<新・とりがら時事放談> 旅・映画・音楽・演芸・書籍・雑誌・グルメなど、エンタメに的を絞った自由奔放コラム
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iTunesミュージックストアがオープンしたとき、
「確かにこれからの音楽の販売方法はこうなるのかも知れないが....」
とは思ったものの、CDという「物」も無ければ、ジャケットもない。
だから「こんなの製品?」という商品のカタチに違和感を覚えた。
実物がなくてデータだけの買い物なんて、さほど魅力を感じなかったのだ。

私の場合、今でもiTunesミュージックストアで購入する楽曲は少ない。
購入する楽曲のだいたいはCD化されていない作品か、ダウンロード製品がアマゾンや店舗で買うよりも大幅に安価な場合に限られている。
すでにLPで持っている作品のCDバージョンへの買い替えといった場合は、まずアマゾンか大阪市内や東京都内の大型店で探してから、どうしても見つからない場合に限ってネットで購入するようにしている。

どうしても実物を買いたいと思ってしまうのは、「商品は実態があるべきだ」という習慣からか、または「どうしても「手元に置きたい』」という物理的理由からだろう。
たぶん、世代的にネットのデータだけを「商品」と認めたくない何かがあるのかもわからない。

このiTunesミュージックストアの製品数は約200万曲。
アマゾンドットコムで約10万。
大型スーパーのCDコーナーでの品数は、わずか4500なのだという。
しかし、驚くなかれiTunesの200万曲のうち1度でも売れたことのある楽曲は全体の98%。
つまり、全く売れない商品はわずか2%なのだという。

以上は米国の例だが、これには正直驚いた。

クリス・アンダーソン著「ロングテール(アップデート版)・売れない商品を宝の山に変える新戦略」(ハヤカワ新書)は、これまではまったく価値を持っていなかった商品がインターネットとそれをつかった高度な検索機能により、市場の新たな製品として注目をあつめるようになってきていることが述べている。
商品価値のなかったものが、商品価値を持ち始めているというのだ。

これまでなら上位10位だとか100位の中に入った商品を店頭に並べることが「品揃え」だった。
限られた店内の陳列棚で販売できる製品の種類と数には限界があり、そういう商環境の中では、必然的に顧客から支持率の高い製品を置かざるを得ない状況に置かれるのだ。
売れる商品を置かなければ、棚単位面積当たりの販売額も低くなるし、経営が立ち行かなる。

しかし、店舗は必要なく在庫は全国でった一箇所でOK、デリバリーは小口運送を使用してダイレクトに顧客の自宅まで配達してしまう、場合によっては商品は倉庫すら必要のないデータというカタチで存在できるので、サーバーがあれば十分。いわば無限倉庫から販売し、運賃さえかからない販売形式が誕生したことで、従来のアイテム制限の呪縛が外れたのだ。

アマゾンやiTMSはその代表例だ。

このため今では上位100位の売上よりも、下位200万位までのトータルのほうが売上が多い、という時代を迎えている。
従来は顧客が販売側のスタンスに合わせていたのが、顧客が自分のスタンスにあった製品を自由に、そして簡単に、しかも安価に求めることができるようになったのだ。

驚くべきは、販売方法に新時代を迎えているのが楽曲ビジネスだけではなく、テレビやラジオといったメディアもネットの動画やPodCastのようなインターネットラジオにその主役の座を奪われようとしているというのだ。
いや、主役の座を奪われると書くと、「ロングテール」で謳われている内容と異なってしまう。
つまり、すべてのメディアが個々人の嗜好の主役となり、数多くの選択肢から自分にあった、自分の欲しいコンテンツを自由に選択できることが可能な時代になっているのだ。

確かに、地上波放送を見なくても不自由はしなくなった。
CS、BS、インターネットなどなど。
選択の幅は無限である。
YouTubeの動画も地上波の番組も消費者にとって価値は変わらない。
提供されるメディアが違うだけだ。

今話題のテレビのドラマやヒット曲が会社やお客さん、友人間の話題にのぼることはほとんど無くなってしまったのだ。
「ロングテール」では、このような現象を「井戸端会議の話題にあがらなくなった」と表現しているが、まさにそのとおりの様相だ。
もしかすると日本相撲狂協会が恐れる最大の点は、相撲ファンの趣向の多様化による「飽き」なのではないかとも思えるようになった。
インチキをするスポーツを見るくらいなら、他のスポーツを自分の自由時間に見ている方がよほどエキサイティングで面白いからだ。

ロングテールの理論を当てはめると、ネットビジネスの成功の秘密だけではなく、今起こりつつ各方面の様々な変化や事象が理解できるのかもわからない。

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