<新・とりがら時事放談> 旅・映画・音楽・演芸・書籍・雑誌・グルメなど、エンタメに的を絞った自由奔放コラム
宇宙エンタメ前哨基地



宇宙船USSエンタープライズ号は5年間の調査飛行で数々の地球外の文明や生物と接触。
私たち地球に住む人類に限りない希望と夢と科学を手にした勇気を与えてくれた。
さらに宇宙艦USSヴォイジャーは銀河の反対側へ飛ばされて、地球へ戻るための7光年の気の遠くなるような距離を7年間で飛行。これまた数々の新しい文明や新しい生命を発見した。

以上の宇宙探査の物語は不朽の名作SFテレビシリーズ「スタートレック」の2つのシリーズ。

このシリーズに負けない宇宙探査を続けている宇宙船が今、太陽系を地球に向って飛行している。
その宇宙船の名前は「はやぶさ」。
我が日本が誇る宇宙探査機だ。

新書「はやぶさ 不死身の探査機と宇宙研の物語」はその探査機にまつわるノンフィクションだ。

天文ファンなら知らないものはいない宇宙探査機「はやぶさ」は2005年末に小惑星「ITOKAWA」に着陸。地表のサンプルを採取して地球に戻ろうとしたところで音信が途絶えた。
この「はやぶさ」がドラマチックなのは、一旦行方不明になったこの探査機が3ヶ月後、かすかな電波を地球に送ってきたことだった。
それはまるで、銀河の彼方に吹き飛ばされた宇宙艦ヴォイジャーが最終シーズンで地球との交信に成功するエピソードに似た感動のシーンだ。
タダひとつ違うのは、ヴォイジャーの物語はフィクションで、はやぶさの物語は事実であったところだろう。

今、天文ファンでもない人たちの宇宙に対する関心は決して高くない。
国際宇宙ステーションで日本人飛行士が毎日様々な任務をこなしていても、その特殊な内容を伝える新聞はほとんどない。
そんなかで、日本の宇宙探査技術は実は米露に劣らない優秀なものであったことを、本書は語っている。
その日本の宇宙探査技術、その基本になるロケットの開発に尽力した東京大学の糸川英夫教授の生い立ちが前半の山場で、後半がその精神を受け継ぐはやぶさの物語、という構成だ。

この真実の物語にはSFの世界でしかなかったたくさんのフィクションが実現されているものとして登場する。
その代表がイオンエンジンだ。

スタートレックの世界では21世紀から22世紀かけての宇宙飛行はイオンエンジンを搭載した宇宙船によって行われていたということがたびたび登場する。
優生戦争の結果誕生したカーン・ノニエンシーンの乗っていた宇宙船ボタニーベイはイオンエンジンの宇宙船だった。
テレビを見た私は実際にはイオンエンジン(電気の力で推進するエンジン)など実現できるわけない、と思っていたのに、日本の宇宙技術はそれを実用化していたのだ。
たった66kgの燃料で何十億キロの宇宙の旅を続ける。
そのタフでハイクオリティな世界に、私の目は釘付けだ。

さらに「はやぶさ」は自分で考える能力のある宇宙船だった。
その知力は素晴らしく、地球からの信号に答えるものの、着陸や離脱、姿勢制御、何を見るのかまで、自分で考える能力を持っていたのだ。
これはまるで超小型宇宙船ノーマッドか、2001年宇宙の旅のHAL9000という趣だ。

科学は芸術と言う言葉があるが、まさに「はやぶさ」のミッションにピッタリな言葉だと思った。

一旦消息を絶った宇宙探査機「はやぶさ」は地球に向って帰還飛行中。
来年6月が到着予定。
地球に近づいたら地質サンプルが入ったカプセルを放出し、オーストラリアに着陸させる。
地球以外の他の星の地質サンプルを採取して地球に戻ってくる宇宙船としてはアポロ(米)、ルナ(露)、以来の3番目の快挙だという。
そしてはやぶさは最期のミッションとして地球に向って自らを隕石と見立てて隕石落下の実験を行なうという。(先日の新聞報道による)

本書を読むと、「はやぶさを実験で地球にぶつけるなんてとんでもない。スペースシャトルで回収すべきだ。」
と思うくらいその探査機に愛着が沸いてくるのだ。

~「はやぶさ 不死身の探査機と宇宙研の物語」吉田武著 幻冬舎新書~




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