<新・とりがら時事放談> 旅・映画・音楽・演芸・書籍・雑誌・グルメなど、エンタメに的を絞った自由奔放コラム
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発売されてからずっと気になっていたマイケル・J・フォックス著「ラッキーマン」を新古書で購入した。
いつか買おうと思っているうちに単行本が無くなり、文庫本になって、その文庫本も廃版になって中古市場でしか残っていなかったのだ。
ということは、書店で初めて見つけてから買うまで何年もかかってしまったということになる。

なかなか買わなかった理由は単純だ。
俳優や芸術家のバイオグラフィは興味があってもなかなか読まないからだ。
というのも、こういう人たちのバイオグラフィはどこかに必ずゴーストライターがいて、かれらが創作を織り交ぜながら書いているに違いない。
そう私は思っているところがある。
「ラッキーマン」はそういう意味ではちゃんとした自伝であり、人気作家の義兄の手助けを借りながらでもマイケル自身が自分で書いたものなのであった。

なぜマイケル・J・フォックスの自伝なんか読む気になったのか。
多くの日本の映画ファンにとって、もしかするとマイケル・J・フォックスは過去の人なのかも知れない。
というのも映画にはもう出ていないからだ。
いつの間にかスクリーンから姿を消し、日本の映画ファンは彼の姿を目にすることが無くなっていた。

これには2つの原因がある。
ひとつ、彼はテレビの世界に復帰していて映画には出演していないこと。
もう一つは彼がパーキンソン病に罹患しておりその治療とパーキンソン病への理解を深めてもらうための社会事業を行っているからである。

私がこの本を読もうと思っていたのは、映画ではなくて彼が主役と製作を兼ねていたテレビシリーズ「スピンシティ」が大のお気に入りであったことと、その「スピンシティ」を降板したのがパーキンソン病の治療に専念するからであったことの2つがある。
だからこそ「ラッキーマン」に興味を持ち続けていたのだ。

「ラッキーマン」はこの2つ至るまでの人生が綴られている。
高校を中退。
カナダからアメリカに単身渡航して食うや食わずの売れない時代。
テレビシリーズのオーディション。
バック・トゥ・ザ・フューチャーでトップスターに。
結婚と育児。
ヒットしなくなった主演作での苦悩。
そして絶頂期に診断されたパーキンソン病。

本書の優れたところは悲観的なところが全くと言ってないことだ。
時に笑い。
時に涙あり。
全編に流れる軽快な文章(もちろん日本語訳で読みましたが)はマイケルという俳優の思慮深さを感させた。
人気スターには珍しい実は普通のとてもいい人なのだと思わせるものがあったのだ。
考えてみれば人気スターは家庭の扱いもぞんざいで結婚離婚を繰り返す人も少なくない。
スキャンダルにまみれて、いつの間にかスクリーンやテレビから姿を消す。
しかしマイケル・J・フォックスという人は初めて獲得した人気番組「ファミリータイズ」で共演した相手役の女優と結婚して、以後今日まで本書を読む限り普通のあたたかい家庭を築いている。
だからこそ今のところ未だ不治の病であるパーキンソン病と戦うことができるているのだろう。

「ラッキーマン」はそういう意味で彼の人間としての側面と、彼の関わった様々な映画やドラマの成り立ちや裏側を窺い知れる、実に読み応えのある作品なのであった。


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