アフガン・イラク・北朝鮮と日本

黙って野垂れ死ぬな やられたらやり返せ 万国のプレカリアート団結せよ!

当ブログへようこそ

 アフガン・イラク戦争も金正日もNO!!搾取・抑圧のない世界を目指して、万国のプレカリアート団結せよ!

 これが、当ブログの主張です。
 詳しくは→こちらを参照の事。
 「プレカリアート」という言葉の意味は→こちらを参照。
 コメント・TB(トラックバック)については→こちらを参照。
 読んだ記事の中で気に入ったものがあれば→こちらをクリック。

絶望や排外主義からは何も生まれない

2023年12月06日 13時40分00秒 | その他の国際問題
 
この間、ガザ関連の映画を立て続けに見た。その一つが「ガザ 素顔の日常」だ。戦争のニュースでしか報じられないガザにも、人々が私たちと同じように住み、日々の暮らしの中で喜び悲しんでいる。それがよく分かった。長さ40キロ、幅10キロほどの海沿いの土地に、200万人ものパレスチナ人が閉じ込められている。イスラエルとの境界には高い分離壁が築かれ、壁に近づこうものなら即座に発砲される。海上も封鎖され、漁船も沖合10~24キロまでしか操業出来ない。まさに「天井のない監獄」だ。
 
しかし、そんな中にも日々の暮らしがあった。若者は海でサーフィンに興じ、浜辺のカフェではなじみ客がいつものラテを注文し、店主と笑顔を交わす。チェロを演奏する少女の夢は、海外留学して国際法や政治学を学ぶ事だ。40人もの子だくさんの漁師の家に生まれた息子の夢は、大きな船の船長になる事だ。後にグーグルマップで調べたら、ガザにもUSJのようなテーマパークがある事が分かった。マスコミが報じる「イスラム国」や「アルカイダ」のイメージとは大違いだ。
 
でも、そんな日常も戦争で全て潰されてしまった。映画はそれまでのほのぼのとした日常生活の描写とは一転して、戦争の場面に切り替わる。ガザでハマスが実権を握って以降、イスラエルはガザを分離壁で封鎖し、人と物の出入りを極端に制限した。ガザには援助物資も入らなくなり、飢餓が蔓延。その上、イスラエルの空爆や侵攻で、発電所や病院などのインフラも破壊され、新生児の死亡率は今や50%を超える。
 
そのような状況下では、ガザの人々に残された意思表示の手段は、イスラエルの築いた分離壁に向かって投石する事だけだ。日本だったらトー横やグリ下にたむろしているような少年や若者が、ここではパレスチナの旗を掲げて、壁に向かって盛んに投石し、古タイヤを燃やして気勢を上げている。
 
 
私はこの場面を見て、西成あいりん地区の暴動を思い出した。あいりん地区でも、過去には数週間おきに暴動が頻発した時期があった。この時も、仕事にあぶれた労働者たちが、警察や商店、チンチン電車の駅に向かって盛んに投石していた。西成では、そんな事しても機動隊に逮捕されるだけだったが、ガザではイスラエル兵によって即座に射殺される。それでも若者は投石を止めない。それは何故なのか?
 
思えば、私の子どもの頃も、パレスチナではイスラエルとの間で衝突が続いていた。航空機がパレスチナゲリラによってハイジャックされ、イスラエルの空港では日本赤軍の活動家が銃を乱射していた。あいりん地区でも暴動が頻発していた。しかし、それを取り巻く環境は、今とはずいぶん違っていたように思う。
 
当時はベトナム反戦運動や学生運動が盛んだった。左翼や労働組合の力も今よりもっと強かった。その中で、パレスチナゲリラも、今のようなイスラム至上主義ではなく、被抑圧民族の連帯を説いていた。敵は米国とイスラエルだけで、その二国に抑圧されている人々は、どんな民族や宗教であれ、同じ仲間であると見なしていた。アラブ世界でも、スエズ運河を国有化し、反帝・反植民地主義を説くエジプトのナセル大統領が、第三世界のリーダーとして君臨していた。
 
世の中の風潮も、今のような「お先真っ暗闇」ではなく、「こんな世の中でもいつかは良くなる」という風潮が、どこかにまだ残っていたように思う。しかし、その風潮も、やがて大きく変わり始める。ソ連崩壊で社会主義の理想はすっかり色あせてしまった。アラブ世界も、ナセルの死でまとめ役を失った事で、混迷の度を深め、「アラブの春」で各国の独裁政権が相次いで倒れた後も、民主化は達成されず、逆にイスラム至上主義のテロがますます広がる勢いを見せようとしている。
 
パレスチナゲリラも、PFLP(パレスチナ解放人民戦線)などが説いた被抑圧民族連帯の主張は、次第に後景に押しやられ、イスラム至上主義を説くハマスやアルカイダ、イスラム国のような偏狭な主張が、次第に勢いを増して来たように思う。その中で、「こんな世の中でもいつかは良くなる」という風潮は影を潜め、代わりに「お先真っ暗闇」の風潮が幅を利かすようになる。
 
パレスチナの分離壁に投石する若者からは、ベトナムやアルジェリアのゲリラ兵士の写真からは感じられた「こんな世の中でもいつかは良くなる」という思いは、微塵も感じられなくなっていた。感じるのは「お先真っ暗闇」の絶望感の中で、「それでも投石するしかない。それ以外に自分の思いを表現する術はない」という、半ばヤケクソにも似た感情だけだった。これでは戦時中の特攻隊と何ら変わらない。
 
イスラエルのネタニヤフ首相が、いくら声を大にして、ハマスの非をなじり、過去のナチスによるホロコースト(ユダヤ人大虐殺)の例も引いて、「自国を防衛する権利」を説いても、私の心に全然響かないのは、「結局お前らは自分たちの事しか考えていないじゃないか」という気持ちがあるからだ。確かに、先にイスラエルの民間人を拉致したのはハマスだ。でも、それも、それまでのユダヤ人による入植地建設強行、パレスチナ人に対する度重なる嫌がらせ、令状なしの逮捕、いきなりの住居追い出し、井戸に毒を投げ込んでのインフラ破壊、「動物扱い」に対する因果でしかない。
 
そもそもシオニズムにしてからが胡散臭い思想だ。「ユダヤ人は今まで散々迫害されて来た。ナチのホロコーストを筆頭に。だから生まれ故郷の、エルサレムのシオンの丘に帰って、パレスチナの地にユダヤ人の国を作る権利がある」これがシオニズムの思想であり、それを体現したのが今のイスラエル国家だ。
 
でも、ちょっと待て。ユダヤ人がパレスチナの地を追い出されたのは、今からもう二千年以上も前の話だ。そこから二千年以上経ち、今はパレスチナは完全にアラブ人の国になってしまっている。そこにはアラブ人が、数世代に渡って、自分たちの生活を営み、文化を育んできた。エルサレムに住んでいるのもユダヤ人だけではない。市内にあるユダヤ教の聖地「嘆きの壁」のすぐ上にはイスラム教の神殿「岩のドーム」がそびえている。
 
「嘆きの壁」と「岩のドーム」(世界遺産マップのホームページより)
 
それを今頃になって、ユダヤ人がのこのこ現れ、アラブ人に向かって「お前ら出ていけ!」という権利なぞあるのだろうか?今も彼の地に住むベトナム人やアルジェリア人が、フランスやアメリカに向かって、植民地や外国支配からの独立を要求するのとは、訳が違うのだ。ユダヤ人が本当に、「迫害から逃れたい、もう二度とホロコーストのような目に遭いたくない」と思うなら、いたずらにシオニズムを振り回すのではなく、パレスチナとの二国家共存や連邦制、もしくは今の南アフリカのように、どんな人種・民族の人でも自由・平等・平和に暮らせる国を作るしかないのではないか。
 
この脈絡において、パレスチナ人はあくまで被害者でしかない。たとえハマスが先にイスラエルの民間人を拉致したとしても。今はまだボールはイスラエルの手の中にある。しかし、ユダヤ人もバカではない。ユダヤ人の中にも、今のネタニヤフ政権を良しとしない人は決して少なくはない。そういう人たちが、将来、イスラエルの政権を担う事になり、再び新たな「オスロ合意」を交わすようになっても、パレスチナ人が相変わらずイスラム至上主義、他民族排外主義に囚われているようでは、次はパレスチナ人が今のイスラエルと同じ苦境に立たされるようになるだろう。
 
映画『ガザ 素顔の日常』予告編
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ガザとパレスチナの今~太郎太郎(ねんねん)さんのツイートより

2023年11月03日 21時49分48秒 | その他の国際問題

約10年前と6年前の2回、ヨルダン川西岸地区に行ったことがあります。その時私が見聞きした事実です。 まず、私はヘブロンという街に行きました。世界遺産の宗教的聖地。普通なら観光客で賑わう明るい街です。でも、そこは街全体がシャッター街になってしまった寂しい街でした。

理由は、イスラエルの入植です。軍事力で圧倒的に勝るイスラエルが街を空爆を含む手段で制圧し、パレスチナ人を追い出しました。それでも抵抗して街を離れなかったパレスチナ人は、入植者からひどい嫌がらせを受けているそうです。

写真は屋台通りであっただろう寂れた路地から空を見上げて撮った写真です。入植者たちが、買い物客を狙ってゴミや瓶などを投げつけたそうです。その対策として金網が張られていますが、それでもゴミが投げ込まれていました。

パレスチナは日本のように水に恵まれた地域ではありません。また、貧しい地域なので水道管などのインフラも整っていません。 では、日常生活で使う水はどうしてるか。それは、各家庭の屋上に水タンクで貯水し、そこから都度都度水を使っているそうです。

イスラエル軍はその水タンクに銃で穴を開けて回ったそうです。当然、水がなくなれば生活もできません。タンクを修理しようにも、武力制圧された街です。至る所に監視櫓があり、そこでは自動小銃を持ったイスラエル兵が目を光らせていました。

当然修理なんて不可能。どんどん住人が減っていったそうです。 最初にヘブロンを訪れた際は、まだ耐えている住人は残っていました。でも2回目は街全体が廃墟となっていました。 このヘブロンより、ガザは酷いと聞きます。退避することすらままならないでしょうから。だから『天井のない牢獄』なんです

私を案内してくれたタクシードライバーはこう言ってました。「俺も家族を殺された。でも抵抗する手段すらないんだ。イスラエル兵の自動小銃は何発でも打てる。でもパレスチナの自動小銃はコピー品。1,2,3発。それで壊れる。俺達にはなにもできない」

パレスチナにはインティファーダという抵抗運動があります。体の小さな少年が、イスラエルの巨大な戦車に石を投げつけてる写真が有名ですね。何も知らない方は「何故そんな無茶を?」と思うかもしれません。でも、彼らにはハマスのような武装組織に参加する以外、それしか選択肢がないんです。

家族を殺されて、住居を奪われ故郷を追われ、イスラエルに殺されるという可能性を身近に感じながらも、それ以外に選択肢がないんです。 だから、自殺まがいのテロが頻発する。全てを奪われてもなお、自分の命だけは最後に使えるから。

他のパレスチナ人はこう言いました。「壁の向こう側には俺達にとって大切な場所があるんだ。一度だけでも、どうしても行ってみたくてね、超えれないか試してみたことがある。捕まって拷問されたよ。電流を流された」

パレスチナは巨大な壁に囲まれています。その壁は、イスラエルが軍事力によって押し付けたもの。パレスチナ人のことは考慮されていません。国連の資料には、壁の向こう側にある学校へ、地下トンネルを通って登校しようとした子供が落盤により命を落とす事例もあるとありました。

ただでさえ絶望的な貧困の中、通学すらできない子供の将来はどうなるか。残念ながら、そんな将来すら閉ざされた。 なお、当然地下トンネルはイスラエルに見つり次第潰されてるとのことです。 ガザの地下トンネルも、ハマスのものだけではないでしょう。分離壁がなければそもそもなかったものですが

別のパレスチナ人はこう言いました「イスラエル人にもいい人がいるのは知っている。可能であれば仲良くしたいんだ。でも、俺達の声は壁の向こうに届かないんだ」

私が会ったパレスチナ人は親切な人ばかりでした。私が道に迷っていたら、通りすがりの人が声をかけてくれました。貧しいにも関わらず、私に晩御飯をご馳走してくれました。同じことで笑い、同じことで悲しめる人達でした。イスラエル人にも同じように優しい人がいました。

そんな人たちが、今、殺し合っています。イスラエルを恨む人も殺されています。そして、恨みを飲み込んででも平和を選ぶ人もまた、殺されています。命令を受けてガザに踏み込んだイスラエル人もまた、一定数殺されるでしょう。戦力が違うので、パレスチナ人の犠牲が圧倒的に多いでしょうが。

今回のハマスの攻撃及び誘拐に賛同するつもりはありません。言うまでもなく人道からは逸れていますし、汚職も指摘されていた組織です。イスラエル人の民間人だって人生があった。それを奪っていいとは決して思いません。

それでも、パレスチナに実際行ってみた率直な感想は「これでテロが起きないはずがない」でした。だってイスラエルが武力で制圧して抑圧して殺してるんです。恨まれないはずがない。 今回の事件は、本当にハマスを悪と断罪すれば終わるものでしょうか?ガザの人達は殺されても仕方ないでしょうか?

イニシアティブをとれるのは、軍事力でパレスチナを圧倒しているイスラエルです。そのイスラエルが変わらなければ、復讐に駆られた生き残りのパレスチナ人がハマスに参加し、またテロを起こす。それの繰り返しでしょう。

でもイスラエルの世論は容易には変わりません。パレスチナと融和政策をとった政治家を暗殺する極右もいますし、既に大勢殺してるのも自覚してる以上、今更後戻りもできない。本当に活路が見えないのがパレスチナ問題です。

それでも、国際世論が少しでも多くパレスチナに目を向ければなにか変わるかもしれない。そう思い、当ツイートを作成しました。 両国の間に、ほんのわずかでも平和の可能性が育ちますように。少しでも両国の犠牲が減りますように。僅かでも理不尽が減りますように。心からそう願います。

ヘブロンの穴を開けられた水タンクの写真と、分離壁、現地で出会った子供の写真を載せておきます。 水タンクは、私が見た限り全ての家屋に穴が開いていました。

1点訂正です。 6個目のツイートで「ヘブロンの街全体が廃墟になっていました」と書きましたが、正確にはヘブロンの街のH2と呼ばれる、世界遺産になったアブラハムの墓や旧市街を含む地域でした。

※太郎太郎(ねんねん)さんのツイートはここまで。ツイートの原文と写真はX(旧ツイッター)の投稿を参照。

※上記の「H2」について補足すると、そもそも、1993年のオスロ合意で創設されたパレスチナ自治区で実施されているのは、あくまで「暫定自治」に過ぎない。当初は5年後に恒久自治に移行するはずだったが、当時のイスラエル首相ラビンの暗殺、その後に首相に就任した極右政治家シャロンの挑発行為(イスラム教の聖地「岩のドーム」を訪問して「ここはイスラエルのものだ」と挑発)によって完全に暗礁に乗り上げ、現在では全く形骸化。あくまで不完全な暫定自治なので、自治政府の行使できる権限は限られている。

自治区内はエリアA(自治政府が行政権も警察権も行使)、エリアB(自治政府が行使出来るのは行政権のみ)、エリアC(自治政府の権限は全く及ばない)に分けられる。2000年においてもエリアAは自治区全体の17.2%に過ぎず、6割以上がエリアC(つまりイスラエルの軍政下)に留められている。(ウィキペディア参照

その中で、ヘブロン市では1997年の合意により、市内の8割を自治政府が治め(H1)、2割がイスラエルの軍政下に置かれる事になった。(ウィキペディア参照)。後者の軍政下に置かれた地域がH2である。

※それ以前に、「そもそもパレスチナ問題とは何ぞや?」という事も知っておかなければならないので、下記の解説も載せておきます。パレスチナ駐日代表部のホームページをそのままスクリーンショットで撮りました。この解説を読み、上記のツイートを読んで、私の補足説明も参考にしていただければ、「ガザやパレスチナで今何が起こっているのか?」大体の所は分かっていただけるのではないかと思います。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ジョーブログ・イン・パレスチナ

2023年10月18日 00時02分46秒 | その他の国際問題
【進撃の巨人の世界】未だ紛争が絶えないパレスチナに行ってみた。
 
西成の超有名YouTubeチャンネル「ジョーブログ」のパレスチナ訪問記。
 
撮影者のジョー君は、西成あいりん地区で居酒屋「レディゴー」経営の傍ら、西成の日常や日本各地の旅行記を動画にアップするYouTuberだが、今回は何と紛争の続くイスラエルのパレスチナ自治区を訪問。
 
数年前の動画だが、いつもと同じ軽快なノリで、複雑なパレスチナ問題をここまで分かりやすく語れる事に驚き。やはり超有名YouTuberだけある。
 
日本のマスコミは、とかくイスラエル目線から、パレスチナのハマスだけをテロリストと断罪。イスラエルが今までパレスチナに対して行って来た住民監視、土地強奪、財産取り上げについては黙殺。その上で、悲惨な戦場の様子だけを取り上げ、「お涙頂戴」報道で視聴率稼ぎ。そんな皮相な「お涙頂戴」報道を、安全な茶の間からいくら見ても、抑圧される側の苦しみや怒りは分からない。
 
その偽善的な報道姿勢は、暴力団や悪徳業者による日雇い労働者に対するピンハネや暴力支配には目を瞑り、釜ヶ崎の活動家やホームレスだけを、興味本位に「テロリスト」や「犯罪の温床」と一方的に描く西成暴動のマスコミ報道と同じだ。
 
他方でパレスチナも、自治区とは名ばかりで、高い壁やフェンスに囲まれた狭い土地に押し込められ、農地や家屋も取り上げられ、移動するにも許可がいる。イスラエル兵に始終監視され、銃口を向けられ、その時の気分次第で、検問も封鎖される。食料や日用品も満足に搬入出来ないので、自治区の中は年中飢餓状態。
 
ジョー君はそれを「イスラエルによる植民地化」「まるで『進撃の巨人』の世界」と評したが、まさにその通り。かつてアパルトヘイト(人種隔離政策)が行われた南アフリカでも、黒人は不毛の荒野に押し込められ、その狭い居住区で名ばかりの「自治」や「独立」を与えられた。トランスカイやボフタツワナなどの「独立国」がそれだ。その実態は「天井のない監獄」。まさに釜ヶ崎と同じだ。
 
確かに、ハマスによるイスラエル市民に対する拉致は許されない。しかし、それはイスラエルによるパレスチナ市民に対する拉致、財産強奪、戦争挑発も同等に報道して初めて言える事。
 
パレスチナ自治区の中に何故イスラエルの入植地があるのか?同じテロなのに、イスラエルの死傷者が数十人なのに対して、パレスチナの死傷者は何故数千人にも上るのか?

「我々を高い塀で囲い込み、檻の中に閉じ込めようとするイスラエルは、我々を動物扱いしている。我々もイスラエルのユダヤ人と同じ人間だ。我々を動物扱いするな!」とのパレスチナ人の叫びを、あなたはどう受け止めるのか?
 
イスラエルの街や入植地は今もビジネス客や観光客で賑わっているのに、道一つ隔てたパレスチナ人居住区は荒廃したスラムのまま狭い地域に押し込められ、買い物で外出する際もイスラエル兵に検問で嫌がらせされる。その事を抜きにして、ガザやパレスチナを語る事は出来ない。
 
(追記)
 
 
パレスチナ問題は上記4枚の地図を抜きにしては語れない。

一番左はイスラエル独立前の英国委任統治領パレスチナの領域。領土の94%はアラブ人(パレスチナ人)の土地だった。それがナチスの迫害などによってユダヤ移民が急増し、アラブ人との衝突が激化。手を焼いた英国は遂に委任統治を手放す事に。

その右が国連によるユダヤ・アラブ分割統治案の図。国連は1947年に、英国撤退後の混乱を鎮める為に両民族の2国家分割統治を提案。

しかし、どちら側からも拒否され、左から3番目の地図の形で、今のイスラエルとパレスチナ(ヨルダン川西岸とガザ地区)に分割される事に。ヨルダン川西岸はヨルダン領、ガザ地区はエジプト領となるも、どちらも1967年の第三次中東戦争でイスラエルの占領下に。後にイスラエルはシナイ半島のみエジプトに返還。

1993年のオスロ合意による和平で、ようやくパレスチナの自治が認められる事になったが、自治政府の権限はパレスチナ領域の2~3割程度(元委任統治領の8%)にしか及ばず。それ以外の地はイスラエルの警察や軍が管理し、パレスチナ人の土地や建物を一方的に接収。分離壁を築き、人と物の出入りを遮断。イスラエルはそれ以外にも、パレスチナ領域の中に入植地を建設し、パレスチナの領土を侵食し続けている。それを表現したのが一番右の地図だ。

日本のマスコミはハマスのテロだけを非難するが、どちらが本当のテロリストか、この地図を見れば一目瞭然。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ゼレンスキー大統領の国会演説に対する違和感

2022年03月23日 22時22分03秒 | その他の国際問題
「国連改革が必要」ゼレンスキー大統領が国会でオンライン演説【ノーカット】
 
アジェンデ 最後の演説 チリ・クーデター (日本語字幕付) Salvador Allende ultimo discurso
 
先程放送されたゼレンスキー・ウクライナ大統領のオンライン国会演説を私も聞きました。聞いて非常に違和感を感じました。ゼレンスキー大統領に対してではありません。それをスタンディングオベーション(起立拍手)で迎えた岸田総理や衆参議長に対して、私は非常に薄気味悪い違和感を感じました。
 
客観的に見れば、この戦争は明らかにロシアによるウクライナ侵略戦争です。たとえ、どんなに双方に言い分があったとしても、先に手を出したのはロシアです。ウクライナが先に手を出したのではありません。
 
あくまでロシアが侵略者で、ウクライナはその被害者です。被害者の国の大統領が、世界各国に向けて、オンラインで侵略を非難するのも、当然の行為です。その非難する言葉の中に、多少行き過ぎた表現や誇張があったとしても、その為に侵略自体を免罪するような事があってはなりません。
 
問題はそれを聞く我々の側にあります。今回、ゼレンスキー大統領は、ロシアによる侵略を告発する被害国の指導者として、スタンディングオベーションで迎え入れられました。
 
侵略戦争に反対するのは当然の事です。まして日本は、過去に「大東亜共栄圏」の名目で、アジア侵略に走り、その反省の上に立って、平和憲法を制定した国なのですから。他国以上に、平和や自由・人権を擁護する立場に立たなければならない筈です。
 
しかし、日本政府は今までそのような立場で外交を行って来たでしょうか?日本国民も、そのような立場で他国民と交流して来たでしょうか?
 
例えばベトナム戦争の時はどうだったでしょうか?ベトナム戦争では、沖縄や岩国・厚木の米軍基地から、多くの戦闘爆撃機が飛び立ち、ベトナムの戦場を空爆しました。それに対して、日本の政府や国民は、当時のベトナム指導者ホーチミンに対して、スタンディングオベーションで応えたでしょうか?
 
確かに、「ベ平連」などの形で、反戦平和や侵略戦争反対の運動は盛り上がりました。横浜では市民が米軍の戦車輸送を阻止する戦いに立ち上がりました。でも大多数の国民は、それを対岸の火事として見ていただけではなかったでしょうか?酷い奴になると、戦争で一儲けしようと、「死の商人」に成り下がる輩も少なくなかったのではないでしょうか?
 
南米チリの反革命クーデターの時はどうだったでしょうか?選挙で民主的に選ばれたチリのアジェンデ社会主義政権に対し、米国は1973年に反革命クーデターをけしかけました。「9.11」は、米国では2001年のニューヨーク同時多発テロの日として記憶されますが、南米では、この米国による反革命クーデターの日として記憶されます。
 
アジェンデ大統領は最後の演説で米国の侵略を告発しました。このアジェンデ演説もゼレンスキー演説と同じ侵略に対する抗議です。それに対し、日本の政府や国民は、この決死の抗議に対して、スタンディングオベーションで応えたでしょうか?完全に黙殺しただけだったではないですか!
 
「当時はインターネットなぞ無かったから、スタンディングオベーションなぞ起こりようもなかった」と言いたいのでしょうか?別にインターネットなぞ無くても、ラジオ演説だけでも、流そうと思えば流せたのではないでしょうか?アジェンデ大統領が、最後にまだ唯一掌握していた放送局に託した、自決前の最後の演説を、テレビを通して全国放送する事も、可能だった筈です。
 
ミャンマーのアウンサン・スーチー氏に対してはどうだったでしょうか?軍事政権によって捕らえられた民主活動家のスーチー氏の演説も、オンラインで国会に流し、政府も国民も、スタンディングオベーションで応えるべきだった筈です。「平和・自由や人権・民主主義を守る側への支援を惜しまない」と、当時の政府は言っていたのですから。そして、当時はもう既にインターネットの時代に突入していたのですから。
 
しかし、日本はベトナム戦争、チリ反革命、ミャンマーの人権弾圧に対しては、沈黙したままでした。それどころか、ベトナム戦争では、米国に侵略の基地まで提供しました。ミャンマーの人権弾圧に対しても、形だけ遺憾の声を上げるのみで、裏では逆に軍事政権と血脈を通じているではないですか。
 
ミャンマーの軍事政権を育成したのは実は日本なのです。第二次大戦中に、当時ビルマと呼ばれたミャンマーでは、英国の植民地統治に対する独立運動が起こっていました。それを日本軍が、戦争遂行に利用しようとしました。「南機関」という軍直属のスパイ組織が、独立運動の指導者を拉致して、独立を認める代わりに日本への協力を迫ったのです。
 
そして、ビルマ独立義勇軍(BIA)を編成し押し立てて、ビルマを占領し、形だけの独立を義勇軍に与えました。しかし、実際は日本が英国に代わってビルマを新たな植民地にしただけでした。これが「大東亜共栄圏」なるものの正体です。やがて、その正体を見抜いた義勇軍は、親日から反日に転じます。その独立義勇軍の末裔(まつえい:子孫)がスーチー氏であり、南機関の一員だったビルマ人ネ・ウィンの末裔が、今のミャンマー軍事政権なのです。
 
この様に、ミャンマーについては、もはや日本は第三者ではありません。当事者でもあるのです。それに対して、日本の政府や国民は、どう振る舞ったでしょうか?親日か、反日か?米国寄りか、中国寄りか?そんな自国の都合で、ある時は独立運動や民主活動家を、またある時は軍事政権の側を、打算的に利用して来ただけだったではないですか!
 
ロシアのウクライナ侵略を非難しながら、米国のアフガン・イラク侵略は見て見ぬふり。ベトナム戦争に加担しながら、その反省もなしに、「今のベトナムは反中国だから応援する」と言う職場のパートや、ベトナム人労働者を低賃金搾取する事しか考えない日本のブラック企業。「ウクライナのゼレンスキー頑張れ!」とあれだけ言っていたのに、彼が日本軍の真珠湾攻撃を揶揄した途端に、ゼレンスキー叩きに変わる日本の右翼。
 
そんな日本が、自分に都合の良い時だけ、スタンディングオベーションで迎えても、最後には民主活動家の側からも、軍事政権や侵略者の側からも、見透かされ見捨てられるだけです。日本が真に平和・民主国家で、自由・人権の守護者であろうするなら、そこには一切のエコひいきや二枚舌があってはならない筈です。全ての侵略や人権侵害に抗議してこそ、初めて世界から尊敬される国になると思います。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

プーチンに戦争を止めさせる為の緊急署名

2022年03月15日 00時19分00秒 | その他の国際問題
 
どこぞの冷笑系の元サラ金顧問弁護士(橋下徹)が、「戦争反対なぞ叫んでも無駄。欧米諸国はエネルギーを依存している大国ロシアと妥協せよ」と言いながら、国民には「憲法改正で国防力強化」を説く二枚舌。
橋下が「国防力強化」で守ろうとしているのは、利権や政治権力であって、国民の命や人権ではない。だから、こんな「二枚舌」の詭弁も平気で言えるのだ。
しかし、現実は戦争反対の世論がベトナム戦争を終結に導いた。その後のアフガン戦争やイラク戦争はくい止められなかったが、核兵器の使用は今も全く許してはいない。
高校生が戦争反対の署名を集めると、日本ではすぐに「政治的」だの「左寄り」だのと批判する声が上がる。しかし、本来「戦争反対」に右も左もないはずだ。今、ロシアの国営放送中に反戦プラカードを持った女性が乱入した事がニュースで取り上げられているが、この女性に賛同しながら、高校生の反戦署名集めに眉をひそめるようでは、先に述べた橋下の「二枚舌」と同じだ。
「見て見ぬ振り」では虐めも戦争も絶対に無くならない。是非署名にご協力を!以下転載。
 
 
緊急署名 プーチン大統領、すぐに戦争をやめてください。
 
ロシア連邦政府によるウクライナへの軍事侵攻と核兵器使用の威嚇、原子力発電施設への攻撃に抗議します。

プーチン大統領、ただちに戦争をやめてください。

今回の国連憲章と国際法に違反したロシアの侵攻は、平和な世界を希求している私たちにとって許せるものではありません。

私たちが求めているのは、戦争も核兵器もない世界です。私たちは、世界で唯一の戦争被爆国であり平和憲法を持つ国の未来を担う主権者として、平和を求める世界中の人々と連帯し、「戦争反対」を強く訴えます。

〈呼びかけ人〉
沖縄高校生平和ゼミナール 東京高校生平和ゼミナール 広島高校生平和ゼミナール
〔署名集約日〕 2022年3月20日

*私たちは各地で平和について学び交流している高校生の平和学習サークルです。
*この署名はロシア大使館に提出します。個人情報はこの要請目的以外には使用しません。
*これはネット署名です。賛同していただける方は、下の欄に入力して「送信」してください。重複をさけるため紙の署名用紙に署名した方は、このネット署名には署名しないでください。
 
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ウクライナ問題の超分かりやすい解説

2022年02月27日 19時48分07秒 | その他の国際問題
 
ロシアが遂にウクライナを侵略した。21世紀にもなって、いまだにロシアは、昔の大日本帝国や、かつてのベトナム戦争、旧ソ連のアフガニスタン侵攻と同じ誤りを繰り返しているのだ。全然進歩がない。もはや呆れて物も言えない。
 
でも、ロシアにもロシアの言い分があるはずだ。それ以前に、ウクライナという国についても私はよく知らないので、図書館から「ウクライナを知るための65章」という本を借りて来て、一から勉強し直す事にした。
 
しかし、読み始めてもう一日で嫌になった。ウクライナの歴史を少し紐解いただけでも、何ちゃら大公国とか、何ちゃら大王とか、何ちゃらの戦いとかが、次から次へとひっきりなしに出て来て、頭の中がウニになってしまったのだ。
 
私は昔から地理や歴史の本を読むのが大好きだった。自慢じゃないけど、小学校から高校まで、社会科の成績通知表はオール5だった。その私ですら、もう一日でこの本を読むのが嫌になった。お陰で、社会科の苦手な人の気持ちが初めて分かった。
 
だから、細かい史実にはとらわれずに、ざっくりと私なりにウクライナの歴史について解説していこうと思う。
 
ロシアは何故ウクライナに侵攻したのか?ロシアの言い分はこうだ。いわく「ウクライナは他の国とは違い、ロシアの兄弟国だ。たまたま今は2つの国に分かれているが、昔は1つの国だった。それが本来の姿だ」と。
 
確かにロシアとウクライナはよく似ている。例えば、ロシアもウクライナも宗教は同じギリシャ正教だ。だから、ウクライナの大聖堂の写真を見ると、昔パルナスのCMに出てきたロシアの寺院とそっくりだ。言葉も非常によく似ている。使用している文字もほぼ同じだ。
 

ウクライナ一帯では8~13世紀にキエフ大公国(キエフ・ルーシ)が栄えた。「ルーシ」とは東スラブ人の総称でもあり、今のロシアの国名も、このルーシが訛ったものである。

ウクライナの首都キエフにある聖ソフィア大聖堂。世界遺産に認定されている。(図・写真はいずれも「世界の歴史まっぷ」から引用)

 
でも、今はロシアとウクライナは別の国なんだから、兄弟国だからと言って、ロシアの考え方、やり方を一方的にウクライナに押し付けるのは間違っている。
 
ロシアみたいな事を言い出せば、清教徒の移民が建国したアメリカも、元はイギリスと兄弟国なのだから、アメリカも自由にイギリスを併合出来てしまうではないか。そんな事、絶対に受け入れられないにも関わらず。
 
だから、ロシアの言っている事は完全に間違っている。兄弟愛や家族愛を装って、自分の考えを押し付けるのは、独裁者や権威主義者の典型的な手口だ。ロシアは今すぐウクライナから手を引け。
 
但し、ウクライナも反省すべき点は多々ある。例えば、今、ウクライナの東部で、ロシア系の住民が、勝手に独立宣言して、「もうウクライナ政府の言う事は聞かない。これからはロシアの指示に従う」と言い出している。
 
しかし、このロシア系の住民も、最初からこんなへそ曲がりだった訳ではない。今から30年ほど前に、ソ連が解散して、ウクライナがソ連から独立した時は、ロシア系住民も独立する事に賛成した。もうロシア人ではなくウクライナ人として歩んでいこうと決めたのだ。
 
そうであるにも関わらず、それから30年も後になって、何故また「ロシア人に返る」なんて事を言い出すようになってしまったのか?ウクライナ人達が、ロシア系住民の意見を聞かずに、ウクライナ人達だけで何事も決めて来たからではないか。
 
その最も分かりやすい例が、ウクライナのNATO加盟問題だ。NATO(ナトー)とは「北大西洋条約機構」の略だ。米国がソ連のワルシャワ条約機構に対抗して、フランスやイギリス、当時の西ドイツと一緒に組んだ軍事同盟の事だ。
 
しかし、今はもうソ連もワルシャワ条約機構もなくなった。だったらNATOも解散すれば良いだろう。なのに、何故NATOだけ後生大事に今でも存続させて、ロシアを仲間はずれにし続けるのか?これではロシアが怒るのも当然ではないか?
 
ロシアはもう共産主義国ではない。アメリカと同じ資本主義の国なんだから、ロシアも加盟させるのが筋だろう。それ以前に、そもそもロシアに対抗する意味すら無くなったのだから、さっさと解散して、今のEU(ヨーロッパ共同体)のように、軍事対立ではなく相互協力に基づく共同体に衣替えするのが筋ではないか。
 
何故そうしないのか?アメリカの支配が崩れるのが怖いからか?それではロシアと全く同じではないか?それでなくとも、ウクライナでは今でもチェルノブイリ原発事故の後始末で精一杯なのに。そんな戦争ごっこよりも、もっと先にやらなければならない事がいくらでもあるはずだ。
 
国内の民族対立も、元はと言えば経済格差が根っこにあるのだろう。その解消法を先に話し合うのが筋だろう。他にもコロナ対策など、先にやらなければならない事は山ほどあるはずだ。
 
それ抜きに、お互いが非難合戦を続けている限り、国も豊かにならないし、国民も幸福にならない。ロシアもアメリカも、ベトナム戦争やアフガニスタン戦争、チェチェン紛争、IS(イスラム国)との戦争で、それを嫌と言うほど味わったはずなのに。まだ懲りないのか。
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

自衛隊は今すぐ中東から手を引け!非軍事の平和貢献こそ日本の歩む道

2020年01月07日 15時27分00秒 | その他の国際問題

 

新年早々1月3日に、米国のトランプ政権が、イラクのバクダッド空港で、イラン革命防衛隊の精鋭部隊コッズ部隊を指揮するソレイマニ司令官らをロケット砲で爆撃、殺傷した。これに対し、イラン政府は米国に報復を宣言、米国トランプ政権も「報復されたら更に文化施設を含むイラン国内の標的52ヶ所を攻撃する」と宣言した。文化施設まで攻撃するとは、もはや中東のテロリストと何ら変わらない。事件現場となったバグダッド空港を抱えるイラク政府も、これにはさすがに黙っていられなかったようだ。今まで散々アルカイダ、IS(イスラム国)掃討作戦で米国のお世話になったにも関わらず、今回の米国の攻撃をイラクの主権侵害と捉え、非難声明を出すに至った。

トランプは今回の攻撃を「予想されるテロ攻撃への予防措置」「戦争の為ではなく戦争防止の為に行った」と強弁しているが、そんな詭弁は成り立たない。何故なら、先に戦争を仕掛けたのは、常にイランではなくアメリカだったからだ。

イランでは早くも1953年に、石油国有化を掲げた当時のモサデク政権を英米の主導するクーデターで打倒している。英米がその後釜に据えたのが国王のパフラヴィー(パーレビー)だ。パフラヴィーは英米やソ連を後ろ盾に、「白色革命」と称する近代化を上から強行したが、潤ったのは一部の取り巻きだけで、国内には格差が広がり、国民は秘密警察によって自由を抑圧された。(BBCニュース動画参照

ちなみに、この時イランのモサデク首相を助けたのが当時の出光興産社長・出光佐三だ。禁輸網をかいくぐってイラン原油を日本に輸出し、百田尚樹の小説「海賊と呼ばれた男」のモデルにもなった。しかし百田は出光を日本人美談に利用するだけで、自衛隊派兵にも大賛成。安倍信者のネトウヨ作家にとってはイランも商売のネタでしかない。

やがて、国民の不満が高まり、1979年のイラン革命で国王は亡命を余儀なくされる。この革命で、イランは王国からイスラム共和国に移行するが、政治の実権を握ったのは国民ではなく宗教指導者のホメイニやハメネイだった。野党や労働組合が抑えつけられる中で、政府にまともに対抗できるのは宗教勢力しかなかった。それが革命後の国づくりにも影響を及ぼす事になる。

他方で、米国は革命以後も、国王の亡命を受け入れ石油国有化を拒否する事で、イラン国民に敵対を続ける。反米学生が首都テヘランの米国大使館を占拠したのに対し、イランに対し初の経済制裁を発動。その裏では、二股をかけ制裁対象であるはずのイランに武器を売りつけ、その金で中米ニカラグアの反共ゲリラを支援する芸当までやってのけた(イラン・コントラゲート事件)。

1980年代のイラン・イラク戦争でも米国はイラクに一方的に肩入れ。1988年にはイランの旅客機を米軍が撃墜している。2002年には当時の米国ブッシュ大統領が、イランをイラク・北朝鮮と並んで「悪の枢軸」と名指し批判。その米国の姿勢がイランを軍拡と核開発に追いやった。今や、イランはトルコ、サウジアラビアと並ぶ中東有数の軍事大国にのし上がるまでになった。

しかし、やがて転機が訪れる。米国オバマ政権主導下に、2015年にイランが「経済制裁解除と引き換えに国際原子力機関(IAEA)による核査察を受け入れる」と表明。この核合意で中東にも一時は平和が訪れるかに思えた。ところが、2019年に米国トランプ政権が核合意からの離脱を一方的に表明し、2020年に入った途端にイランの国民的英雄であるソレイマニ司令官を殺害。

今や中東が第三次世界大戦の発源地になろうとしている。米国大統領トランプは、朝鮮半島では米朝首脳会談を実現させ、あたかも平和の使者のように振る舞っているが、これとても米国前大統領オバマの朝鮮半島政策に対する意趣返しに過ぎない。

要するに、このトランプという男は、その時々の都合で、ある時は「平和の使者」、別の時には「強面の強硬派」としての顔を、それぞれ演じ分けているに過ぎない。彼の本質は、あくまでも米国第一主義のワガママなナショナリストだ。

それに対し、日本の安倍政権は、いたずらにトランプに尻尾を振るのみで、全然トランプの無法を諌めようとはしない。その上、歴史的に親日であったイランやイラクにも良い顔をしようと、八方美人を演じる事で、かえって両国からも不信を買う体たらくだ。安倍は、昨年6月にわざわざイランまで行きながら、トランプのメッセンジャーに終始した為に、イランのロウハニ大統領から「気遣い無用」とあしらわれ、スゴスゴと帰る他なかった。

そのくせ、安倍は12月27日に自衛隊の中東派遣を、防衛省設置法に定める「調査・研究」名目で、「アデン湾からオマーン湾に至る日本船舶の航行の安全を確保する為」と称して、法律や国会決議も経ずに一片の閣議決定だけで、年末のドサクサに紛れて強行した。本来なら省庁の役割分担を定めたに過ぎない法律を、無理やり海外派兵正当化に利用したのだ。一応「米国の主導する有志連合には加わらない」とされるものの、戦場となるホルムズ海峡とは目と鼻の先に派兵し、「米軍とも情報共有する」と言う。イランからすれば完全な利敵行為だ。

イランと米国の間で軍事緊張が高まるにつれ、年末までの株価高値が嘘のように、年明け早速、株価が急降下した。年末の株価バブルそのものも、アベノミクスによる官製相場に過ぎず、ボロ儲けしているのは一部の輸出大企業だけだった。庶民は消費税増税のダブルパンチに苦しんでいる。その上、更に、安倍やトランプ、一部の軍需産業の利益の為に、何故我々の自由が制限され、暮らしを破壊されなければならないのか?

戦争に踊らされているという意味では、イランやイラクの民衆も同じだ。せっかく革命で独裁者を追放しながら、その成果を宗教指導者に横取りされ、外国資本や帝国主義者の代わりに、宗教指導者による独裁に苦しめられる事になった。イランやイラクでも、昨年の夏から秋にかけて、失業反対・汚職追放のデモやストが広がった。しかし、その好機も、トランプが戦争の火種を付けた事で、かえってアルカイダやIS等のテロリストが息を吹き返す結果になってしまった。

世界の近現代史をひもとけば、アメリカこそが戦争の火付け役であり、テロの発震源だった。そんなアメリカにテロの被害者ヅラする資格なぞあろうはずがない。その中で、本来なら憲法9条で平和国家を宣言し、イラクやイランとも友好関係を保持して来た日本こそが、非軍事の外交交渉で和平の仲介を果たす事が出来るのに、いたずらにトランプに尻尾を振り続けた結果、両国からも憎まれる事になってしまった。

もはや残された道は唯一つ。一刻も早く安倍政権を退陣させ、自衛隊を中東から撤退させ、非軍事の外交交渉で平和国家本来の役割を果たせるようにするしかない。もはや紅白歌合戦やゴーン脱獄劇に目を奪われている場合ではない。ゴーンの事を取り上げるなら、脱出経路の詮索だけでなく非民主的な「人質司法の闇」も取り上げろ。これ以上、戦争や独裁、格差の犠牲になるのはゴメンだ。アフガニスタンの砂漠を沃野に変えたのも、戦争ではなく灌漑用水路だった。その中村哲医師の偉業に泥を塗るな真似をするな、させるな。自衛隊の中東からの撤退を呼びかける署名に是非ご協力を!戦争反対!

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日本人はフランス・韓国人の爪の垢でも煎じて飲め!

2017年05月11日 18時48分28秒 | その他の国際問題

フランスと韓国の大統領選の話題については、ブログに記事を書く時間が無かったので、ツイッターの私のつぶやきをそのまま、この下に貼り付けておきます。私がここで言いたかった事も表題の一文に尽きます。

「私を支持しなかった方々にも仕える大統領になる」と文在寅(ムンジェイン)韓国新大統領。仮にも公僕を標榜する以上はこうでなくちゃ。あくまで主権者は国民なんだから。常に「私が総理大臣なんだから」と俺様節全開で、はぐらかし答弁ばかりの安倍晋三とは偉い違いだ。この一言でもう「勝負あった」

プレカリアート (@afghan_iraq_nk1) 2017年5月9日

仏大統領選でも日本との差が歴然。マスコミは極右ルペンの伸長ばかり言うが実際は左派のメランション含め4陣営拮抗。決戦投票でも極右のポピュリズムを拒否。革命やレジスタンスの経験故か、単に保守回帰とはならず。民主がダメでやはり自民と、先祖返りで元の木阿弥に泣く日本とは大違い。
 
プレカリアート (@afghan_iraq_nk1) 2017年5月10日

今日貰った赤旗見本紙の韓国新大統領就任記事からも日本との違いが歴然。パク前政権の政治私物化を韓国民は拒否。日本では森友疑惑の安倍が未だに一強独裁。韓国民が新大統領に期待する政策1位が貧困解消、2位も青年の雇用推進。格差拡大拒否した韓国、格差容認で慰安婦叩きに走るしか能のない日本

プレカリアート (@afghan_iraq_nk1) 2017年5月10日

コメント (3)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

とりあえず米大統領選挙について呟いてみた

2016年11月11日 22時36分43秒 | その他の国際問題


米大統領選の選挙人獲得状況。左が2008年、右が2016年。08年には青色(民主党オバマ支持)だった五大湖沿岸の工業地帯が悉(ことごと)く赤色(共和党トランプ支持)に塗り替わった事が分かる。もし民主党大統領候補がクリントンではなくサンダースだったら、この様な事にはならなかったのではないか?


(注)左からクリントン、トランプ、予備選挙で民主党候補の座を最後までクリントンと争ったサンダース。サンダースは、資本主義の牙城アメリカで社会主義者である事を敢えて名乗り、格差是正や給付型奨学金制度の拡充を訴えて若者の心をとらえた。

トランプが弱者の味方だと?NY一の不動産王、新興成金そのもので、経済政策もアベノミクスの引き直し。タックスヘイブンへの税逃れも華麗な節税と居直る。これの一体どこが弱者の味方か?トランプは立派な資本家階級の一員。彼に投票した白人貧困層は騙されて肉屋に投票してしまった豚みたいな物だ。

米大統領選と日本の都知事選。国こそ違えど選挙戦の構図は瓜二つ。米国は、サンダースでは勝てないとクリントンに一本化したのに貧困層の票はトランプに流出。日本も、宇都宮では勝てないと鳥越に一本化したのに小池に流出。格差批判票が左派ではなく極右に流れ、更に弱肉強食が強まる。何という皮肉か

残念ながら左派の中にもトランプ待望論があるのは事実。「トランプも反TPPで米軍撤退を望んでいる」と。でも、彼の根底にあるのはあくまで米国中心主義。だから実際の言動は「移民排斥、女性差別、核武装肯定」と、排外主義のオンパレード。こんな「米国の橋下徹」みたいな奴に何を期待するのか?

靖国参拝反対も米国頼み。憲法擁護も天皇発言頼み。こんな他力本願ではいけない。トランプなんかに期待している暇があるなら、左派リベラルとして「今、一体何が出来るのか?」を、もっと真剣に模索すべきでは?南米やギリシャ、スペインでの左派躍進も、そうやって初めて実現できたのではないか?

 以上。ツイッターでの私のつぶやきを、そのままブログに載せたのでは印刷レイアウトが崩れてしまうので、画像の地図とツイートの文章をそれぞれ個別にコピーペーストした。
 ついでに、これもコピーペースト。ハフィントンポストからの引用で、「華氏911」で痛烈にブッシュを批判した米国の映画監督マイケル・ムーアが言った「選挙に負けた今やるべき5つの事」。ムーアの「民主党、共和党、オバマ、トランプ、選挙人団」等々の文言を、日本の「民進党、自民党、鳩山、安倍、小選挙区制」等々に置き換えても、そのまま通用する内容だ。彼は米大統領選向けに「マイケル・ムーアのトランプランド」という反トランプの映画まで作ったそうだ。早く日本でも劇場公開してほしい。

(注)選挙人団:米国の大統領選挙は間接選挙制で、有権者は選挙人しか選べない。その選挙人が大統領候補に投票する仕組みになっている。投票場まで何日もかかって歩かなければたどり着けなかった18世紀の名残をまだ引きずっているのだ。おまけに、ほとんどの州で、一人でも多くの選挙人を獲得した候補が、州全体の選挙人を獲得できる「勝者総取り方式」を採用してしまっている為に、実際には得票では負けていながら、選挙人の数では勝っている為に当選してしまう逆転現象が、今までも繰り返されてきた。マスコミが何かともてはやす米国だが、民主主義と言う点では決して先進国ではないという事は、読者も肝に銘じておくべきだろう。

 実際に米国市民は、選挙後も意気消沈する事無く、このマイケル・ムーアの言葉通りに、反トランプの抗議デモに続々と立ち上がっている。「アメリカ様のご命令だからTPP批准を」と迫る安倍に対して、「トランプ様も反対だからTPP批准撤回を」としか言えない山本太郎(自由党)や志位和夫(共産党)の他力本願と、何という違いか!勿論、「バスに乗り遅れるな」とばかりに安倍自民になびく奴隷・社畜どもや、棄権という形で安倍のペテンを黙って見過ごす怠け者どもは、もはや論外だが。

「一夜明けた朝のToDoリスト」

1. 民主党を乗っ取ろう。そして人々の手に戻すんだ。民主党の奴らは、我々の期待に情けないほど応えられていない。

2. 評論家や予想屋、世論調査員、その他メディアの中で、自分の考えを変えず、実際に起こっていることに目を向けようとしない奴らを首にしよう。偉そうに話をしていた奴らが今、「分裂した国を癒そう」とか「一つになろう」と俺たちに言うんだ。そんなクソ発言を、奴らはこれからもずっと言い続けるだろう。黙らせよう。

3. この8年間、オバマ大統領と闘い、抵抗し、闘ってきた共和党議員のように、これから闘う気概を持って今朝目覚めなかった民主党の国会議員は出ていけ。そのかわりに、これから始まる野蛮や狂気を止められる術を知っている奴らを、俺たちのリーダーにするんだ。

4. 「驚愕の結果だ」とか「ショックだ」と嘆くのをやめよう。そんな風に言ったって、自分の世界に閉じこもって、他のアメリカ人や彼らの絶望に目を向けていないだけだ。民主党・共和党の両方に無視された人たちの、既存のシステムに対する復讐心や怒りが大きくなっている。そこに現れたのが、両方の党をぶちこわして「お前はクビだ」というテレビスターだ。トランプが勝ったのは驚きじゃない。奴はただのジョークじゃなかったんだ。そして、支持を得て強くなっている。メディアに住む生き物で、メディアが作り上げた生き物だ。メディアは決してそれを認めないだろうが。

5. 今日会う人全員に、こう言わなきゃいけない。「得票数は、ヒラリー・クリントンの方が多かったんだ!」過半数のアメリカ人は、ドナルド・トランプじゃなくてヒラリー・クリントンを選んだ。以上。それが事実だ。今朝目覚めて「自分は最低の国に住んでいる」と思ったのであれば、それは間違いだ。過半数のアメリカ人は、ヒラリーの方が良かったんだ。トランプじゃない。彼が大統領になった、ただ一つの理由は、18世紀に作られた、難解でおかしな「選挙人団」と呼ばれるシステムだ。これを変えない限り、自分が選んでない、望んでもいない奴が大統領になる。この国に住んでいる人の多数が、気候変動を信じ、女性は男性と同じ賃金を払われるべきだと考え、借金をせずに大学に行くこと、他の国に武力侵攻しないこと、最低賃金を上げること、国民皆保険に賛成している。それは何一つ変わっていない。我々は、多数が“リベラル”な考えを支持する国に住んでいる。ただ、それを実現させるリベラルなリーダーがいないのだ(#1に戻って欲しい)。

http://www.huffingtonpost.jp/2016/11/09/michael-moores-5-point-morning-after-to-do-list_n_12891776.html
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

資本主義の貧困大国アメリカに広がる社会主義の波

2016年02月21日 21時46分26秒 | その他の国際問題


 前回記事の最後でつぶやいた上記ツイートの内容について改めて説明します。

 まず「今まで米国大統領選なんて茶番劇とバカにしていた」理由について。
 知っている人もおられるでしょうが、米国大統領選挙の仕組みは大変複雑です。単純に国民の直接投票によって大統領が選ばれる訳ではありません。

出典:オール・アバウト

 米国は二大政党制の国です。4年に一度、同時に行われる大統領選挙と上下両院選挙に出馬できるのは、事実上、民主党か共和党の人物に限られます。その他にも政党は一杯あるにはありますが、どの党も泡沫政党ばかりです。
 その二大政党の中で、各州の党員集会や予備選挙で最も多くの代議員を獲得した候補者が、その党の全国大会で大統領候補に選ばれます。そこまでが前半戦です。そして後半戦では、いよいよ二大政党の候補者二人による選挙が行われますが、そこでも有権者が選べるのは、あくまでも「大統領選挙人」という代議員だけです。誰を大統領に投票するかあらかじめ分かっている「大統領選挙人」が各州で選出され、その「大統領選挙人」同士の投票で、ようやく次期大統領が誕生します。

出典:同上

 なぜ、米国の大統領選挙がこんな複雑な仕組みになっているのか。それは、米国は国土が広く、連邦国家で各州の独立性も強いので、直接選挙ではなく州ごとに間接選挙を行うようになったのだと、よく言われています。しかし、馬車しか移動手段のなかった米国建国当初ならいざ知らず、航空機もあるこの21世紀に、なぜいまだにこんな昔の制度に固執しているのか。本当は、財界や軍需産業をバックに持つ政治家が、今まで通り政治を独占したいからです。
 この米国大統領選挙の問題点については、(1)二大政党以外からの立候補には様々な制限が加えられ、事実上、二大政党による政治のたらい回しになっている。(2)「大統領選挙人」の選出についても、最多得票の陣営がその州の全ての選挙人を獲得してしまう「勝者総取り方式」を採用している為に、場合によっては、総得票では上回っているにも関わらず、選挙人の数で負けて敗北してしまうという点で、極めて不公平な制度である。(3)その為に、「勝てば官軍」とばかりに金権選挙やネガティブキャンペーンが横行。(4)米国では住民基本台帳に相当するものがないので、有権者は選挙のたびに選挙登録をしなければならない・・・など、さまざまな弊害が指摘されてきました。
 そんな理由から、近年では米国大統領選挙の投票率も4割から5割に低迷し、選挙どころではない貧困層はほとんど投票にも行かなくなってしまっています。それが「茶番劇とバカにした」理由です。

出典:ウィキペディア

 そんな米国大統領選挙が今年も始まりました。今はまだいくつかの州で予備選挙が始まったばかりで、今度どうなるかまだ分かりませんが、今までと少し様相が違うようです。
 共和党陣営では、「メキシコ国境に万里の長城を築いて不法移民を入国させないようにする」「イスラム教徒は入国させない」などの発言で、保守強硬派から熱狂的に支持された不動産王のドナルド・トランプ(上の左端写真)が、保守乱立のあおりを受け、まさかの首位脱落。
 その一方、民主党陣営では、今まで最有力と目されてきたオバマ路線継承の元国務長官ヒラリー・クリントン(同、真ん中の写真)が、社会主義者を自称する高齢のバーニー・サンダース(同、右端写真)の猛追で、予想外の苦戦。民主党陣営内では、この二人がデッドヒートを繰り広げています。

 その中で私が注目するのは、何と言ってもバーニー・サンダースです。資本主義の総本山とも言える米国で、社会主義者を自称する大統領候補が、二大政党の一角から出て来て、首班指名を争う事なぞ、今までなら考えられませんでした。前述したように、米国にも共産党や社会党はありますが、いずれも泡沫政党で、市町村議会の選挙ですら当選する事ができない状態にあります。
 米国とはそんな国なので、先進国なら大抵の国にある公的な健康保険制度ですら、「社会主義」「アカ」の象徴のように思われ、導入に反対する人が大勢います。その為に、民間保険に加入できない貧困層は、盲腸の手術一つ受けるにも百万円以上も払わなければならず、その費用が払えない為に命を落とす人が後を絶たないのです。
 マイケル・ムーア監督の映画「SiCKO(シッコ)」には、そんな話が一杯出てきます。仕事中に指を2本切断した大工が、薬指だけなら1万2千ドルで縫合手術が受けられるが、中指も含めると7万2千ドルかかると言われ、中指の縫合を諦めざるを得なかった話とか。


映画「SiCKO(シッコ)」の宣伝パンフレットより

 ところで、日本の現状はどうでしょうか。一応、公的な健康保険制度はありますが、以前は1割負担だった保険料が今では3割に引き上げられました。国民健康保険に至っては、年収200万円以下のワーキングプアや無職の人間でも、月に4~5万円もの保険料を払わなければならない仕組みになっています。でも、現実にはそんな高額な保険料なぞ払える訳がありません。この日本にも、そうやって病気になっても医者に通えない人が大勢います。現に、私の会社のバイトの中にも、ひざが痛いのに医者にも通えず、我慢して仕事を続けている人がいます。
 前回記事で取り上げたサンダースの演説の中にも、せっかく大学を卒業できたのに、低賃金で不安定な仕事にしか就けずに、奨学金の返済に苦しむ若者の話が出てきます。これなぞも、今の日本の現状と何も変わらないじゃないですか。とても他国の事とは思えませんでした。

 幸い日本では、米国とは違い、かつては社会党が野党第一党として大きな力を持っていました。そして、社会党が衰退した今も、共産党が一定の力を持っていて、戦争反対や格差是正の要求を掲げて、安保法制や弱肉強食の経済政策を進める自民党や財界と対峙しています。
 でも、今の共産党の演説を聞いていると、教育費の問題一つとっても、せいぜい「学費値下げ」どまりの要求に留まり、サンダースのような「公立大学の無料化」までは主張していないのではないでしょうか。

―多くの人々が立ち上がって”バーニーさん!大学行ったんだ、大学卒業したんだ、で、今、6万ドル、8万ドル、9万ドルの借金を抱えている”とおっしゃるのを聞きました。
 狂ってる。これは狂ってる。彼らはまともな教育を受けようとしただけです。罰せられるべきではない。これこそが 2016年に、公立大学は学費無料になるべきだと信じる理由です。この主張に対しては私の批判者たちはこういうでしょう「バーニーさんよ、そりゃいい考えだ。タダだってね。でもどうやって財源を確保するの?」と。財源の確保をどうするか言いましょう。ウオールストリートの投機筋に課税すりゃいいんですよ。貪欲で無軌道で不法なウオールストリートの振る舞いは、この国の経済を無茶苦茶にしました。国民はそのウォールストリートを助けたんです。今度は、ウォールストリートが中流層を助ける番です。(以上、アイオワ州予備選でのバーニー・サンダースの演説より)

 このサンダースが言うように、若者が知識を身に付け、立派な社会人として貢献できるようにする為には、少なくとも国公立大学については、どんな貧困層の学生でも通えるように、学費は無料にすべきだと思います。それは「バラマキ福祉」なんかではなく、むしろ将来への教育投資として積極的に推奨されるべきものです。そして、大学だけでなく公立高校の学費や給食費も無料にすべきだと思います。その為の財源は、小泉構造改革やアベノミクスによって今まで散々美味しい思いをして来た奴らが負担すれば良いのです。内部留保をため込んだ大企業とか、ワイロをもらった大臣とか、己は株買い占めに奔走しながら国民には偉そうに「戦場に行け」とほざくネトウヨ議員や、不倫で育児休暇を申請するような議員、黒人差別するしか能のないタレント議員などからドンドン取り立てたら良いのです。
 そこまでハッキリ言ってやってこそ、初めて、日本の国民もようやく権利意識にめざめるようになるのではないでしょうか。ところが、「学費値下げ」どまりの要求や公約に留まっていると、安倍首相も表向きは「子育て支援」とか、一見似たような事も言っている中では、逆にアベノミクスに取り込まれてしまうおそれがあります。同じ「子育て支援」なら、「野党の共産党より与党の自民党の方が頼りになる」と考える有権者がいてもおかしくはありません。

 もちろん、安倍が本心ではそんな事なぞツユほども考えていない事は明らかです。「大日本帝国の復活」しか安倍の頭の中にはありません。マイナス金利なぞという禁じ手に安易に頼ってしまうのも、アベノミクスが本当に景気浮揚や国民生活の事を考えて採用した経済政策ではなく、単に自民党が選挙に勝って憲法改正しやすくする為に、国家予算をつぎ込んで無理やり一時的にバブルを演出しているだけだからでしょう。
 でも、そこまで見抜く事のできる有権者はそう多くありません。そんな中で「学費値下げ」や「格差是正」だけの要求に留まっていると、共産党の意図とは逆に、アベノミクスの土俵に取り込まれてしまうだけではないでしょうか。だから、警鐘を鳴らす意味も込めて、「共産党よりもサンダースの方がよっぽど革新的ではないか。そんな事ではいつまで経っても安倍や橋下には勝てないぞ」と書いたのです。

 もちろん、サンダースとて完璧な人物ではありません。それどころか、彼が「社会主義者」と自称している点についても、私はどこまで本当か危ういものだと思っています。格差是正の世直しを主張するだけで社会主義者になれるのでしたら、安倍や公明党やナチスですら社会主義者になってしまいます。自民党の別動隊呼ばわりされた、かつての民社党も、表向きは「民主社会主義」を唱えていましたし、ナチスも「国家社会主義」を唱えていました。かつてナチスが引き起こしたホロコースト(ユダヤ人大虐殺)や第二次世界大戦、かつて日本の政府・軍部による韓国併合や2.26事件や太平洋戦争も、建前上は「失業者や貧しい労働者に職とパンを与える為に、それに見合う資源と領土をよこせ、金持ちの不労所得を没収せよ」と言って始めたものです。

―私は、以前、上院復員軍人委員会の委員長を務めました。そしてその職掌として、復員軍人の権益を守るために粉骨砕身しただけではなく、我々と我々の生活を守るために貢献した沢山の人々とお会いすることができました。そうした軍人たちが守ってくれたアメリカの民主主義は、一人一票であって金持ちが選挙を買収することではないはずです!(同上のサンダースの演説より)

 一見何の変哲もない、サンダースのこの演説の中にも、その危うさが見て取れます。サンダースの言う「軍人たちが守ってくれたアメリカの民主主義」によって、北米大陸の先住民や中南米の人々、広島・長崎の被爆者、フィリピンやベトナム、アフガニスタン、イラクの人々、米国の核実験場にされた南太平洋の島々の人々がどんな目に遭わされたのか。それを少しでも知っていたら、本当の社会主義者ならこんな言葉は吐けないはずです。

戦争中毒―アメリカが軍国主義を脱け出せない本当の理由
クリエーター情報なし
合同出版


 しかし、たとえ、そのような限界があったとしても、なお、サンダースの演説には、日本の共産党の演説にはない、ある種の力強さや人を引きつける何かが宿っているように思えます。その何かが、ひょっとしたらヒトラー張りのデマゴギーである可能性もないとは言えませんが。その魅力があるからこそ、今まで誰も格差是正の主張には見向きもしなかった資本主義大国の米国においても、史上初めて「社会主義者」の大統領が誕生する可能性が出てきたと言えるのではないでしょうか。
 これは日本にとっても他人事ではありません。かつて「天安門事件」や「ベルリンの壁」崩壊が起こった時に、「資本主義が社会主義に勝った」という宣伝が散々流されました。しかし、その資本主義が今やどうなっているかと言うと、その後何十年も不景気が続き、失業や格差が広がる一方です。そして今や、ピケティという経済学者の書いた「21世紀の資本論」が世界的ベストセラーとなり、中南米やギリシャ、スペイン、ドイツで新たな左翼勢力が躍進を続け、コービンという左翼の闘士がイギリス労働党の新党首に就任するまでになりました。その中で、ひとり日本人だけが、いまだに安倍や橋下の暴走を許し、橋下らの垂れ流す「貧乏なのは個人の自己責任」の洗脳術にまんまと乗せられてしまっています。本当に変わらなければならないのは、サンダースでも共産党でもなく、むしろ私たちの方ではないでしょうか。

図解 ピケティの「21世紀の資本」 (イースト新書Q)
クリエーター情報なし
イースト・プレス
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする