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スリーピング・ドール


ジェフリー・ディーヴァー 池田真紀子訳      文藝春秋

 結論からいおう。期待はずれであった。
ウォッチ・メーカー」(大変に面白い。お勧め)に初登場した、女性捜査官キャサリン・ダンス。30代。二人の子持ち。夫と死別。本作の登場人物ペルの言によればべっぴん。凄腕のプロで、ものすごくカッコええなあと思っていた。
 彼女は尋問のエキスパートで人間ウソ発見器といわれている。容疑者は、彼女の尋問を受けると、どんなウソでも見破られて白状させられる。ダンスはこんな非科学的な尋問はしない。キネシクスという手法を使う。被尋問者を仔細に観察し、言葉遣い、態度、ちょっとした振る舞いなどを科学的に分析して、ウソをついているのか、真実をいっているのか見抜く手法である。
 このキャサリン・ダンスが主人公を勤めたのが本作「スリーピング・ドール」である。
 凶悪なカルト集団のボス、ダニエル・ペルが脱獄した。ペルは口先一つで人を思い通りに操る。人を支配しカルトのファミリーにしてしまう。しかも、こやつ、平気で人を殺める極めて危険な凶悪犯。
 このペル追跡の捜査責任者にキャサリン・ダンスがなった。ここが間違い。ダンスのような一芸に秀でたキャラクターはチームのトップに据えてはダメ。ダンスはジェネラリストではなくスペシャリストだ。だから、余計なことにとらわれず、専門の尋問だけをやらせてこそ、ダンスのキャラが生きる。ところが本作では、ペル追跡チームのトップだから、中間管理職として動く。だから、彼女のウリである、尋問のシーンは少ない。主人公がダンスで、捜査責任者は別の人物の設定であれば、尋問の天才キャサリン・ダンスのプロとしての魅力がもっと出ていたのではないか。これでは、ちょっと有能な、ただのおんなデカである。
 犯人のダニエル・ペルだが、こいつの造形も中途半端だった。カルトのリーダーらしいが、宗教ッ気はない。孤独な女や、少々頭の弱い男を、仲間に引きずり込みファミリーを形成しているが、こいつらの目的がよくわからない。
 ペルが持っている「山の頂」の地になにやら自分たちだけの「理想の村」を作ろうとしているらしいが。で、ペルのキャラだが、ただの殺人鬼だ。魅力的な悪役は「狂気」と「哀しさ」を併せ持ったキャラでないといけないが、ペルはどっちも持っていなかった。もう少し狂気をはらんだ悪魔的なキャラにして欲しかった。
 ディーヴァーの最大の魅力である「どんでん返し」だが、この作品もちょっとだけ、どんでんしたが、ラスト近くにちょっとしただけで、「ウオッチメーカー」のような、天地がひっくり返るような大どんでん返しではない。
 とはいいつつも、稀代のストーリーテラーのディーヴァーのこと、分厚い本だが、飽きずに最後まで読めた。これは、一人一人のキャラがきちんと書き込まれていたからだろう。このあたりはさすがである。
コメント ( 4 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
TBありがとうございました (よっちゃん)
2008-12-05 10:40:21
おっしゃるとおりの感想を持ちました。物証観察ではなく人間観察ですからどうしても話が冗長になって結局メロドラマで終わった………。読者はラストに期待を膨らますのですが、それがなかったというそういうどんでん返しではいけません。
 
 
 
よっちゃんさん (雫石鉄也)
2008-12-05 21:20:53
ちょっと長すぎましたね。ダンスの家族のくだりはいらいのではないでしょうか。
私は、尋問者ダンスに興味があるわけで、母ダンスや娘ダンスには興味ないわけです。
 
 
 
読み終わりました。 (せぷ)
2009-02-16 22:42:35
自分もよーやく読み終わりました。
なかなか図書館で借りれなくて。

自分は『ウォッチメイカー』ほどではないにせよ、それなりに満足しましたよ。

雫石さんはダンスが陣頭指揮を取ったことに不満を覚えられたようですが、自分は陣頭指揮が不得手なダンスにあえてそれをさせることによって彼女に手かせ、足かせをはめるのが作者の目論見だったのだと思います。

また雫石さんはダンスの私生活はいらなかった、という考えのようですが、自分はそうは思いません。
彼女の私生活を丹念に書いたのは今後の《キャサリン・ダンス》シリーズのために布石だと思います。
たぶんですが、ダンスは同僚のオニールとくっつくんじゃないでしょうか。

ドンデン返しがいまいちだったというのは同意です。
 
 
 
せぷさん (雫石鉄也)
2009-02-17 09:59:14
期待はずれ、と書きましたが、私も、いちおう
及第点はつけております。
ダンスが捜査責任者になっても別にいいのですが、
ただ、そうするとウリの尋問シーンが少なくなる。私はそれが不満なのです。
ダンスの私生活の件ですが、シリーズ物になって、ダンス・シリーズの愛読者になるのならば、いいでしょう。しかし、この「スリーピングドール」1冊しか読まない読者にとっては、余計な描写になるのではないでしょうか。
 
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