MITIS 水野通訳翻訳研究所ブログ

Mizuno Institute for Interpreting and Translation Studies

"a"はあった

2007年11月29日 | 雑想

心覚えに。1969年、アポロ11号の月着陸船のラダーから月面に降り立ったとき、ニール・アームストロングは"That's one small step for man, one giant leap for mankind."と言ったとされた。非文法的かどうかは微妙なところだが、これではWashington Post紙の言うように"One small step for mankind, one giant leap for mankind."という意味になってしまう。しかし、アームストロング自身はmanの前に"a"を入れたと言っており、NASAの公式記録は"That's one small step for (a) man, one giant leap for mankind."になっているという。ところが、去年の9月の話なのですでにご存じの方もいるかも知れないが、オーストラリアのPeter Shann Ford という研究者が音声編集ソフトを使って、実際にアームストロングの発言中に"a"があったことを発見した。発声時間は実に35ミリセコンドであり、聴取可能持続時間の10分の1であったという。今年亡くなった西山千さんは、"a"が聞こえなかったため、前半を抜いて「これは人類にとって大きな一歩です」と訳した。(訂正します。「これは人類にとって小さな一歩です」だったようです。前半だけを訳したんですね。)ご本人は「いやあ誤訳ですねえ」というようなことを言っていたが、聞こえないことがわかったこと自体すごいことである。並みの「一流」通訳者だったら、聞こえないはずの"a"を「幻聴」して正訳をしていたかもしれない。ただしFordの説に関しては論争がある(このサイトでは実際の音声も聞くことができる)。それはともあれ、Times OnlineのOne small word is one giant sigh of relief for Armstrongという見出しが楽しい。

 


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