<新・とりがら時事放談> 旅・映画・音楽・演芸・書籍・雑誌・グルメなど、エンタメに的を絞った自由奔放コラム
宇宙エンタメ前哨基地





ベストセラーになっている「スティーブ・ジョブス」上下巻ではスティーブ・ジョブスと日本の関わりについても数多くの記述があった。
というよりも、スティーブ・ジョブスのアップル経営には経済面でも文化面でも日本の影響が色濃くあり、例えば、最後の家族旅行は昨年の京都旅行で、宿泊したのは俵屋旅館。
京都で最も有名な伝統的旅館だ。
日本を出国するときに土産に買った土産物も手裏剣。
これを機内に持ち込もとして関西空港のセキュリティに没収され、
「プライベートジェットなんだから構わないだろ。こんな国、二度と来るか!」
と吐き捨てて帰ったというのがネットに載っていたが、ご愛嬌。
結局亡くなっても日本との縁は切れずに、争議を執り行ったのは日本人の仏教僧侶だったそうだ。

この日本との関わりで、ビジネス面で最も興味深かったのは、ソニーとの関係。

十数年前、追放から戻ってきたスティーブ・ジョブスが日経かなんかで語った内容が、今も記憶に残っている。
アップルが最悪の財務状態だった頃のことで、iMac発売以前だったと記憶する。

ジョブスは語った、
「私はアップル社をソニーのような会社にしたい。」

なんでアップルのCEOがソニーという日本の会社を目指したいのか。
当時、よく分からなかった。

パソコンメーカーのApple社。
方やICからビデオ、テレビ、オーディオといった一般消費者向け家電製品。
世界の8割を独占している放送用機材。
ワークステーションやPC。
音楽ソフト、映画、ビデオソフトなどのエンタテイメント。
デザイン性の優れた世界的プロダクトの人気メーカー。
それがソニーだった。

でもこれらは、どれもこれも当時のAppleとは関係ありそうで、なさそうなものばかりだった。

ところがこれがジョブスの目指すところだった、というのが今になって合点がいく。
ソニーのビジネスモデルを模範として、知らない間にAppleは宗家ソニーもできなかったことを実現することにいたったのだった。

それはなにかというと、
「縦割り組織の破壊」
にほかならない。

書籍「スティーブ・ジョブス」によると、現在のAppleのソフトとハード面の融合による見事な製品提供を実現できる他の会社は世界に唯一つ、ソニーだけだという。
ソニーは音楽著作権の世界最大保持者であり、映画コンテンツもソニー・ピクチャーズの成功で世界最大級。
しかもハードウェア、ソフトウェアともに世界最高品質の製品をリリースし、一時はiPodに飲まれそうだった携帯音楽端末の市場も、元祖端末ウォークマンが追い抜いた。

しかしここでAppleにできてソニーにできないことがある。
それが「事業部ごとの縦割りによる連携の有無」なのだという。

確かに、Appleは今や音楽配信、有料動画配信では世界一。
スマートホン市場もダントツの一位で、もはやコンピュータだけの会社ではない。
アプリケーションもネット販売し、しかもハードもOSも一社でまかなっている。
ところが、この各ビジネス要素は分断されておらず、例えばiTunesというソフトウェアを通じてシームレスにつながっているのだ。

ところが、ソニーはAppleと同じビジネス要素をすべて一社で提供できるのに、それらを連携させる術も組織も全くない。

ここに、ソニーに代表される日本企業のマニュアル一辺倒、官僚主義、閉鎖性、を見て取ることができるのだ。

「Appleの工場は日本にあるソニーの工場のように美しくなければならない」

というようなことが書かれていた。

縦割り組織を貫いていた一本の槍のような存在だった創業者の一人が亡くなったApple。
今後縦割りになるようなことがあれば、それは転落への第一歩になるだろうが、果たしてどうか。
現在青息吐息の多くの日本企業のようになってしまうのか。

書籍「スティーブ・ジョブス」は日本企業への「思い出せ」本でもあるのだ。

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )