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加害者に仕立て上げられたバイトの悲劇

2011年02月07日 23時59分24秒 | 職場人権レポートVol.1
 1月30日に東京ドームシティで起こったジェットコースター転落事故は、テレビニュースでも大きく取り上げられたので、みなさんご存知の方も大勢おられるのではないでしょうか。乗客の身体を固定するバーがしっかり嵌(はま)っていなかった為に、コースターの回転中に乗客が地上に振り落とされて亡くなった事故です。その後の調べで、乗客の安全確認がまともに行われていなかった事が、次第に明らかになってきました。

 

(1)コースター製造メーカーの仕様書には、バーの嵌り具合は「手で触って」確認する旨明記されていたにも関わらず、ドームシティ側の操作マニュアルには何も書かれていなかった。
(2)それでも当初は上記仕様書の指示通りに手で触って確認するように指導していたものの、客からの苦情があってからは、手で触らず目視だけで安全確認するようになっていた。
(3)操作マニュアルには「バーの安全確認と運転開始はアルバイトではなく正社員か契約社員が行う」と明記されていたにも関わらず、実際には完全にバイト任せだった。
(4)人減らしの中でバイトは接客に追われ、たった一人の担当者も複数の施設を掛け持ちで巡回している中では、安全管理にまで到底目が行き届かなかった。
(5)その中で過去にも、部品が落下したり(昨年10月他)、点検中に従業員が指を切断する(同11月)などの事故が、数度に渡って起こっていた。
(6)また、「バーが嵌らない限り作動しない」「バーが外れたら自動的に緊急停止」「転落防止ネットの設置」などの誤作動防止機能も、遊戯施設には一切備わっていなかった。
(7)大柄な客(被災者の体重約130kg)には安全バーが効かない事も予め分かっていながら、乗客の体格チェックも全然為されていなかった。
(8)そのくせ、「体重差のある乗客同士のペアで更に不安定感のあるスリルを楽しもう」と、HP上で危険行為を煽るような宣伝に走った挙句に、事故後に当該記述をこっそり削除していた。
(9)そんな業務運営をしておきながら、事故後の記者会見では「バイトにも安全教育を徹底していた」と、まるで全責任をバイト個人に転嫁するような姿勢に終始していた。

(参考記事)
・死亡事故 アルバイトの責任はどこまで追及される?(ゲンダイネット)
 http://gendai.net/articles/view/syakai/128691
・東京ドームシティ:コースターから男性転落 間もなく死亡(毎日新聞)
 http://mainichi.jp/select/jiken/news/20110130k0000e040020000c.html
・コースター転落死 手でバー確認「客の苦情でやめた」(同上)
 http://mainichi.jp/select/jiken/news/20110206k0000m040106000c.html
・コースター事故 内規に反しバイトが運行(東京新聞)
 http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2011020690070450.html
・昨年もコースターで事故 10年前には追突で客が首を捻挫(スポニチ)
 http://www.sponichi.co.jp/society/news/2011/02/01/kiji/K20110201000163840.html?feature=related
・東京ドームシティ舞姫事件にみる「経営トップのジレンマ」(ビジネス法務の部屋)
 http://yamaguchi-law-office.way-nifty.com/weblog/2011/02/post-9b6e.html
・東京ドームの「遊園地」の遊具から転落死亡事故! 徹底究明を!(JUNSKYblog2011)
 http://blog.goo.ne.jp/junsky/e/ff7c65ce9e3eb93ed097f3a3bb607924

 つまり、この事故は起こるべくして起こったのです。これだけでも、この東京ドームシティという会社が、とんでもないブラック企業だという事が分かります。こんな会社は徹底的に糾弾されて然るべきです。では、当の安全確認を怠った女子大生のバイトはどうか。実は彼女も、利益至上主義に走った会社の犠牲者であると同時に、刑事責任が問われる加害者でもあるという事も、忘れてはならないでしょう。
 勿論、一番悪いのは会社です。この場合、彼女には情状酌量の余地は大いにあります。でも、それでも安全確認を怠った事で乗客の命を殺めてしまったのは事実です。その事実の前では、「自分はバイトだから」「会社にそうしろと言われたから」等の言い訳は一切通用しません。一旦事故を起こしてしまえば、如何に過労運転を強いられていたとしても、会社の安全管理責任とは別に、ドライバー自身も刑事責任を問われるのと全く同じ理屈です。
 そういう意味では、この女子大生のバイトは、単に会社にこき使われていただけでなく、会社によって加害者にまで仕立て上げられた挙句に、その後の人生まで捻じ曲げられてしまったという点で、「二重の意味で」被害者であると言えるでしょう。

 この東京ドームシティの事故は、我々にとっても決して他人事ではありません。今の私の職場でも、いつ起こってもおかしくない事故です。例えばPC積み替え作業中(左下写真参照)に、PCが自分の頭上に落下してきて怪我をすれば、自分は被害者になります。しかも、それだけではなく、自分のPC積み替え作業指示によって新人バイトが怪我をしたら、今度は自分が加害者にさせられてしまうのです。
 今日の社員の対応からも、そうなる可能性はほぼ間違いないでしょう。構内のレイアウト変更で、新たな店名ラベル(右下写真参照)が必要になる事は大分以前から分かっていたのに、一次下請けの××は仕事サボりまくって必要な準備も禄にしなかった。そして、××が××なら二次下請けのウチの会社もウチの会社で、「幾ら言っても××が何もしないから仕方ない」の一点張りで、見て見ぬ振りをしてきた。その挙句に、当日になって何も準備できていない事が分かり、てんやわんやの大混乱になったにも関わらず、当のウチの社員ときたら「(ウチの職場は)こんなんですわ」の一言で済ませて終わりだったではないですか。

   

 これでは、ウチの社員はまるで「子どもの使い」でしかない。そんな「子どもの使い」しか出来ない社員なら、別に社員でいる必要は無い。全員バイトで充分です。寧ろそのほうが、社員に払うボーナスや退職金もバイトの人件費に回せて、人減らしの必要もなくなる。
 しかも、東京ドームシティよりも更に性質(たち)が悪い。少なくともドームシティの場合は、過失ではあっても故意ではない。それに対して、ウチの社員の対応はと言うと、こちらは見て見ぬ振りなのですから、明らかな故意です。
 何でも会社の言いなりになっていたら、自分が被害に遭うだけでなく、加害者に仕立て上げられる可能性すらあるという事は、よくよく覚えておいたほうが良いと思います。

 バイトだけでなく社員も労働者であり、ともに資本家に搾取されているというのは、一般論としてはその通りです。「名ばかり正社員」や「名ばかり管理職」なんて正にそうです。でもそれは、社員も我々バイトも含めた労働者全体の事を考えてくれているという前提があってこそ、初めて成り立つ話です。その中で、二次下請けという立場上なかなか思い通りに行かない事もあり、「我々社員も努力するからバイトも今はここは我慢してくれ」というのなら、まだ分かりますよ。
 しかし、社員自身が己の保身にのみ汲々として、最初から業務改善の努力も放棄して、「幾ら言っても変わらない」の一点張りでは、バイトからすれば、「変える気がない事の言い訳に、変わらないと言っている」にしか過ぎない。その挙句に、労災の被害に遭うだけでなく、自身が労災の加害者、共犯者にまで仕立て上げられたのでは、堪ったものではない。
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