、たちまち空っぽになった。

 これじゃ、米がいくらあったって足りやしねぇー。
男はガラリと戸を開けると
「正体見たぞ、このぉー、化け物めがっ! すぐに出て行け!」
大声でどなりつけた。

 すると、娘っこは開き直って、
「見られたんじゃしょうがねぇー、出て行ってやらぁ、その代わり、おっきなオケをひとつおくれ。」
「おぅー、こうなったら オケのひとつくらい くれてやらぁー。」
男はうんとこさ、大きなオケを運んできた。

「ほい、あんがとよっ。」
  言うが早いか、娘っこは 男をいきなりオケに押し込めると、
フタをして ナワでくくって、ヨイショ、と背中にかついで、走り始めた。
男はオケん中で、ドスン、ドスン、揺られながら、
「どうしたらいかんべ、おら、化け物に食われっちまう。」ブルブル、ふるえていた。

 そのうち、娘っこがあんまりに早く走るんで、だんだんナワがゆるんで、オケのフタがずれてきた。
男はフタをはずして、オケから飛び降りると、一目散に逃げ出した。
しばらくして、オケが軽くなったんで、娘っこが気がついた。
「ヤロー、逃げやがったな。」

 娘っこはヘビに姿を変えて、逃げる男を追っかける。
シュー、シュー、その早いこと、早いこと。
あいつ、ヘビだったのか。
今更、気がついても遅いが、とにかく逃げなきゃと、必死で逃げる。

 あわや、追いつかれそうになった時、男の前によもぎの畑が見えてきた。
(そうだ!ヘビはよもぎが苦手と言ってたな。)
男はよもぎの畑に飛び込んだ。
「わっ、あのヤロー、よもぎん中に逃げやがって。」

 ヘビはすぐそこまで来たが、どうしてもよもぎん中に入れない。
「ギシッ、ギシッ。」
いくらハギシりをして くやしがっても入れない。
「ううーっ。」ヘビはうろうろしていたが、ついにあきらめて、山へ戻って行った。

 「やれ、やれ、助かった。」
 男はよもぎを 山ほど持ち帰ると、軒下や入り口にさしておいた。
 その夜、男は よもぎを湯(船)に入れてつかりながら、
「もう、けちんぼはやめっぺ。」って、反省した(と)。

 それからいうもの、五月の節句には、ももぎを軒下や入り口に飾るようになったという話だ。

  とっぴんぱらりのぷぅ。(おしまい。)