<新・とりがら時事放談> 旅・映画・音楽・演芸・書籍・雑誌・グルメなど、エンタメに的を絞った自由奔放コラム
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「来月いっぱいで退職させていただきます」

と当時の直属の上司であった常務に告げたのはちょうど今ごろ。。
早いものであっという間であった。

昨年私は一昨年発生した品質の問題点解決のための得意先からの改善プロジェクトチームの窓口を担当した。
それが退職する決心をしたのは12月末でそのプロジェクトが終了することに加え、5年間に渡って某国立大との連携開発をしていた製品の完成目処もついたので退職しても迷惑はかからないと判断したからであった。

そもそも20年以上も勤務した会社を退職するに至った理由はただ一つ。
いくら改善を目指してもファミリー企業である経営陣では理解できない、と判断したことに尽きる。
企業としての利益よりも前にファミリーの利益優先は今は良くてもいずれ躓くと確信したからだった。
改善指導を受けることになっても、それを相手に感謝せず、創業者の息子である取締役は、
「○○社はそこまで首を突っ込む権利があるの?」
という始末だった。
「だったら▲▲社とやったほうが良い」
とも言った。
▲▲社は取締役を手のひらで泳がす術に長けている。このことは社内外で評判なのであった。

一方○○社は子供でも老人でも誰でも知っているある分野のトップ企業なのだが、その企業を経由して納品した什器が大きなトラブルを発生させた。
でもそのトラブルを「いい機会なので一緒に改善に取り組みましょう」と先方からの提案のカイゼンプロジェクトであった。
取引額も示唆。
例外的善意の提案で社長も納得して始まったプロジェクトにも関わらず社内の硬直した人治システムのために思うように進まず。
多くの社員は得意先のことよりも会社上層部の顔色を伺いながらであったため、結果は想像するまでもないものになった。

「うちの内部資料をお見せします。あくまでも秘密ですので。」
プロジェクトが始まって1ヶ月ほどすると東京で先方の品質担当者が私の会社への品質評価表を内緒で見せてくれた。
驚いたことに100点満点中30点が最高点。
その他は20点が並ぶ状態で、これを上層部に見せたら卒倒するかも知れない。
いやそれよりも怒り出して「取引しない」と言い出すかも知れない、と思った。
「これを合格点の60点を目指していきたいと思います。協力してくれますね。」
と、担当者は真剣な表情で私に話してくれた。

黙っているわけには行かないので上司であった常務に口頭で報告した。
ペーパーにして残るとヤバイと思ったからだ。
案の定、常務は恐れをなして経営トップに報告することなく、昨年の夏をすぎることになった。

結果的には60点評価をもらうことができたが、私自身納得できるものではなかった。
もう、限界だな、と思ったのだ。

この一連の流れが結局「退職」に至る結論を導いてしまったわけだが、こういうことが最後の10年間ほどに3度ほどあり、家族にも相談して区切りを着けることにした。
カミさんは「いいんちゃう。これだけやったんやもん。なんとかなるよ。」と言った。
もう50なんだから辞めても行くとこないよと言っていたカミさんが、そう言ったのだ。

退職の挨拶に○○社の部長の一人は「惜しいけど、辞めることになった気持ちはよく理解できます」とねぎらいの言葉をかけてくれた。
何も説明しなかったのにである。

LIFESHIFTという書籍がベストセラーになっているのを見ていて、まさか自分がLIFE SHIFTしてしまうとは想像だにしなかった。
まる23年の間に自分自身が開拓して取引の始まったお客さんもある。
リーマンショックもあって浮き沈みもあったが会社の売上は3倍になった。
創業者の努力はすごいとも思った。
大学の研究員もさせていただいた。
周囲から見ると羨むような仕事のようであった。
給料はあまり良くはなかったが、実際仕事そのものは充実していたと思う。
それでもピリオドを打つという気持ちに至ったのはファミリーが経営する中堅企業の限界を見たこと。
そして50を過ぎた自分の残りの人生を照らし合わせたからでもあった。

最後の出社をして以後、一度も古巣を訪問することなく年末を迎えた。
ただ一度だけ元上司の常務に会った。
梅雨のさなかであった。
取引先の社長が「自分のいた会社にご無沙汰するのはよくないよ」と言ってくれたので、会う決心をしたのだった。
「おー、元気にしとったか」
と常務は満面の笑みで喜んでくれた。
「仕事がなくて困っとるんやないか」
と冗談とも本気ともつなかい一言を発してその後のことを語り合った。
しかし話をしていると、状態は変わっていないことにすぐ気がついた。
たった半年程度で会社の環境が変るわけがない。
しばし酒を酌み交わしながら常務には悪かったが辞めたことは良かったと確認するような機会になってしまったのだった。

LIFE SHIFT。
まもなく独立1年経過。

50代のリセットもありであることを実感している2017年の年末である。



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