<新・とりがら時事放談> 旅・映画・音楽・演芸・書籍・雑誌・グルメなど、エンタメに的を絞った自由奔放コラム
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漫画家の水木しげるが亡くなった。
ここのところ自分が子供の頃から親しんでいたテレビドラマやアニメ、漫画、漫才・寄席の著名人がなくなることが多く非常に寂しく感じている。
水木しげるもそういう著名人・漫画家の一人なのでいたたまれない気持ちになってくるのだ。
寿命とはいえ、そんな感慨にふけってしまうとは私も年をとったものだ。

水木しげるといえば妖怪漫画のゲゲゲの鬼太郎の作者。
水木しげるの描画タッチは妖怪漫画を描くのに向いていたのか、独特の暗さと味わいがあった。
不気味で、陰気で、それでいてどこかユーモラスな妖怪たちのイラストだ。

いくつの時だったか忘れたが妖怪大辞典みたいなものを母に買ってもらったことがあった。
その絵の作者が水木しげるで各妖怪を解説するキャプションと共に読み進んでいき「あちらの世界」をリアルに想像したものだった。
そんな世界をリアルに想像したのが原因かも知れないが、臆病者の私はお寺や墓場に行くとそういう妖怪がいるんじゃないかと思えてきて一人でトイレに行けなくなるくらい夜になるとビビっていたものだ。

とはいえ、そんな本を買ってもらうぐらいだから妖怪話は嫌いではなかった。
もちろんTVアニメの「ゲゲの鬼太郎」もお気に入りでほぼ毎回見ていたように記憶している。

このゲゲゲの鬼太郎は熊倉一雄の歌で始まるのだが、そのイントロのムードがでいかにも「おばけ」が出そうな雰囲気なのが子供心にオドロオドロしかった。
そしてこのアニメにはカラー版と白黒版があり、当然のことながら白黒版の方がなんとなくリアルで不気味さが募っていたような印象が残っている。
白黒画面で展開されると画面の中の妖怪や環境には自分の脳の中で色を付けることになる。
カラーの画面と違って想像力が高まるのだ。
この白黒のカラー感覚効果ははるか下って大学生の時、映像論の講義の時に映画キャメラマンの宮川一夫先生の一言で論理的になぜそのように感じるのか理解することができた。

「君たち、白黒には色があるって分かるかい? 私は子供の時に水墨画を習っていたんだ。よく見ると水墨画の隅の濃淡には色がある。その経験が映画の撮影の時にすごく役に立ったんです」

と先生は講義でおっしゃっていたのだ。
さすが溝口健二や黒澤明の作品のカメラを任されてきた宮川先生だと感心した。
その時に白黒の色の世界の「色気」に気づき、以後、白黒映画の魅力やヌード写真も白黒の方が妙に艶っぽかったり感じる理由がよく分かるようになった。

妖怪の世界も同じ。

水木しげるの訃報に接し、妖怪の世界も「白黒に限る」ということを思い出した。
もう、ああいう作家は出てこないかもしれないと思うと、それはそれで非常に悲しいと思うニュースなのであった。

コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )



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コメント
 
 
 
Unknown (ダル)
2015-12-03 15:30:06
東京から沼津、いい旅でした。ありがとうございます。
水木さん残念でした。まだまだ惜しいお年でした。
隣の席の義弟がファンでずいぶん著書を机に置かれ読みました。ずいぶんとハードな体験の持ち主なのにちっともそんな暗さを感じさせない方でした。
 
 
 
惜しい (監督@とりがら管理人)
2015-12-04 23:35:49
ダルさん、こんにちわ。
水木しげるさんは片腕を戦争で失い、残った片腕でできる仕事として貸本屋向けのマンガを描いていた、というようなことを聞いたことがあります。
その戦争体験があのマンガの中に生きていたんだと思います。
悲惨さ、というよりも生きることへの執着みたいなものですね。
 
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