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金融マンの適性の具体例

3月6日配信のJMM(村上龍さんが編集長の経済メルマガ)に書いた金融業界に就職する人へのアドバイスの一部に以下のような文章を書いた。

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尚、詳しい説明は別の機会に譲りますが、いわゆる金融工学的な理論の後のファイナンスの理論として今や広く普及した「行動ファイナンス」の理論は、顧客が非合理的な選択をするケースを一般化した法則として、つまり、金融業者側が儲けを作るヒントとして、金融業界では広く応用されています(顧客の側から見ると単なる「応用」より「悪用」と言いたいところですが)。強い金銭欲を持った人は、こうした原理を直感的に理解する傾向がありますし、これを「利用」するにあたって躊躇がありません。
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具体例を一つ挙げよう。

現在、日本の投信マーケットで売れ筋No.1は、外債に投資する毎月分配型ファンド(代表は通称「グロソブ」、国際投信のグローバル・ソブリン・オープン)だが、業界大手の野村アセットマネジメントは、この種のファンドに大幅に乗り遅れた(かなり後から、内容の違う妙な多分配型のファンドを出したが)。

漏れ聞いた話によれば、グロソブが大売れし始めた頃、野村アセットの経営者は、「これは運用商品として合理的な商品ではないから追随しない」と判断したという。(かなり前に関係者から漏れ聞いただけで、ご本人には確認していないので、読者は、以下の拙文をそのつもりで読んで欲しい)

投資家にとって、合理的ではないというのは経済合理性の上で正しい判断だ(プラスの利回りがあるなら、毎月分配するよりも複利で運用して1年後に分配する方が明らかにいい。もっとも、それ以前に手数料が高すぎて話にならないのだが)。証券会社から天下った運用会社の経営者の社長としては、優れた判断力を持っているといえるし、運用会社の経営者として一つの見識だとも評価できる。人間として、この人は正しい。

しかし、想像するに、毎月分配型ファンドは、非合理的でも、顧客のツボに入っているから売れる!というところに、この経営者は嗅覚が働かなかったのだろう。べつに、行動ファイナンスを勉強しなくても、これが「バカの壁」の向こう側にいる人達に売りやすい商品だ、ということについては、壁の向こうの臭いをかぎ分ける嗅覚(カネの臭いに関連する嗅覚だ)か、自分自身が壁の向こうにいると、よく分かったのではないかと思うのだが、当時の野村アセットの経営者はある意味では賢くて原理原則を尊重する方だったのだろう。また、他社が儲かっているからといって、露骨な後追いをするにはプライドが高かったのだろうし、多分、それほど金銭に貪欲ではなかったのだろう。

しかし、野村アセットマネジメントが、「稼ぎ!」を最大の価値観としていたはずの野村グループの会社であることを、考えたら、果たして、これで良かったのか。これは、この経営者が、金融ビジネスには向いていないなかった例だと理解できるのではないだろうか。

しかし、この経営者は、その後、野村グループの持ち株会社の幹部に出世された。たぶん、ある種の組織をわたる能力と対人力(自分を大物風に見せる「大人力」も)、それに地位を獲得することに対するモチベーションが大変高い方だったのだろう。(何れも、筆者の想像に過ぎないが、素晴らしい能力であり、羨ましいといってもいい資質である)

興味深い別の問題は、この経営者が出世するような土壌を育み、彼だけでなく、その他の幹部の方々も、金融ビジネスに向いていない人ばかりなのではないか(勉学欲や出世欲はあっても金銭欲は平凡な人々・・)、と思われるところに(現象としては、東大出の役員が増えた)、近年の野村グループの意外な停滞ぶりの原因があるのではないかということだ。株式市場が好調なのに、同社の株価は、過去の最高値の半分にも及ばない。

敢えていえば、これは「野村の興銀化」という病だろう(決して、褒めているのではない。興銀は実質的には潰れた会社だ)。
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