新型コロナウイルスの感染爆発が止まりません。私の住む大阪でも、昨日8月14日に更に感染記録を更新しました。同日の現在感染者数1,722名(前日比+3名)、新規感染者数192名(前日比+15名)は、感染の第一波が押し寄せた時の最高値である4月24日の現在感染者数1071名、4月9日の新規感染者数92名を遥かに凌ぐものです。現に私の勤め先でも、第一波の時にはまだどこか他人事だった感染拡大も、社内の別の事業所でも新規感染者が見つかるに及び、いよいよ間近に迫ってきた感がヒシヒシと感じられるようになりました。(大阪府の最新感染動向参照。それに伴い通天閣も緑から黄色に変わりました)
ところが、第一波襲来時には政府によるトップダウンで決まった全国一律の休校措置や、公共施設のロックダウンは今回行われませんでした。それどころか、GoToキャンペーンで旅行の推奨まで行われる始末です。大阪でも、5人以上の宴会・飲み会の自粛要請や「感染防止宣言ステッカー」のない飲食店・風俗営業店への来訪自粛が呼びかけられる一方で、11月には何があっても都構想住民投票を強行すると言われています。
その大阪では「大阪モデル」を提唱した吉村知事が人気を集めていました。カビの生えたアベノマスクを配ったり、優雅な私生活動画配信で人気急落の安倍政権を尻目に、吉村知事の人気がうなぎ上りでした。大阪ミナミの土産物屋では吉村グッズが売られ、「吉村寝ろ」という言葉まで生まれました。最近行われた東京都知事選挙でも、維新の無名新人候補が60万票以上得票し、落選したとはいえ予想外に善戦しました。維新嫌いの私ですら、「休業要請するなら補償もちゃんとしなければならない」という吉村知事の言葉に、「意外とまともな事も言うじゃないか。少なくとも安倍なんかよりは遥かにマシだ」と一瞬思ったりもしました。
ところが、その後も感染は収まらず、逆に治療効果も怪しいうがい薬のイソジンを、まるで「コロナに効く」かの様にテレビで宣伝する吉村知事の姿を見るにつけ、「これでは詐欺師と何ら変わらない」と思うようになりました。そこで、「大阪モデル」を始めとする吉村知事のコロナ対策を、ここで改めて検証する事にしました。
「大阪モデル」は元々、休業要請の解除基準として提唱されました。休業補償もろくにせずに営業や外出の自粛ばかり国民に押し付けようとする当時の国に対して、「休業要請する以上は解除の基準も明らかにすべきだ」という事で、5月5日に最初の基準が以下の様に定められました。
●「大阪モデル」5月5日の最初の基準(クリアすれば緑信号点灯)
- 感染経路不明者が直近7日間平均4名以下で前週を超えない。
- PCR検査の陽性率が7%未満。
当時の大阪は、この基準を難なくクリアし、通天閣には安全宣言の緑信号が点灯しました。ところが、その後、感染者数が上昇に転じ、このままでは緑信号を点灯し続ける事が困難になると思った吉村知事は、「病床数確保の目途が付いた」と言って、7月3日に今度は黄(警戒)信号・赤(危険)信号点灯の新たな基準を発表します。(上が旧基準、下が新基準)
●「大阪モデル」7月3日の新たな基準(クリアしなければ黄信号・赤信号点灯)
- 感染経路不明者:当初の平均4名、前週1倍➡5名以上、2倍以上で黄信号点灯。
- PCR検査陽性率の基準は撤廃➡新たに新規感染者数が直近7日間で120名以上かつ後半3日間で半数以上を占めたら黄信号点灯。
- 新たに重症病床使用率70%以上で赤信号点灯。
比べてみれば分かりますが、感染経路不明者については大幅に基準を緩和しています。その他の項目についても、何の科学的根拠もなく基準の内容をガラッと入れ替えています。これでは「いつまでも緑信号を取り繕うために、わざと下駄を履かせた」と言われても仕方ありません。実際、ノーベル賞を受賞した山中伸弥氏(京大iPS細胞研究所長)からも「結果を見てから基準を決める…大阪府の対策が科学から政治に移った…大阪府民として非常に心配…人は権力や上司に忖度するがウイルスは遠慮しない」と、非常に憂慮する意見が出されるようになりました。(5月24日の山中伸弥氏のブログ記事参照)
確かに吉村知事は、官僚の書いた答弁原稿を棒読みするばかりで、頓珍漢な施策や国民の神経を逆なでする動画を配信するしか能のない安倍首相、最近はテレビにも出てこない安倍首相と比べたら、まだ能弁でイケメンな分だけ、多少マシな感じがします。しかし、テレビ映りを気にするばかりで、自分の都合に合わせて基準を緩和するなど、やっている事は安倍政権の公文書改ざんとちっとも変わりません。
吉村知事はその後も迷走を続けます。今まで橋下徹・元大阪市長や松井一朗・前大阪府知事(現大阪市長)と一緒になって、保健所や病院の統廃合や民営化を強行してきたくせに、コロナによる医療崩壊で防護服やマスクの調達もままならなくなってから、やにわにマッチポンプよろしく雨合羽集めに狂奔し、使い道のない雨合羽を大阪市役所のホールや通路に野ざらしにし続けました。かと思うと、受け入れ準備も整っていないのに、トップダウンで十三市民病院のコロナ専門病院化を強行したりと、やる事なす事全てが単なる思い付きの人気取りに終始しました。
その次には、大阪ミナミの一角、御堂筋・堺筋・千日前通り・長堀通りに挟まれた狭い地域だけに、午後8時以降の営業自粛を呼び掛けてみたり。いくらそんな狭い地域に営業自粛を呼びかけ、「感染防止宣言ステッカー」を配った所で、酔客はそれ以外のアメリカ村や裏なんばに流れるだけで、全然効果がないのに。その上「感染防止宣言ステッカー」の店でクラスターを発生させてしまう始末です。
その挙句に、8月4日には、うがい薬のイソジンが「コロナ予防に効く」からと、効能も定かでないのに、テレビ会見まで開いてイソジンを始めとするポビドンヨード消毒薬を推奨するお粗末ぶり。これがきっかけで、消毒薬の買い占め騒ぎを引き起こし、大阪府歯科保険医協会から辛辣な抗議声明を突き付けられ、「イソジン吉村」の汚名まで頂戴する始末。この件でも、自ら買い占めを煽っておきながら、後になって「そんな事は言っていない」と視聴者に責任転嫁する無責任ぶりです。
このイソジン騒動には流石に私も呆れました。イソジンを乱用すると、口の中の悪玉菌だけでなく善玉菌も殺してしまい、余計にコロナに感染しやすくなる恐れもあるのに。また、いくら口の中だけ消毒しても、鼻や手も同時に消毒しなければ、コロナ感染を食い止める事は出来ません。それなら、副作用のあるイソジンよりも、マスク着用や手洗い励行の方が、よっぽどコロナ予防に有効です。そんな事、素人が考えても分かるのに。
これでは、幾ら知事が「大阪府民の命を守る」と息巻いて見せても、全然信用できません。それは「大阪モデル」の、この間の変遷、迷走ぶりを見るだけでも明らかです。そもそも、「大阪モデル」自体が「休業要請解除の口実探し」から始まったものであり、「府民の健康や暮らしを守る」視点から出てきたものではありませんでした。「住民の健康と暮らしを守る」という意味では、PCR検査の導入にいち早く踏み切った和歌山県の仁坂吉伸知事や、エピセンター(感染震源地)を中心に無料のPCR検査で陽性者の隔離・保護に踏み出しつつある東京都世田谷区の保坂展人区長の方が、吉村知事なんかよりもはるかに頑張っていると思います。
だから、大阪ミナミの一角にある吉村グッズの店でも、売っているのは吉村知事の顔入りTシャツ・マグカップ・饅頭だけで、吉村知事の言葉や思いは全然伝わって来ませんでした。新党の「れいわ新選組」も、イケメン(?)である山本太郎・代表頼みの「個人商店」である点は同じですが、こちらはまだ山本太郎氏の選挙演説も支持者の間には浸透しています。それに引き換え、吉村知事の売りは「イケメン」である事だけです。
その「イケメンである事だけが売り」で単なる「橋下チルドレン」に過ぎない吉村知事が、何故これほどまで人気を博する事が出来たのか?確かに彼は、「機を見るに敏」な人物ではあります。だからこそ、大阪の進学校から九州大学法学部に進学し、弁護士資格も手にする事が出来たのでしょう。儲からない多重債務者の弁護よりも、サラ金・武富士の顧問弁護士になった方が、はるかに大金を手にする事が出来ると判断したのでしょう。
私から言わせると、正に「労働者の敵」「ブラック企業の味方」みたいな人物ですが、その「生きる執念」みたいな所は、我々も見習わないといけないと思います。しかし、それを「イケメンで、テレビ映りが良く、視聴率を稼げるから」という理由だけで、持て囃したマスコミの罪は大きいと思います。吉村知事が本当に「大阪府民の命と暮らしを守る」気があるなら、維新のスポンサー企業を太らせるだけのカジノ誘致や大阪都構想よりも、コロナ対策に全力を集中するはずです。保健所や病院の統廃合なぞ強行しなかったはずです。サラ金の顧問弁護士なんぞにはならなかった筈です。
本当にマスコミに「社会の公器」としての自覚があるなら、「イケメン知事」の表の顔だけでなく「サラ金顧問弁護士」としての裏の顔も伝えなければ、およそ「公平中立な報道」の名には値しないと思います。表の顔を伝えるだけなら、単なる「御用新聞」に過ぎません。何度でも繰り返します。本当に吉村知事に「大阪府民の命と暮らしを守る」気があるなら、カジノ誘致や大阪都構想よりも、コロナ対策に全力を集中するはずです。保健所や病院の統廃合なぞ強行しなかったはずです。そもそもサラ金の顧問弁護士なんぞにはならなかった筈です。