雫石鉄也の
とつぜんブログ
男はつらいよ 望郷編

監督 山田洋次
出演 渥美清、長山藍子、井川比佐志、杉山とく子、倍賞千恵子、森川信
このシリーズは、本作で終わる予定だったとのこと。だから、さくらの長山藍子、博の井川比佐志、おばちゃんの杉山とく子、とテレビ版の主要メンバーがマドンナ、気のいい若者、旅先のおばちゃん、と、このシリーズで欠かせない役どころを演じている。
「額に汗して油まみれになって働く」本作の寅次郎は、本気でテキ屋をやめる気でいた。昔、世話になった親分さんのさみしいかなしい末路を知った寅は、自分の来し方行く末に思いをはせ、心を入れ替えたのである。
本作は当初はシリーズ最終回の予定だったためか、なぜか「終」を意味する「死」の影が垣間見える映画であった。上映開始直後、おいちゃんの死から映画は始る。例によって寅次郎の夢だったが、夢から覚めた寅次郎は、おいちゃんが本当に死んだものとはやがってん、葬式の手配を独断でやってドタバタ騒ぎ。それに、北海道の親分さんは本当に死んだ。
映画の後半は寅次郎自身が、彼岸の国へと旅立ったような印象を受ける。江戸川に浮かぶ小船でうたた寝していて、そのまま流され、千葉の浦安まで流れ着く。これは、三途の川を渡っているということではないか。寅次郎が流れ着いたのは浦安ではなく、彼岸、黄泉の国ではないだろうか。そこには、ありえたかもしれない、別の次元のさくら、博、おばちゃんがいた。その時点で、フーテンの寅は死んで、豆腐屋の寅となったのだ。と、同時に柴又のさくら、博、おばちゃんは、最初から存在しない存在となったのだ。そして、「額に汗して油まみれになって働く」豆腐屋の寅があげを揚げているところで、「男はつらいよ」シリーズは終わる。という幻想をいだいてしまった。
ところが、黄泉の国の寅次郎に、存在しないはずの柴又のさくらが逢いに来る。かくして、寅次郎は黄泉の国たる浦安の豆腐屋から、現世(うつしよ)へと戻って、豆腐屋の寅から、フーテンの寅へとなって、また、漂泊の旅へと旅立ったのである。
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