休みを利用して、新潟と長野の境界線近くにある集落にいってきた。
「ヤマゴボウ」と地元の人が呼んでいるオヤマボクチという植物を乾燥させてつなぎ
にする蕎麦は、のどごしがよく、冬は豪雪で交通の便もわるい地でもあり、「幻の蕎麦」
と呼ばれている。難所だった峠にトンネルができ、昭和から平成に変わるあたりから、
4件のお店が開店。といっても、一軒が小学校跡地にあり、ほかの三件は民家
を解放した食堂。その一軒の「◎◎食堂」という名のお店にお邪魔した。
朝10時開店。10分前に玄関の前に車をとめ、あきき放たれた玄関先で「ちわっす」と声を
かけても、返事がない。玄関にはつばめの巣があるので、たぶんいつも開け放っているのだろう。
表でおいしい信州の空気を吸いながら、自彊術体操をやっていたら、近くの森?の中から
元気なおばあちゃんの声がした。「今からおすぐに下りていくから、勝手にあがってまってけろ。」
いいね。たぶん開店して25年、こんな自然な接客で蕎麦を供してきたのだろう。
田舎のおばあちゃんの家に遊びにきた感覚で家にあがり、窓際のテーブルに坐る。
5分くらいして、元気な「みよき」ばあちゃんがもどってきた。ニコニコしながら「今日はわしひとり
だから、ちょっともたもたするかもしれんけど・・」とかいうようなことを地元言葉でのたまう。
「いや、かまいません」といい、「そばと酒」を所望。このお店は蕎麦をたのむと、待つ時間
に5皿の前菜がでてくる。きゅうりのつけもん、たくあん、とまとを切ったもの、蕎麦の薬味のねぎ、
5皿目が「やたら」。やたらは、きゅうり、にんじん、みょうが、だいこんの糠味噌などを刻んで混ぜ合わせた
もの。酒の酒肴にいいし、蕎麦の薬味としても身土不二の極みのような滋味あふれたものだ。
よたよたしながら、みよきおばあちゃんが、「てぼんでごめん、こぼすなよ」と叫びながら、キリンビール
と印刷されたコップにお酒を並々いれて、受け皿といっしょにもってきてくれた。お盆を使わず、その
まま手でもってくることを、「手盆」という。なんとも奥ゆかしい日本のおもてなしを、奥深い山村で受けた。
そばは、おばあちゃんが3m近くある「のし棒」を使って、畳の上にシート(新聞?)の上で打つ。
京都にいるころから毎年のように信州を旅して、蕎麦もいろんなお店で食べてきたけど、「源流」
の一滴に出会ったような「食堂」やった。そばの一粒一粒、酒の一滴一滴・・・みな粒々皆辛苦の結晶。
あまりに酒がうまくて、もう一杯頼むと、また奥のほうから
「てぼんでごめん、こぼすなよ」と叫びながら、おばあちゃんがニコニコしながらやってきた。天恩感謝。
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