1994「米沢市芳泉町・歴史的町並みに学ぶ空間デザイン手法」日本建築学会東海大会 /1994.9
1 はじめに
旧武家作宅街である米沢市芳泉町は、上杉藩により17世紀初頭から開拓が着手されたところである。当時、上杉藩は極度の困窮状態にあり、城下の困窮をしのぐため芳泉町を始め、周辺の南原五ケ町などの開墾が行われた。
芳泉町は、あわせ、町東側を流れる松川(最上川)の氾濫を防ぎ城下を水害から守ること、会津へ抜ける街道からの敵襲を第1陣として防ぐことを任務とした。
その結果、160余の武家住宅が、南北方向の街道に沿った短冊状の屋敷地に整然と並び、防水の用を果たす石垣、食用となるうこぎ垣、食用・薬用・燃料などに用いられる樹木を街道側に連ねた環境順応型の町並みが形成された。
町並みの全長は1.2km強、高低差は14mほどあるが、しかし、距離や高低差を感じさせないほど歩きやすく、変化に富んでいて心地よい雰囲気を感じさせる。
緑の豊かなことも一因であろうが、空間の組み立てが大きな理由と考えられる。本稿はこのことに着目、快適な町並みが形成される根拠について、空間デザインの観点から検討する。
2 視界の分節
町並みの南端P55と北端P00のあいだを便宜上20mごとに、街道上に計測点P00~P55を定め、各点からの見通し距離を測定した(図2)。
南端(松川上流側・仮想瞰側)から順に説明すると、南端までは町並みの様子は見えない→南端からP50までは緩やかなカーブのため視界は60~90mにとどまる→P50を過ぎると、升型P30までおよそ390mを見通すことができる→升型では東と西に道が分かれ、東側は曲折があって視界は30~80mだが、西側は直線の道で視界は170mとなる→升型からP15あたりまでは視界が200mから90mに減少する→P14を過ぎて視界が開け、再びP08に向かって視界が170mから90mに減少する→P07で視界が開き、再度PO2に向かって視界が閉じていく。
逆のアプローチでも視界の分節は基本的に同じであり、視界の分節によって、町並み景観にシークエンス性が附加され、上手(上町)と下手(下町)に景観的差異による個性が生じ、升型では東・西の道を選ぶことで異なった景観を楽しむことができる空間構成となっている。
3 道空間の演出
町並みの両端の高低差は14mあるが歩いても苦は感じない。視界の分節や樹木・草木の効果のほかに道の構造が仮定されるので、レベル(図3)と幅員(図4)を測定した。
最も低い北端P01からP07たりまでの傾斜度は0.005とほぼ平坦である。P07過ぎるとP12までは傾斜が0.018となり、続いて升型までは0.013とやや緩くなる。升型のあいだは再び0.017ときつ<、P31から南端までは0.015を中心に、始めはやや緩く、P35あたりで少しきつく、また緩く、P42付近で少しきつく、再び緩く、そしてP48で少しきつくなる。下町では緩・急・緩、升型は急、上町では緩・急・緩と急の組み合わせがうかがえる。
幅員は、P01で5.7m、P03あたりで4.3m、P05で5.5m、P10で4.2m、そしてP12で4.9mと広・狭が繰り返され、その後は升型まで4.6m前後で一定して、升型直前で6.0mほどに広がる。升型の西側は2.2m~3.9m、東側は4.9m~5.2mのあいだで変化し、升型直後は4.8mからP33の5.2mまでいったん広がって、その後はP44の4.2mまで狭くなり、もう一度P50あたりで6.1mに広がって、南端で4.4mになる。
下町では1.4m幅員差で3分節、上町では1.9mの幅員差で2分節がうかがえる。また、升型の直前と直後で幅員が広くなり、升型と上・下町の道空間の差異が強調されている。
4 樹木配列の景観
各屋敷は、街道側に石垣を平均高さ0.5mほど、うこぎ垣を1.7mぐらいの高さに設け、芳泉町の歴史景観を特徴づけている。武家の遺構を残す住まいも少なくなく、町割りも原型がよく保存され、町並みには整った歴史的構成が保持されている。
しかも、街道沿いの樹木は、食用・薬用等を基準に選定されたため93種と多様で、年間を通して花や実が楽しめ、その配列も視覚的に変化に富んでいて、町並み景観の表情を豊かにしている。
すなわち、樹木の位置と高さの簡略を見ると(図5)、下町では升型まで3~13m、5~10本のまとまりが交互に繰り返す配列をとり、升型では6~20mの樹木がうっそうとし、上町は4~20mの樹木が連続的に並ぶ構成となっている。また、東側は西側に比べ本数・高さとも卓越し、景観的な差異を強調する。
平均5~6mに1本の配置であるが、視界が分節される下町では応じて幾つかの群に、升型では林のように、視界の開けている上町では連統し、それぞれの景観を個性的にしている。
5 おわりに
芳泉町は武士集団によって開拓、防御、水防にかなう町として計画整備されたが、視界の分節や緩急を組み合わせた傾斜面の空間構成は、1.2kmの距離や14mの高低差を感じさせない作りとなっている。
また、広狭を繰り返す幅員や変化に富んだ樹木の配列は、列状計画村の単調になりがちな空間構成に場所性と個性を作り出している。
視界の分節や傾斜の緩急、幅員の広狭、樹木配列の定量的な検討や相互の連関による効果については結論を得ていないが、景観からの町並み整備が課題となっている今日、芳泉町の空間デザインに学ぶ点は多い。
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