MITIS 水野通訳翻訳研究所ブログ

Mizuno Institute for Interpreting and Translation Studies

同時通訳支援システム'is'

2008年10月20日 | 通訳研究

㈱パワーシフトというところから大変面白い情報をいただいた。「通訳者支援システム'is'」というソフトウェアの紹介メールである。ニュースリリースはこちら。詳細はわからないが、この9月に日本音響学会で東京大学と共同で研究発表した際のPPTを見ると、どうやらスピーチのスピードが速いところや数字、固有名詞が集中するような情報密度の高い箇所で、通訳者の聞く発話のスピードを緩めて(あるいは録音してある部分を再生して)通訳者が確認しやすくするということのようだ。録音したスピーチをピッチを下げずにスローにするソフトやハードはすでにあるが、これを同時通訳の現場で使えるようにしようということだろう。通訳者自身がPCを操作しながら通訳する。極端な話をすると、スピーカーがずっと先に行っていても、通訳者は少しも慌てず悠然と通訳を続けることもありうる。実際の同時通訳でも、原稿がある場合はそういうことが起きることがある。ただしその場合、通訳者はスピーカーがどこまで行っているかを聴覚的・視覚的に確認することができる(確認しながら訳出している)。しかしこのソフトウェアを使っているとその確認は難しいかもしれない。というのも、通訳者はオリジナルの音声はおそらく無視して、録音された音声に頼るだろうからである。

そこから派生することだが、次の問題は先ほどのPPTでも指摘しているように、訳出時間が長くなることだ。(従来の手法の2倍以上かかったと報告されている。)今後の課題はこのあたりをどう解決できるかだろう。聴衆の反応も無視できないからだ。これまでは情報密度が高い箇所の対処法はもっぱら通訳者の技量と工夫に頼っていた(もちろんパートナーの協力もある)が、この支援システムが洗練されれば確かに通訳者の負荷は軽減される。逐次通訳ではすでにご存じの方がいるかもしれないが、「逐次=同時」通訳(ICレコーダーで録音したスピーチセグメントを再生しながら、通訳ノートもみながら「同時通訳」するという逐次通訳。通訳者はスピーチを2回聴けるという利点がある)の試みがある。なおこのソフトウェアの体験版は㈱パワーシフトのサイトからダウンロードできる(但し動作環境がOS:Windows Vista・XP; HDD:30GB以上; メモリ:1GB以上; CPU:Pentium4 2GHz以上; サウンドカード:HD_Audio搭載カードという条件なので自己責任で)。


最新の画像もっと見る