昨夜(9月22日)放送のNHK「かんさい熱視線」は非常に見ごたえがありました。番組では物流業界の「2024年問題」を取り上げていました。来年の2024年4月からドライバーの残業規制が強化されます。残業時間の年間960時間上限規制が新たに設けられ、拘束時間の上限規制も年間3516時間から3300時間に短縮されます。この「2024年問題」に対応する為に、運送便のドライバーは途中で休憩を取らなければならなくなりました。しかし、大型トラックの駐車出来るパーキングエリアには限りがあります。おまけに渋滞に巻き込まれたりして、拘束時間は逆に長くなってしまいます。
他方で、運送会社は荷主に頭が上がらない上、何重にも下請けを抱えているので、下に行けば行くほど労働時間は増え、給料は逆に安くなります。そんな「踏んだり蹴ったり」の状態なので、幾らドライバーを募集しても人が集まりません。もはや、どこの運送会社も中高年のドライバーばかりになってしまいました。人手不足と長時間労働の悪循環です。そのうちに、幾ら荷物を発注しても届かない日が来るかも知れません。
勿論、運送会社も手をこまねいている訳ではありません。荷主と交渉して運賃を上げてもらったり、荷受け時間を予約できるようにして無駄な待ち時間をなくすように努力しています。しかし、立場の弱い運送会社に出来る事には限りがあります。消費者も、いたずらに商品の鮮度や値段の安さばかりを追い求めるのではなく、ドライバーの労働条件改善の為に何が出来るか考えるべきではないでしょうか・・・大体そのような放送内容でした。
私も、身をつまされる想いで、この番組を観ました。この番組で言っている事は全て本当です。ドライバーだけでなく、荷物を仕分けしてトラックの積み下ろしを手伝う私たち物流業界の会社も、幾ら人を募集しても全然来ません。私たちも荷主には頭が上がらないので、賃金も最低賃金ギリギリの安い給料に抑えられたままです。こんな所に日本人の若者はほとんど来ません。従業員の多くは高齢者と外国人ばかりになってしまいました。
これは一体誰が悪いのでしょうか?私たちが仕事をサボっているからでしょうか?違うでしょう。下請けが何も言えないのを良い事に、労働者や中小企業の立場をどんどん弱めて、「規制緩和」や「グローバリゼーション」の名の下に、無理な価格競争や労働ダンピング(労働力の安売り)を推し進めてきた政府・財界、資本主義万能論に立つ自民・公明与党や維新の会、国民民主党などの「御用野党」の連中でしょうが!
「残業規制で逆にドライバーは拘束時間が長くなった」と番組は言います。確かに現象面だけで見ればその通りです。では残業規制をしなくなったらどうなります?過労死するドライバーが続出し、無理な運転で交通事故も激増しますよ。今まで残業規制がなかった事自体が異常なのです。ようやく始まった残業規制も上限が年間960時間。月に換算すると80時間。過労死ラインぎりぎりじゃないですか!
これはもはや人権問題です。それを「コスト」、つまり「カネ勘定」の問題としか捉えていないから、「労働時間短縮のコストをどこかでひねり出さないといけない」という発想になってしまうのです。確かに「ひねり出す」努力は必要です。しかし「ひねり出せない限り、過労死に甘んじなければならない」という発想自体がそもそも間違っています。「ひねり出せない」なら「出せる」ようにするのが、政府や政治家、労働組合の仕事です。
そう考えれば、やり方は幾らでもあります。独占禁止法や公正取引法を改正して不当なダンピング競争を規制する。労働基準法の骨抜きを止めて残業規制を強める。最低賃金法を改正して最低賃金を大幅に引き上げる。防衛費や海外援助のバラマキにばかり税金を垂れ流すのではなく、中小企業を支援して、労働者にまともな賃金と労働条件を保障できるようにする。そうすれば人なんて幾らでも集まります。わざわざ言葉の通じない外国人を雇う必要もありません。今のままでは外国人も、労働時間ばかり長くて給料は安い日本に愛想を尽かして、よその国に行ってしまいますよ。現に、そうなりつつあるじゃないですか。
人手不足に悩まされているのは、何もトラックのドライバーだけではありません。大阪府富田林市の近郊で路線バスを運行する金剛バスが事業からの撤退を決めたのも、赤字経営だけでなく、バス運転手が確保できなくなったからです。赤字とは言え、まだそこそこ通勤・通学の需要はあるのに。他に並行する鉄道やバス路線もないのに、バスがなくなったら一体どうやって通勤すれば良いのでしょうか?皆が皆、マイカーを所有している訳ではありません。それに、マイカーにばかりに頼っていたら、交通渋滞は更に激しくなるし、排気ガスで更に地球温暖化も酷くなります。
私の勤務先も某スーパーの物流センターです。私はそこの下請け会社で契約社員として働いています。その物流センターにも某スーパーの労働組合があります。社員食堂の横には組合の掲示板もあります。その掲示板に定期大会の議案書が吊るしてありました。その議案書によると、今期のテーマは「現状打破」なのだそうです。
私はこれを見て呆れました。「何て抽象的なテーマなんだろうか!」と。私の職場の状況は今まで書いた通りです。人手不足に長時間労働、低賃金・・・今すぐにでも取り組まなければならない課題が山積しています。それを認識していたら、こんな「抽象的」で「中身スカスカ」の「ポエム」にうつつを抜かしている暇なぞないはずです。もっと具体的な要求課題を掲げるはずです。
おそらく、この組合幹部には現状が見えていないのでしょう。又は見えていても知ろうとしないのでしょう。自分たち大企業正社員の、組合幹部の利益さえ守れればそれで良いと。この労働組合も連合(日本労働組合総連合会)やUAゼンセン(商業労働者の組合で作る連合体)に加盟し、国民民主党を応援しています。先日、国民民主党の元・副代表の矢田雅子が岸田内閣の政務官に抜擢された事が話題になりました。国民民主党の玉木代表が最近とかく政府寄りの発言を繰り返しているのも、こういう事が背景にあるのでしょう。
こんな「御用組合」なら不要です。こんな「労働者の敵」を休ませる為に、こいつらが休んでいる盆や正月も、私たちは休みもなく働かなければならないのです。政府の言う「働き方改革」は、こいつらだけが対象なのでしょうか?違うでしょう。下請けも含めて、全ての労働者に、人間らしい労働条件と、別に残業しなくても食べていける賃金を保障するのが、本当の「働き方改革」ではないのですか!
先月、西武そごうの労働組合がストライキを打ちました。親会社のセブン・アイ・ホールディングスが東京・池袋の西武百貨店を一方的に外資に売却し、それを買い取ったヨドバシカメラに売り場を占拠されるのを嫌って。勿論、赤字だからと言って、勝手に百貨店を外資に叩き売り、労働者を路頭に迷わせるような事があってはなりません。しかし、それに反発してストを打った西武そごうの労働組合も、「量販店のヨドバシと一緒にされては堪らない」という気持ちがあったからではないでしょうか?
その「ヨドバシ」を「下請け」に置き換えたら、もう「下請け差別」そのものじゃないですか。労働者が資本家の横暴と闘う時は、全ての労働者が一致団結して闘わなければ勝てないのに。同じ労働者同士で「量販店だから」「下請けだから」と反目し合って一体どうするのですか?
ところが、私の勤務先の労組掲示板には、西武そごう労働組合のストライキに対する連帯表明すら掲示されていませんでした。議案書以外に掲示されていたのは共済や旅行の割引サービスの案内だけでした。これではただの互助会です。健保組合などと同じ、ただの正社員互助会。同じ労働者なのに、自分たち大企業正社員の利益さえ守ればそれで良いのか?大企業と一緒になって、下請け搾取に胡坐をかくだけの労働組合なら、もはや「百害あって一利なし」です。下請け搾取に胡座をかく労働貴族に鉄槌を!
発信者:全労連(全国労働組合総連合)
署名提出先:河野太郎・デジタル相、加藤勝信・厚労相、寺田稔・総務相
10月13日、河野太郎デジタル大臣が会見し、「健康保険証を24年秋に原則廃止し、マイナンバーカードを事実上義務化」することを発表しました。
多くの国民がこのようなことを求めている、という話は聞いたことがありません。一体誰のためにこんなことを進めようとしているのでしょうか?
マイナンバーカードは2016年1月から交付が始まっていますが、普及率はいまだ5割強にとどまっています。
マイナポイントなどのPRによって一時的に取得者数は増えましたが、制度そのものに対する不安が払拭されたとはいえません。政府はこうした現実に業を煮やして、今回の強引な「事実上の義務化」に踏み切ったのではないかと思われます。
そしてこの突然に思われる「事実上の義務化」は、カードを持っていない人だけではなく、すでに持っている人にとっても大きな影響があることが予測されています。
【すでにマイナンバーカードを持っている方へ】
マイナンバーの目的のひとつに、「金融資産を把握して、医療費負担などに金融資産状況を反映させ、利用者負担を増やす」ことがあります(政府の改革工程表の項目57をご参照下さい)
健康保険証を廃止してマイナンバーカードを義務化した後には、さらに「金融口座のひも付けの義務化」にすすむのではないかと予測されています。
例えばすでに介護保険では、資産が500万円をこえれば、特養などの自己負担額がアップしていますが、この「個人データのひも付け」により、たとえば「貯金が500万円あったら、後期高齢者の医療窓口負担を重くする」というようなことができるようになります。
つまり政府は「貯蓄して老後に備えよう」と言っておきながら、貯蓄したらしたで、その分医療・介護にかかる負担を増やそうとしているのです。
健康保険証を廃止してマイナンバーカードに一本化することは、その方向に歩みを進めることになる危険性が非常に高いのです。
また保険証との一本化によって、カード紛失時のリスクも今まで以上に高まることになります。
【現在マイナンバーカードを持っていない人へ】
現在マイナンバーカードを持っていない人には、さまざまな事情があります。
「個人情報の保護に不安がある」、「紛失のリスクが恐ろしく高い」、「メリットがないから」、「よくわからない」、「手続きが面倒くさい」、「そもそもマイナンバー制度自体に反対」などなど。
政府は従来より「多様な幸せの実現ということですからマイナンバーカードを始めデジタルを全く活用しない生活様式を否定しているものではありません」(平井卓也前デジタル大臣 内閣委・総務委連合審査 2021年3月24日)と答弁していましたが、今回の「事実上の義務化」は、その態度を180度変えたことになります。
大臣が変わったからといって、なんの議論もなくこんなことを勝手に決めてよいのでしょうか?
また、マイナンバー法第16条の2によれば、「機構は、政令で定めるところにより、住民基本台帳に記録されている者の申請に基づき、その者に係る個人番号カードを発行するものとする」とあります。
そもそも「申請」を事実上義務化することは、法に反するのです。
すでにメディアやSNSにおいても、このニュースに対する反対の声が広がっています。私たちはこの声を「署名」という形にして、所轄の大臣に届けたいと思います。
「保険証を廃止して、マイナンバーカードに一本化することに反対」の方は
①この署名にサインをお願いします。
②大臣に伝えたいメッセージをコメントに記入してください。
③この署名の情報をシェアして広めてください。
みなさんの署名が、コメントが、シェアが、「紙の健康保険証を原則廃止し、マイナンバーカードを事実上義務化」することをストップするための力になります。ぜひみなさんの力を貸してください。
最後に私たちの元に届いている、現場からの声の代表的なものを紹介したいと思います。
《医療現場からの声》
・現在の健康保険証による資格の確認には、なんの問題もおきていません。それなのに、普及している健康保険証を廃止して、無理やり普及していないマイナカードに置き換えるというのは無駄なのでは?
《患者からの声》
・健康保険証が廃止されたら、マイナンバーカードを持っていないと保険診療を受けられなくなるのでは?
・マイナンバーカードを紛失すると、同時に保険証をも紛失することになるので不安だ。
※全労連はマイナンバー制度反対連絡会に参加しているため、全労連のアカウントを通じてこの署名を呼びかけています。
前回記事で紹介した例の旅行記ですが、今から思うと甘めの評価でした。旅行記がネットに公表された後、元ホームレス当事者の方の感想など読む中で、自分もいかにあいりん地区の事に無頓着であったか思い知らされました。
例えば、あいりん地区にやって来た旅行者の女性が、ひょんな事から野宿者の方と仲良しになり、一日限りのデートで彼に食事やたばこをおごる話の中でも。女性から自分の特技を聞かれて、「九九」や「ドッジボール」と答える野宿者の反応を見て、私もつい笑ってしまいました。当初はほほえましいエピソードにしか思わなかったその場面も、小学校の授業で習う「九九」や「ドッジボール」しか、彼には良い思い出が無かった事を思うと、笑って済ませられる話ではないのに。
そもそも、最初の居酒屋で見知らぬおっちゃんがこの女性に2千円おごったのも、彼女と楽しい時間が過ごせたからです。そのお礼の意味をこめておっちゃんは2千円払ったのです。多分、その場の勢いもあったのでしょうが。おっちゃんにとっては、あくまでフィフティ・フィフティのつもりで払ったのです。
それに対し、野宿者の方は、濡れタオルを入れるビニール袋を渡しただけなのに、890円の定食に560円のたばこ、130円の缶コーヒーまでおごられたのでは、もう女性に何も言えないじゃないですか。もう頭が上がらない。言いなりになるしかない。
そうやって、女性の言いなりになるしかない野宿者の人に、「缶コーヒーおごってやった代わりに私をほめてくれ」と、この女性は言ったのですよ。今までの人生の中で、ほとんどほめられた経験のなかった人に。見ようによっては、これほど残酷な事はありません。
しかも、よりによって「ティファニーで朝食を」という映画の名前を記事の題名にして(「ティファニーで朝食を。松のやで定食を。」)、ネットに公開してしまいました。この映画は、往年の大女優オードリー・ヘップバーンの名演技でヒットしましたが、その内容は新人女優の成り上がり物語です。おそらく、この女性は、そんな映画のあらすじとは無関係に、松のやの定食に引っ掛けて、この名前を記事の題名にしたのでしょう。しかし、それが更に油に火を注ぐ結果となってしまいました。「あんた、何を女優気取りでおんねん。しかも、野宿者を自分の引き立て役にして」と。
だから、元野宿者の方から、「珍獣扱いするな!」と、猛抗議を受ける羽目になってしまったのです。
でも、この旅行者の女性だけが悪いのでしょうか?一番悪いのは、この女性をここまでミスリードに追い込んだ、「新今宮ワンダーランド」「新世界・西成ワンダーランド!」の観光キャンペーンそのものではないでしょうか?
何故そう思うのか?ここで一つ質問します。皆さんは、どこからどこまでの範囲が「あいりん地区(釜ヶ崎)」だと思いますか?
そう聞かれると、大抵の人は「JR・南海と堺筋に囲まれた南北に細長い地域」と答えるはずです。住所で言えば、大阪市西成区萩之茶屋1・2・3丁目です。そのほとんどが日雇い労働者のドヤ(簡易宿泊所)街です。それに加え、堺筋より東側の太子1・2丁目も、民家の中にドヤが点在しているので、「あいりん地区」に含める人が多いはずです。
どちらにしても、JRより北側の新世界は含まれないはずです。あいりん地区とは違い、新世界にはドヤはありませんから。そもそも新世界は、浪速区の一部であって、西成区ですらありません。そういう、あいりん地区とは本来全く異質な地域であるにも関わらず、「優しい街、下町の人情が残る街」という多分に情緒的な言葉で、あいりん地区と一括りにして、大阪市の観光キャンペーン対象地域に含まれてしまいました。
左:あべのハルカスを動物園前商店街から望む。右:星野リゾートがJR新今宮駅北側に開業予定のOMO7(オモセブン)と、その横に建つ低所得者向けの大隅アパート。
※上図は、大阪商工会議所が阪南大学の研究室と共同制作した「新世界・西成食べ歩きマップ」。「新今宮ワンダーランド」観光キャンペーンの為に作られたものの一つだが、最初の曼陀羅の地図(同キャンペーンPR地図)とは違って、堺筋・阪堺線以西のあいりん地区はほとんど無視されてしまっている事が分かる。この事から、いくら同キャンペーンであいりん地区の歴史や日雇い労働の現状について力説しようとも、観光の重点はあくまで堺筋より東側の新世界・動物園前商店街にある事が、はからずも証明されてしまった。
だから、この旅行者の女性も、「優しい街、下町の人情の残る街」とホンワカ気分で、野宿者の人に接してしまったのです。野宿者の人にとっては、餓死や凍死と背中合わせで、不良少年の襲撃からも身を守らなければならない、およそ「優しさ」とか「人情」とは無縁の、生きるか死ぬかの毎日なのに。
大阪市は、何故そんなミスリードを誘発するような観光キャンペーンを敢えてしたのか?あいりん地区だけでは観光にならないからです。今から15年ほど前までは完全なスラム街で、麻薬の密売買も横行し、暴動もしょっちゅう起こっていた地域に、昔は観光に来る人なぞほとんどいませんでしたからね。今も年配の人は、この地域に近づこうとはしません。
ところが、交通の便が良い、宿泊代も安いという事で、外国から観光客が押し寄せるようになり、今までスラム街だった所が観光地に生まれ変わりました。近くには繁華街の新世界もあります。難波や天王寺のターミナルにも近い。行政や企業からすれば、まさに「ひょうたんから駒」です。だから「人情の街」というキャッチで、新世界もあいりん地区もお上の都合で全てぶっこみにされ、一大観光キャンペーンが張られた為に、旅行者の女性のミスリードを誘発してしまったのです。
確かに、あいりん地区にも「優しさ」や「人情」はあります。しかし、それは単なる「下町情緒」なぞという甘っちょろいものではありません。もっと過酷な、それこそ生きるか死ぬかのギリギリの所から生まれて来た処世訓です。
あいりん地区に「来たらだいたい、なんとかなる」(新今宮ワンダーランドのキャッチコピー)のは、そうしなければ、誰も生きて行けないほど、過酷な環境下にあるからです。早朝の午前4時に起きて5時にはあいりんセンターで職探しをしなければならない。その職種も、キツい、汚い、危険な建設現場の土工やとび職が大半です。そんな所には食い詰めた人しか来ない。雇う方も雇われる方も、従業員や仕事をえり好みなぞしていられない。それが「西成に来さえすれば仕事にありつける」「えり好みさえしなければいくらでも仕事はある」という事の本当の姿です。
そんな中では、お互い助け合わなければ生きていけない。ドヤには敷金も保証金も不要で一日の宿泊費さえ払えばすぐ泊まれるのも、住所不定の食い詰めた客ばかりだからだ。雑貨屋も、早朝から動き出す労働者の動きに合わせて、朝6時には商売を始めなければならない。ほとんどの住民は、風呂もトイレもない、洗濯機も室内にはおけないドヤ住まいだ。それを当て込んで、銭湯やコインランドリーが街中に乱立するようになる。工事現場の飯場を渡り歩き、狭いドヤには自分の荷物も置けない人も多い。それを当て込んでコインロッカー屋も乱立するようになる。単身者のドヤ住まいで、部屋の中にはキッチンも満足になく、自炊が難しい人も多く住む。それを当て込んで、弁当屋も乱立するようになった。
それを何も知らない観光客が見て、「ドヤは敷金も保証金も不要で、その日から泊まれる。店も朝早くから開いている。何て便利な街なんだ」「あちこちに弁当屋や銭湯があるとは、何て下町情緒にあふれた優しい街なんだ」と勝手に感動して、「人情味あふれる下町」神話が出来てしまったのです。
実際には、観光客で潤う表通りの小洒落たホテルと、その恩恵を受けない裏通りの古い福祉アパートやドヤという形で、あいりん地区内にも格差が広がっているのに。
本当にあいりん地区の事を知りたいと思うのであれば、新世界の串カツ屋や、あいりん地区の居酒屋だけ見るのではなく、野宿者支援の炊き出しや夜回りにも参加したら良いのです。あいりん地区では、いくつもの団体が、炊き出しや夜回りに取り組んでおられます。そこまで無理だと言うのであれば、見るだけでも良いです。
野宿者の人に中途半端に飯をおごって、その人に惨めな思いをさせてしまうくらいなら、まだその方がよっぽど為になります。そのどちらも嫌だと言うのであれば、もう西成なんかよりも有馬温泉にでも行ってくれた方が、観光客にとっても良いだろうし、地元の私達も珍獣扱いされなくて良いです。
何も見てくれの良い上辺だけ見せるのが観光キャンペーンではありません。幾ら見てくれの悪い「地域の負の遺産」でも、歴史的価値や社会的価値があるなら、それは立派な観光資源です。現に、原爆ドームや沖縄のチビチリガマも、そうやって観光地に立派に脱皮できたではないですか。あいりん地区の貧困も、その原因と対策を知る事で、派遣切り対策やブラック企業対策に活かせるなら、それは立派な観光資源となります。そこまでやってこそ、初めて「新今宮ワンダーランド」の観光キャンペーンをやる価値があると思います。
左:あいりん地区内にも建ちだしたオートロックのホテル。右:昔ながらの一泊500円のドヤ。
「ティファニーで朝食を。松のやで定食を。」という旅行記があります。大阪市のあいりん地区観光キャンペーン「新今宮ワンダーランド」の協賛記事です。最近、本屋の店頭に並ぶようになった「新世界・西成ワンダーランド」という雑誌で、このキャンペーンが盛んに宣伝されています。そのキャンペーンの為にかかれた旅行記がネットで炎上してしまいました。
鍼灸師さんの話では、前日の29日まで普通に営業していたそうです。それが、翌30日にパートさんが出勤したら、店の陳列も前日のまま、ドアだけ施錠され、ガラス戸に破産公告が貼られていたそうです。
経営者とは連絡が取れず。これでは給料も出ないと、パートさんも途方に暮れているとの事でした。
帰りに様子を見て来ましたが、本当に、前日まで営業していたままの形で、店頭にはキャンペーンやパート募集のポスターも貼られたまま、倒産の生々しい姿を晒していました。
イケチューは、堺市の本店の他に、高石市や和泉市に数店舗を構えるだけのローカルスーパーですが、新鮮な品揃えで有名でした。特に魚介類の品揃えが良かったと聞いています。
そこに10月からの消費税増税で、レジの買い換えも出来ず、破産に至ったのです。消費増税さえなければ、経営再建できたかも知れないのに。
まさか、消費税増税のブログ記事を書いた矢先に、増税倒産の現場に遭遇するとは思ってもみませんでした。「アベノミクスでデフレ脱却」と言っていたのは、何処の何奴か?「増税しても好景気だから大丈夫」じゃなかったのか?
申請代理人は上甲悌二弁護士(大阪市中央区北浜3-6-13日土地淀屋橋ビル、弁護士法人淀屋橋・山上合同、電話06-6202-4776)ほか1名。
当社は、1966年(昭和41年)創業、73年(昭和48年)12月に法人改組。堺市や高石市を中心とする南大阪地区で、食料品・日用品主体のスーパーマーケット6店舗を運営するほか、リカーショップ、喫茶店、ベーカリーショップ、フラワーショップ13店舗も併営し、ピークとなる2001年8月期には年売上高約126億6600万円を計上していた。
しかし、不況長期化に伴う個人消費の低迷やコンビニ・大型スーパーの進出による競争激化で利益率が低下。2003年8月期の年売上高は約105億2500万円にまで落ち込み、2期連続で欠損を計上していた。このため、不採算店舗の閉鎖や人件費圧縮、原価見直しなど諸経費削減で経営の立て直しを図っていたが、その後も業況は回復せず、2004年2月に負債約40億円を抱えて民事再生法の適用を申請していた。
同年9月に再生計画認可決定が確定し、不採算店舗の閉鎖などリストラを進め、2007年9月に再生手続きを終結。その後も地元密着のスーパーマーケットとして運営を続け、リサイクルショップなど異業種に参入するなど2018年8月期には年売上高約50億円を計上していた。しかし、同業他社との競争激化や、人件費の高騰などにより収益面は低調に推移。ここへ来て10月から始まる消費税増税に伴う設備投資も行うことができず、先行きの見通しが立たないことから今回の措置となった。
負債は推定10億円。
この本は、消費税が5%から8%に値上げされた2014年に刊行された。それから更に5年経ち、2019年10月からは消費税が10%に値上げされた。既に同じ本の最新版が河出文庫から出ている。軽減税率やポイント還元の事を知るには、最新版の方が良いだろう。文庫版なので電車の中でも手軽に読める。
しかし、最新版は大人向けに書かれているので、仕事で疲れた頭で読むには、少々荷が重いかも知れない。分かりやすさという点では、図書館から借りて読んだ、こちらの旧版の方が良いだろう。旧版には「14歳の世渡り術」の副題が付けられ、難しい漢字には振り仮名が振られ、中学生でも一応分かる文章で書かれている(それでも結構、高度な内容だが(^^;)。
軽減税率やポイント還元についても、消費税について分かりやすく書かれた旧版で、その基本点を抑える事が出来たからこそ、その出鱈目をはっきりと認識出来たのだ。
消費税の問題点として、まず挙げられるのが「逆進性」だ。消費税は、タバコ税や自動車税とは違い、どんな生活必需品にも課税されるので、低所得層ほど負担が大きく、高額所得層の負担は小さい。それが「逆進性」だ。そういう意味では、消費税は「究極の不公平税制」だと言える。
その逆進性を緩和する対策として打ち出されたのが、「軽減税率」であり、「ポイント還元制度」だ。同じハンバーガーを店内で食べれば消費税は10%になるが、持ち帰りにすれば8%になる。酒を買うと消費税10%取られるが、味醂では8%で済む。持ち帰りより外食の方が贅沢(ぜいたく)であり、料理酒の味醂は生活必需品だが、嗜好品の酒は贅沢品だからという理屈だ。現金決済にせずにポイントで買い物すれば、更にお得になる。
でも、そもそも消費税とは、たまたま最後に税金を払うのが消費者だから、そう呼ばれるようになったに過ぎない。その前の、仕入れや製造の各段階でも、それぞれの業務に携わる業者の方々が、消費税を税務署に払っている。勿論、二重に課税されるのを防ぐ為に、既に先の段階で支払われた消費税分は控除される仕組みにはなっているが。(上記「消費税の負担と納付の流れ」図参照)
同じ事は弁当屋にも言える。400円の幕の内弁当も買えず、100円のご飯と80円の味噌汁だけで夕食を済ます人も多いのに、そんな人に更に消費税を上乗せして売る事なぞ出来るか?そんな事をしたら、誰も弁当を買ってくれなくなる。
しかし、弁当屋には、食材やトレイなどの具材を提供する業者から、消費税分が上乗せされた請求書が容赦なく送られて来る。その為、薄利多売で頑張って来た弁当屋も、遂に値上げに踏み切らざるを得なくなる。客離れを最小限に食い止めるには、売れ筋の弁当価格は据え置いたまま、低価格帯の弁当を値上げするしか無い。
だから、売れ筋の唐揚げ弁当は500円に据え置いたまま、400円の幕弁当を450円に、一気に50円も値上げせざるを得ないのだ。8%から10%に2%の消費税値上げだけなら、こんな50円もの値上げにはならない。
かくして、消費税値上げは、軽減税率やポイント還元とも無縁の日雇い労働者や、日雇い労働者から「早くしろ」とせき立てられる薄給激務の弁当屋パート従業員に、最もしわ寄せが行く事になる。
あいりん地区以外の下町でも事情は同じだ。あいりん地区の隣の天下茶屋にあるイズミヤで買い物して、隣の整骨院で治療してもらい、向かいの和菓子屋で100円のアイスクリンを買うのが、私の公休日の朝の日課だ。しかし、その100円のアイスクリンも、この10月から110円に値上げされた。
和菓子屋のおっちゃん曰く、「他の和菓子は全て価格据え置きで頑張ってるが、このアイスクリンだけは、流石に100円ではやって行けないので、110円に値上げせざるを得ない」と。
私もそれに応え、「おっちゃんは何も悪ないよ。マスコミは軽減税率とか言って、持ち帰りは消費税8%に据え置きだとか言っているが、このカップのコーンや、それを包んでいる紙にも、消費税10%かかっている。おっちゃんはその10%を全て自腹切って税務署に払いながら、私に売るアイスクリンを110円に抑えてくれてんねや。
悪いのは、それをあたかも恩恵みたいに言うマスコミだ。テレビも新聞も、自分達が軽減税率の対象になっているから、安倍政権に逆らえないのだ。今のマスコミは戦時中の大本営や、今の北朝鮮と同じだ!」と、おっちゃんに励ましの言葉をかけてあげた。
それに引き換え、輸出産業の大企業はどうか?米国には消費税なぞ無いから、トヨタ自動車の米国への輸出には、「輸出戻し税(消費税還付金)」の形で、消費税分が丸々還元される仕組みになっている。その一方で、トヨタ自動車は、部品メーカーに対しては、取引停止をチラつかせながら、コストダウンの名目で、下請け単価を叩きまくっている。消費税も下請けにしわ寄せしながら、輸出にかかる消費税はチャラにしてもらっているのだ。
大企業に課せられる法人税も、名目は40%だが、実際は前記の「輸出戻し税」や研究開発減税などの形で、実際はごく僅かの税率しか負担していない。所得税も、以前は所得に応じて19段階、10〜75%の累進課税だったのが、今や6段階、5%〜最高でも40%と、高額所得者ほど税負担が軽くなっている。だから、法人税や所得税については、滞納はほとんど無い。国税庁HPの統計でも、2017年(平成29年)度滞納額6154億円のうちの約6割、実に3632億円が消費税によるものだった。
今年10月からの消費税10%への値上げ前も、「消費税が払えないから」と廃業する業者が相次いだ。真っ当に商売して来た業者ほど、顧客や下請け、従業員に増税コストをしわ寄せするのは忍びないと、廃業する道を選んだのだ。
残った業者が生き残るには、西成の弁当屋のように、より下の日雇い労働者やパート従業員に、犠牲を強いざるを得なくなる。元々貧しかったそれらの人々に、更に消費税値上げの重圧がのし掛かる事になる。(# ゚Д゚)
物価値上げと賃下げ、増税の行き着く先は、もはやデフレスパイラルしかない。不況と貧困の連鎖が果てしなく続く事になる。消費税は、まさに「悪魔の税」だ。
消費税値上げが10月からと言うのも、何だか皮肉にしか聞こえない。10月と言えばハロウィン。子供達が「Trick or Treat」(トリック・オア・トリート:お菓子をくれなきゃイタズラしちゃうぞ)と言って練り歩く季節だ。まるで徴税官が「Tax or Threat」(タックス・オア・スリート:税金払わなければ差押えするぞと脅迫)している様に聞こえる。その一方で、大企業や高額所得者は、税金大負けの大盤振る舞い。
逆じゃないか。そんなに財源が無いなら、大企業や高額所得者の遊休資産や、景気が冷え込んで使い道がなく眠っている内部留保、カジノ投機やオリンピックの無駄遣い、贅沢品にこそ、消費税20%でも30%でも課税すべきではないか。逆に、それを買わなくては生きていけない様な、なけなしの生活必需品については、軽減税率やポイント還元などのマヤカシではなく、すっきりと消費税をタダにすべきではないか。
かつては直接税や累進課税が税制の中心だった。「まず払える者から税金を払う」という「応能負担」が税制の基本だった。それがいつの頃からか、直接税から間接税に、所得税や法人税から消費税に、税制がシフトし、「サービスを受ける者が税金を払う」「応益負担」を唱える者が跋扈(ばっこ)するようになってしまった。
贅沢品への課税なら、「応益負担」でも良いだろう。でも、最低限の必需品や公共サービスについては、「応益負担」ではなく「応能負担」に戻すべきだ。障がい者の僅かな収入から作業所利用料をピンハネしたりするような阿漕な真似なぞ論外だ。誰しも好き好んで障がい者になった人間なぞいない。現にマレーシアのマハティール政権は、消費税を廃止して、景気浮揚に成功している。日本も早くそうすべきだ。