愛は奇跡(8)

オードリーは、迎えに行ったカルロスとともに午後2時にダイブ・サイトへ到着した。その時も、ピピンはまだ水の中だった。彼女はダイブ・サイトに集まったギャラリー達がわずらわしそうだったが、カメラににっこりと微笑みかけた。彼は水から上がると彼女にキスした。
＜順調かい？＞
＜Yes＞
彼女は答えた。＜もう競技が始まっちゃったかと思ったわ＞
＜もう一回ウオームアップしよう＞彼が提案する。
彼らは大きく息を吸い込むと、一緒に潜り3分程度水中で息をこらえた。
浮上して、彼は再び彼女にどんな感じか聞いている。
＜グレート＞彼女は答える。  
彼女は落ち着いており、体調は万全だった。その一方で、ピピンは神経質になっていた。彼は彼女にキスをする。
＜浮上したら、もう一度キスするよ＞彼はささやく。
＜今のキスと違うのは、君が世界記録を更新して歴史を変えることだけさ＞
＜いいかい？＞彼は聞いた。
彼女はその問いに答えず、微笑を浮かべると水平線に注意を集中させた。彼女はより深くそしてより力強く呼吸を繰り返し始めた。  
カルロスが＜5分＞と告げる。
パスカルと太っちょで陽気なキューバ人のウィキィともう一人のセフティ・ダイバーは、それぞれの配置に着くため水面下に消えた。運命のダイビングが始まった。彼らは今、厳密なタイム・スケジュール下にいるのだ。もう、後戻りはできない。  
ピピンは、カウントダウンの終わりの方で、オードリーを見る。彼女は力強く最後の息を大きく吸うと、ピピンに向かってうなずいた。ピピンは、スレッドのリリース・コードを引く。そして、オードリーを乗せたスレッドは沈降を開始した。