<新・とりがら時事放談> 旅・映画・音楽・演芸・書籍・雑誌・グルメなど、エンタメに的を絞った自由奔放コラム
宇宙エンタメ前哨基地



初めてミャンマーと言う国に接したのは、もう10年ほど前のこと。
タイのチェンマイから現地の旅行社が企画していた日帰りツアーに参加してメイサイという街を訪れた時のことだ。

チェンマイから国道を北北東に向って3時間。
途中、メコン川をクルーズしたり、メコン川に浮かんだラオス領の小さな島に上陸したりしてゴールデントライアングルを楽しんだ。
メコン川から眺めるミャンマー側の印象が妙に乏しそうに見えたのが印象に残ったまま、メイサイへ入った。

国境の町メイサイは結構大きな街だった。
商店が建ち並び立派な寺院も見られる。
ミャンマー領である隣町タチレイとは小さな川を挟んで向かい合っていた。
タイとミャンマーの国境の検問所はその川に橋のように架かっていた。

検問所は大勢の人々が行き来し、かなり活気がある。
時たま封鎖されることもあるということだったが、今は平和で人の流れも活発だ。
私がその人の流れをポカーンと眺めていたとき、

「ミャンマーへは10ドル払うと日帰りの入国が許可されますよ」

とガイドのアンさんが英語で言った。
そして、

「どなたかミャンマーに入国したい方はいますか?」

と訊いてきたので喜び勇んで手を挙げたら、上げたのは私だけなのであった。

「他に、どなたかいらっしゃいません?」

とアンさんは再度訊いたが、みんな無関心。

「せっかく、ここまでなにしに来たんじゃ」

と、他のほとんどが白人の観光客に思ったものの、結局国境越えツアーの志願者は私一人なので、ミャンマーへ入境するのは中止。

一方、ミャンマーに行きたくてしようがない私は、自由時間に思いきって国境を越えて、こちら側(つまりメイサイ側)から見えるミャンマー側の商店やレストランに買い物に行って、戻ってこようと思った。
すると、

「一人で勝手に行かないでくださいね」

とアンさんに釘を刺されてしまったのだった。
勝手に一人で行って、悶着を起こされると困るからだとは思うのだが、せっかくミャンマーというかつてビルマと言われていたちょっとかわった国に入国できるチャンスを逸して、私は非常に残念に思っていたのだった。

私がヤンゴン発ヘイホー経由でタチレイにたどり着いたのは、それから数年後のこと。
尤も、タチレイは空港だけで、そこからさらに30分ほど飛行してチャントンという街に行った。
チャントンはかなり裕福な雰囲気の漂う大きな街なのであった。
ミャンマーにしては舗装されて比較的美しい道路が街の真ん中を貫いていて、南へ走るとタチレイに出る。
街の中にでは頻繁にタイのナンバープレート付けた自動車が走っている。
新車、コンディションの良い車は、たいていタイから国境を越えて入ってきた自動車だ。

飛行機で30分くらいだから、自動車で移動しても大して時間はかからないのだろうと思って、ガイドのTさんに、

「タチレイからここまで自動車で来たら何時間ぐらいかかるんですか?」

と訊ねたところ、

「12時間ぐらいかかることもあるんですって」

とヤンゴン在住のTさんは、地元のタクシードライバーに訊ねて答えてくれた。

「12時間!」

とビックリする私に、

「人身売買が多いので、こことタチレイの間には何ヶ所も検問所があって、そこを通過するのに時間がかかるんですって。それに必要な書類は、こんな厚さになるそうです」

とTさんは指で2センチぐらいのすき間を作って見せてくれた。
なんでもタイの売春宿で仕事をさせるためにシャン州の乏しい女性達を売り買いする組織が存在するというのだ。
シャン州の人口の大半を占めるシャン人は、いわゆるシャム人。
つまりタイ人と同系の人たちになるので、言葉の問題や民俗的アイデンティティを考えるとミャンマーよりもタイに近いのかも知れない。
などと思ったりした。

で、Tさんが言っているように、そんなに厚くなるくらい書類は必要ないだろうが、往復すると何十枚もの書類が必要になるのは確かのようだった。

年に一度、ロードサイクルのレースも開かれるというこの道路で、大変なことだな、と感心していたが、それは私の認識不足であったことが恥ずかしながら、やっとこさ気付いたのであった。

高野秀行著「アヘン王国潜入記」(集英社文庫)を読むと、このチャイトンの街が、実は「ゴールデントライアングル」における重要な街であったことに気付いたのだった。

タチレイからチャイトンに至る国道に多数設置された検問所は「人身売買を監視する」検問所ではなく、「麻薬の取引を監視する」検問所なのであった。
そしてチャイトンが裕福な街に見えるのは本当に裕福であって、その富は、今は違うと確信したいが、かつてアヘン取引で賑わったことのある街だからではないか、と思ったのだった。

今思うと、この高野秀行の著書を読んでからチャイトンを訪問すれば、もっと別の見方をできたのではないかと悔やまれる。
チャイトン周辺はトレッキングをするには持って来いの場所で、空気は奇麗だし、熱くないし、ミャンマーにしては食事も美味しいし、という、の~びりするにはピッタリのところなのだが、その裏の歴史を知ると、もっと何か学べるものを発見できたのかもしれない、とも思った。

私は一般旅行人なので著者のような冒険旅行をする自信はないけれども、「アヘン王国潜入記」はミャンマーという国を訪れる前には是非とも読んでおきたい一冊であることを発見した。

もう一度、チャイトンへ行って見たいが、なかなか行けないのが辛いところだ。



コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )



« 大阪弁護士会... 大阪DNA・サン... »
 
コメント
 
 
 
Unknown (ダル)
2010-09-21 10:14:47
ちょっと見ないまに又いろいろ更新されていて…
10年前私もミャンマーに行ってきたことがあるような、そんな気分でさっそく「アヘン王国潜入記」買い物かごに入れました。いつもありがとう。
 
 
 
シャン州 (監督@とりがら管理人)
2010-09-23 21:44:13
ダルさん、こんにちわ。

「妙な本を紹介されてしまった」と思わないでくださいね。
この本のほとんどはチャイトンでは無く、同じシャン州でも、その中にあるワという地域について書かれています。

シャン州がもともと領土的にミャンマーに取ってややこしい地域であることは知ってましたが、この本でその本質的なものの一部を知ることができ、個人的には面白かったです。
もちろん、多くの人が楽しめる本だと確信していますが。

話は違いますが、このシャン州の麺料理はなかなか美味です。
麻婆麺みたいな感じのものが多いのですが、それを食べるたびに、「あ~、ここはミャンマーでも独特の文化があるんだな」
と関心することたびたびです。
 
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。