<新・とりがら時事放談> 旅・映画・音楽・演芸・書籍・雑誌・グルメなど、エンタメに的を絞った自由奔放コラム
宇宙エンタメ前哨基地



ニシェル・ニコルス、ウーピー・ゴールドバーグ、ケイト・マルグルー。

この三人には共通点がある。
それはテレビシリーズ「スタートレック」で重要な役割を演じた女優たちという共通点だ。

ニシェル・ニコルスは1966年放送開始のオリジナルシリーズで通信士のウラ中尉を演じていた。
ベトナム戦争が激化。
米国の国内世論は反戦運動が活発化しはじめ、世界的には東西冷戦状態がより不安定になっていた時代だった。
その頃、女性の社会進出も声高に叫ばれていた。
現実の米国はそれほど女性に寛容な社会ではなかったのだ。
スタートレックに登場したウラ中尉というキャラクターはそんな時代でより大きな影響を次世代に与えていた。
宇宙艦の重要クルーに女性がいること。
しかもそのクルーは黒人の女性であること。
スタートレックというテレビ番組で刺激を受けた若い世代、とりわけ黒人女性の中にはニコルス演じるウラ中尉を見て未来の自分たちを想像した人は少なくなかった。

ウーピー・ゴールドバーグはその刺激を強烈に受けた一人だった。
スタートレックが放送されていた頃、ティーンエイジャーだったゴールドバーグはウラ中尉を演じるニコルスを見て女性、とりわけ黒人女性の可能性に大きな希望を持った。
女性であっても、しかも黒人であっても活躍できる世界があることに刺激され、彼女は女優になる道を進んだ。
彼女は女優としてスターの地位に上り詰める。
そんな彼女がスタートレックの新シリーズに準レギラーのガイナンというキャラクターで活躍することになったは、ただ単にスタートレックが人気テレビシリーズという理由ではなかった。
女性であろうと少数民族であろう、すべての人が活躍できる社会を描く番組そのものに魅力を持ち続けていたからだ。

TVシリーズのスタートレックは放送開始以来いつも社会的テーマに挑戦してきた。
先に上げた東西冷戦もしかりだが、人種差別や病、災害、教育の欠如、貧困など、我々が抱えている社会的な問題をSFという手法でデフォルメすることでメッセージを送り続けているのだ。
それが世代性別人種を超えた多くのファンを抱える最大の理由であり、他のSFとは決定的に違う部分でもある。
その社会的テーマの一つが女性問題であることは間違いない。

その女性の社会進出をテーマにしたこの番組の最大の象徴がケイト・マルグルー演じる宇宙艦ヴォイジャーのキャサリン・ジェインウェイ艦長だ。
女性でありながら大型宇宙艦の指揮官となった彼女は、想像を絶する危機に直面する。
未知の異星人のテクノロジーのために一瞬にして7万光年彼方に吹き飛ばされてしまうのだ。
70年の歳月を要する地球へ戻るための旅を強いられるわけだが、その途中に遭遇する物語の数々で見せる彼女の指揮官としての頼もしさは歴代艦長の中でも特筆すべき魅力を備えていた。
100名を越える乗組員の指揮官であり、且つ女性として若い士官や船内で生まれたり、或いは育った子どもたちにとっては母のような存在になっていた。
まさに女性が指揮官になったとき、そのひとつの代表的な姿を彼女は体現していたのかもしれない。



今週最大の話題となった米国大統領選挙は多くの期待と議論を呼び起こしたが、ヒラリー・クリントンは勝者になることができなかった。
初の女性大統領の呼び声が高く、しかも対するトランプ候補が従来の大統領候補者には見られなかった人格的問題を抱えていたため、彼女の勝利はかなり確立の高いものではないかとも思われていた。
しかし結果は多くの期待を裏切ることになった。

女性大統領の登場を阻んだものはなんなのか。
現実ではドラマのようにはいかない厳しさがあることは間違いなさそうだ。

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