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tetujin's blog

映画の「ネタバレの場合があります。健康のため、読み過ぎにご注意ください。」

手術当日

2008-03-16 17:53:33 | 日記

手術は午後から。今日の2番目の手術の順番となるようだ。食事は今朝から絶食となり、水分はすでに昨夜12時から摂取を禁止されている。今朝の排便の有無を聞かれ、まだしていないことを伝えるとナースはでかいイチジクの形をした浣腸の薬をもってくる。
「どうしてもやらなきゃダメ?」
スタジオジブリの”魔女の宅急便”のキキにそっくりのそのナースは
「どうしても!」
と答える。キキは初日にチューブ付きの尿瓶を持ってきてくれたナースだ。一人身のぼくをいろいろ心配してくれてもいた。

ぼくがこんな感じで浣腸をためらうのは、彼女には先刻予想済みのようだった。
<絶対に浣腸しなくちゃ>という彼女の言葉に抵抗をあきらめて、せめて自分で浣腸するからとやり方を彼女に教わる。
なにしろ、教わる相手が”魔女の宅急便”にでてくるあのキキそっくりの女性だ。
その手の趣味があれば最高のシチュエーションなのかもしれないが、あいにくそんな趣味は持ち合わせていない。
羞恥 羞恥 羞恥 羞恥 羞恥 羞恥。
「できなかったら呼んでください」
という彼女をカーテンの向こうに追い出して、ぼくは彼女にセットしてもらったベッドのおまるの上で寝巻きタイプのパジャマの前を開いた。
なお、下着は入院の際にT字帯なるものを買い求めさせられ、それをつけている。つまりはふんどしだ。
大部屋の病室の他の患者達に気を使いながら、ぼくはカーテンで仕切られたベッドの上で思い切り力んだ。
その結果、なかなか出はしなかったが、それなりに・・・・・・出た。すかさず、フタを。
しばらくしてキキが様子を見にやってくるのを待って、無事にミッションが終了したことを報告。
浣腸しなくても許してもらえることに。

キキと交代で来たのがショートカットが良く似合うナース。Mさん。彼女はさっぱりした性格でどちらかと言えばMと言うよりはSっぽいのだが、その辺の詳細は後から書くことにしよう。彼女はぼくに顔のヒゲを剃れと言う。怪我をした月曜日から金曜日の今日まで一度もヒゲを剃っていなかったので、ヒゲの薄いぼくでもそれなりにむさくるしくなっている。だが、持参したシェーバーではヒゲが長すぎて良く剃れない。売店で安全かみそりを買ってきてもらうが、面倒見の良い姉御肌の彼女は念のため予備のT字帯も買ってきてくれた。洗面器にお湯を用意してもらって髭剃りが終了。

午後になり、その時を待っていると他の病棟から移ってきたばかりという一番最初に出会った顔見知りのナースがぼくのベッドにやってきて、爪きりとテイモウをするという。若い子のくせにさすがは悌毛などと専門用語を使う。
ぼくの手の爪を切ってくれようとするのだが、爪ぐらい自分で切れるからと自分でやる。手術中、麻酔が効いている中で無意識に爪で自分を傷つけないために爪を切るのかなと思ったら、そうじゃなくて爪にはばい菌が潜んでいるからとのこと。
次に電気バリカンで足のスネ毛の悌毛。
髭剃り用の電気シェーバーじゃあ、長い毛は剃れないことを教えてあげると、生まれてから一度も電気シェーバーでヒゲを剃ったことがないという彼女は大げさに喜んで話を聞いてくれる。若い女性が電気シェーバーでひげを剃ったことがないというのは、当たり前のことなんだろうが・・・・・・。
入院してから、若いナース達といかに話をしようかと悩みを感じていたのだが、こんなつまらないぼくの話でもちゃんと若いナース達は聞いてくれる。まだまだ日本は、捨てたものじゃない。

そして、手術用の寝巻きに着替えさせられ、手術室から呼び出しがあるまで待機。この待ち時間が長く落ち着かない。手持ち無沙汰の時間に、押しつぶされそう。
家から持ってきた文庫本のうちの1冊を読んでいると、ようやく呼ばれた。いよいよ手術だ。点滴スタンドをベッドの支柱に差込み、ぼくはベッドに寝たまま長い病棟の廊下を手術室に向かって運ばれていった。廊下ですれ違う人たちに励ましの声をかけられ、Vサインで答える。昼前に手術の立会いに来た家人が、心配して後ろからついてくる。
ベッドを押してくれている一人は、ぼくの看護計画を作ってくれたあの憧れのマドンナだった。彼女は手術室に消えるぼくに笑顔で手を振って見送ってくれた。もう、心残りはない。死んでも良い。
よく映画で手術の際に医者が患者に名前を訊ねるシーンを見かける。よく見るのは麻酔が覚めて、患者の意識が正常に戻ったかどうかを確かめるために名前を訊ねるのだが、ぼくは名前を聞かれたら、覚えたすべてのナース達の名前を言ってやろうと決心していた。
つまらない冗談で場が受けてくれるから、そんなことで手術の現場がリラックスしてくれればと思ったのだった。
無菌のための厳重な空調を施した2重のドアの手前が開けられた。いよいよシャバのおいしい空気とはしばらくのお別れだ。