<新・とりがら時事放談> 旅・映画・音楽・演芸・書籍・雑誌・グルメなど、エンタメに的を絞った自由奔放コラム
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古都京都。
毎年4500万人を超える観光客が訪れるこの街の魅力はやはり「日本文化」。
京都にあって東京に無いもの。
それは日本の文化を代表する歴史に裏付けされた数々の伝統的な建築や工芸、文学や芸能であろう。

日本の建築美の代表である桂離宮や御所。
西陣織や扇子、清水焼などに代表される工芸品。
平安時代から日本の古文学を生み出した冷泉家に代表される公家文化。
舞妓さんや芸妓さん、能などに代表される伝統芸能。
などなど。

どれもこれも歴史と高貴さを併せもち、その魅力は日本人だけではなく多くの外国人をも魅了している。
多少、市民が独特な保守性を有していて、座布団を半分外に出して「おこしやす」と云われることがあっても、たとえ「ぶぶづけでもどうです」と早う帰れ、と云われようとも、いわゆる余所者に超イケズであったとしても、京都の文化を超えるものは他の地方にはなかなか見当たらない。
親子三代ぐらいでは京都人とは云われず、「うちは応仁の乱から続くオウチです」と云われるくらいでなければ京都人と認めてもらえない凄みのある街なのだ。(ちょっと大げさすぎましたが)

そんな京都のもうひとつの顔。
それはハイテクの街である、という顔なのだ。

ノーベル賞受賞者が東大よりも多い京都大学はもちろんのこと、企業の名前を上げるだけでただ者ではないハイテク企業がラインナップされているのだ。

誰でも知っている世界最大のテレビゲームメーカー任天堂。
農業ビジネスの雄、種のタキイ。
フロントホックのCMが忘れられないハイテク下着のワコール。
スペースシャトルからボールペンまでの京セラ。
エネルギー政策で注目の的のジーエスユアサ。
ノーベル賞社員がいる島津製作所。
ジャン・レノだけが、なぜか印象的なローム。
新幹線からよく見える京都電産。
何故か気になる目川探偵(って関係ないですけど)。
などなど。
並み居る企業が控えている。

体温計で家庭でもおなじみのオムロンも、これら並み居る京都のハイテク企業だ。
そのハイテク企業が、実はたった一人の熊本出身の技術者によって生み出され育まれていた会社だったとは、これまであまり気にとめることはなかった。

「できませんとは言うな~オムロン創業者立石一真」湯谷昇羊著(新潮文庫)はそのオムロンの創業者立石一真の一代記だ。
そして、その一代記を通じて日本企業のひとつのあり方を伝えることができる実に面白い読み物であった。
本書のタイトル「できませんとは言うな」は本題ではなく、この物語の本題は終盤に記されていた「人を幸せする人は幸せになる」という考え方が全編に渡って貫かれているテーマのように思えるのだ。
それは現代では多くの日本企業から消えてしまっている経営の哲学の基本であり、産業用製品でもユニークなものを生み出し続けるオムロンの秘密であるとの印象も受けたのであった。

昨日発表されたパナソニックの4万人削減計画は株主にとってのメリットを考ると企業がスリム化して収益をあげるので良いのかも知れない。株主も自分の懐も暖かくなるから満足する。しかし削減される世界4万人の人々のことを思うと、松下幸之助が泣いてるぞ、と言いたくなるような政策であるように思えるのもまた事実だと思う。
冷徹な経営は正しいのかもしれないが、ある種の違和感を感じさせるのは否めない。

立石一真は松下幸之助や本田宗一郎、盛田昭夫などとならぶ戦後を代表する経営者だったようだ。
ただ、作っている製品の分野が業務用、産業用であったため長らく人々の目に触れることがなかった。このため企業としての一般的知名度が低かった。
だから私たち一般人にはオムロンは体温計の会社なのだ。

それはともかく福祉工場を世界でも先駆けて立ち上げたり、自動改札機やATM、交通管理システムなど社会に献身するインフラ技術を率先して開発してきた企業の物語は、大震災とそれに誘発されている経済的苦境で閉塞した日本社会に大きな夢と勇気を与えてくれることを間違いない。


(写真)大阪大学吹田キャンパスの最寄り駅、阪急電車北千里駅の改札口に建つオムロンが開発した世界初の自動改札機を称えるIEEEのマイルストーン。







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