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ソロモンの偽証



 宮部みゆき   新潮社

 稀有な読書体験をさせてもらった。全3巻4700枚。長大な作品である。しかし長大な小説を読んだという読後感はない。あれよあれよという間に読んでしまったというのが実感だ。確かに枚数が多い小説ではあるが、作品内で流れる時間は1年に満たない。昨年のクリスマス・イブで始まり、今年の夏休みで終わる。主たる舞台も公立の城東第三中学校の校内。では、何にこんなに枚数を費やしたのか。登場人物の造形に費やしたのだ。人物造形の名手宮部みゆきが、一切手抜きなし、リミッターをとっぱずして、じっくりと腰をすえて、多数の登場人物一人一人を造形していく。これだけの枚数が必要なのは理解できる。
 都内に雪が降ったクリスマス・イブの夜、一人の男子中学生が死んだ。校舎の屋上から転落したのだ。警察は自殺と断定。柏木卓也は自殺した。柏木くんは目立たない子だったけれど、不幸なことだった。それで落ち着いた。
 自殺ではない。殺人だ。ボクは殺害現場を目撃した。犯人は大出俊次をボスとする悪ガキ3人組。との告発状が校長、柏木の担任、同じクラスで警視庁刑事を父に持つ藤野涼子のもとに届いた。
 思わぬ事態が重なって、告発状はテレビ局に転送され、事件は報道される。疑心暗鬼が渦巻き、学校は疑惑疑問に包まれる。藤野涼子は、大人には任せて置けない、自分たちの手で真相を究明しようと、学校内裁判の開催を提案する。協力する先生、反対する先生、無関心な生徒、協力的な生徒、さまざまな困難を乗り越えて、夏休みの自由研究という形で学校内裁判が開廷した。
 判事、検事、弁護人、陪審員、廷吏、被告人、中学生だけの裁判。彼らは証拠を集め、関係者に聞き取り調査をし、証言証書を作成し、証人を呼び、見事に裁判を行う。
 冒頭で書いたとおり、人物の造形が見事。検事藤野涼子。容姿端麗な美少女。しっかりした優等生。父母妹の恵まれた家庭。父は警視庁刑事で適確なアドバイスももらえる。最初はいい子のヒロインだったが、ヒステリックな所もあり、けっこうイヤな女であることが判る。
 弁護人神原和彦。第三中学校の生徒ではない。柏木卓也とは塾で友人だった。それだけの縁でなぜ彼は弁護人をかってでたのか。女の子ようなかわいい顔をしているが切れ者。想像を絶する生い立ちの少年。
 弁護人助手野田健一。気弱な少年であるが、乱暴者大出俊次をなだめつつ裁判につかせる。両親とのトラブルをかかえる。彼がこの物語で一番成長した子供ではないか。
 被告人大出俊次。手のつけようのない不良少年。何度も補導されたワル。彼がこうなったのも理解できる。あんな親父では子供がワルにもなる。
 証人三宅樹里。ひどいニキビで悩む。暗い性格で友だちは浅井松子しかいない。その松子も交通事故で死ぬ。実は彼女がこの長大な物語を駆動させる人物。
 担任森内恵美子。若く美人。えこひいきの多い先生。知らぬまに人の嫉妬をかって、非常にまずい立場になり大ケガまでする。
 そして被害者柏木卓也。?。柏木卓也とは何者。これがこの小説のテーマ。彼はかわいそうな被害者か?天使か悪魔か?正か邪か?
 夏休みの4日間の裁判も終わる。子供たちは見事に評決する。被告人大出俊次は涙を流す。
 そして時間は流れた。野田健一は城東第三中学に戻ってきた。教師として。みんなはどうした。
「友だちになった」
 見事なエンディングだ。これだけの話。読者としても、野田以外の登場人物たち。藤野涼子、神原和彦、井上康夫、三宅樹里、山崎晋悟、みんなどうなったか気になるではないか。宮部はそういう未練を一切切り捨て、「友だちになった」の一言で閉める。見事である。
 中学生が夏休みの自由研究に学校で裁判を開廷する。ありえない話だ。非現実的だ。ところがいったん巻を開くと、そんなことは忘れてしまう。読者は城東第三中学に傍聴人として参加している。フッとわれに返って「こんな話ありえない」とは、本書を読書中一度も思わなかった。宮部みゆきの術中にはまったのである。おそるべし宮部みゆき。

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阪神VS井川!?

おや、井川くん久しぶりやの。阪神タイガースとしては井川と初めての対戦や。いわば初物ピッチャー。初もんに弱い阪神打線やけど、高山移籍初打席でホームラン。同点にする。ところがいつもはメッセンジャーを援護する打線も井川をもひとつ打てん。鳥谷のタイムリーで2点返して井川をマウンドから引きずり下ろすけど、あとのオリックスのピッチャーを打てんで、元エースのよしみか井川に勝ち星をプレゼント。
 ただ収穫はあったで。みょうばんピッチャー渡辺の復活や。リリーフに1枚加わったんはええこっちゃ。
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